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九尾の狐、 監禁しました  作者: 八神響
第4章 九尾の埋蔵金編
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第133話 忠告

「『七福神』ってぇのが奴らの名前です。由来は名前のまんま、七福神からですね。福の神にあやかって付けただけの名前なだけで、それ以上の意味はありやせん。構成人数だって別に七人ってわけでもないですしねぇ」


 ハクが残している財宝を手に入れるべく、一行は鬼川の車で栃木県に向かっていた。

 運転席には鬼川、助手席には純、そして後部座席には左から尾崎、ハク、大黒、刀岐の順番で座っていた。


 車や車内の人間にはハクが術をかけており、傍目からは軽トラックに成人男性が一人乗っているように見えている。

 逃げるのにも慣れている九尾の狐が施した迷彩は感知に長けた陰陽師であろうと用意に見破れるものではなく、しばらくは襲撃の危険もない。それならば今のうちに敵になりそうな目ぼしい陰陽師の情報を聞いておこうという話の流れになったため、業界に一番詳しい刀岐に話が振られた。


「それってさっき俺を襲ってきた奴らの名前か? 味方になるかもしれないんだし、そいつらのことは一旦置いててもいいんじゃ……」

「いえいえ、味方になるとしても知っておいて損はないでしょう。なんと言っても傭兵界隈一の曲者揃い、正直あっしは敵にも味方にもしたくない相手ですから」

「変わった奴らではあったな。チームワークがあるのか無いのか分からない。だけどそれでも……」

「強いことだけは確か、でしょう?」

  

 大黒が言おうとした言葉を刀岐が引き継ぐ。


「実際はね、珍しいんですよ。奴らみたいな実力者が手を組むのは。実力に恵まれていない傭兵同士が一緒に仕事をするのはよくあることですが、一定以上の実力がある傭兵は一人で仕事をしても充分以上に食ってけますからねぇ」


 刀岐は親指と人差し指を丸く繋げ、かねのマークを作る。

 その手の話は大黒も昔の学校に通っている時に聞いたことがあったので、『あー……』と言いながら頷いていた。

 

「そのせいで余計に協会には弱い陰陽師しか入ってこないって話はよく聞くな。実力さえあれば協会に入らない方がよっぽど儲かるとかなんとか」

「とは言うものの安定性や福利厚生を考えるなら協会に所属してる方がお得ですけどね、派閥争いだけは御免被りたいですが」

「まあ公務員みたいなもんだしな。……それでもあんな陰湿なところ俺は百害あって一利なしって考えてるよ」


 大黒は吐き捨てるように言った後、口に手を当てて反省するように項垂れた。


「悪い、脱線した」

「いえいえ、こちらこそ。それで本題になりやすが、実はと言うとあっしも一時期七福神のメンバーだったことがあるんです」

「マジでか!」


 大黒は目を剥いて驚きながら、自分が戦った七福神の中に刀岐がいる姿を思い浮かべる。


「うーん……、思ったよりも違和感はないな。強さに関してはもちろん、刀岐ならあいつら相手でものらりくらりと躱してやっていってそうだし」

「あっしがいたのは一ヶ月だけでしたが、旦那の言う通り居心地は悪くなかったですね。メンバーとは言っても七福神は誰かが大きな仕事を見つけた時に必要な人員だけが集まる形式でしたし、しがらみもありやせんでした。ですがねぇ……、肝心なとこではどうにも反りが合わなかった」

「肝心な所?」

「ええ、ええ。奴らはね、何よりも金が大事なんです。実力と金への執着が入団条件なのでそうなるのも自然なんですが、度が過ぎているんですよ。仁義も何も持ち合わせちゃいない、十年来の友人だろうと肉親だろうと恩師だろうと金のためなら殺すことが出来る。そんな連中の集まりなんです」


 刀岐は苦笑いを浮かべながら、七福神の内情について話す。

 それに対し一番憤りを見せたのは意外なことに運転中の鬼川だった。


「何すかそれ! 仁義や礼は人としての基本でしょうに!」

「あえて智を抜いてるところに潔さを感じるな……」


 善悪を判断する知恵は特に重要視していない鬼川に大黒は呆れた声を出す。


「でもよくそんな欲深い奴らがまとまってられるな。内輪揉めで解散とかしそうなのに」

「実際何度か揉め事はあったようですがねぇ。それでも団体としての名目が保たれているのはリーダーのおかげなんでしょう」

「リーダー……、まあ、そりゃいるか。あんな奴らをまとめ上げてるなんて色んな意味でまともな人間じゃないんだろうな」

「そうですねぇ。死んだり抜けたりで人の入れ替わりが激しい七福神って団体で、創設の頃からずっとリーダーを務めてる。そんな人間ですからねぇ」

「あー、嫌だ嫌だ。味方に出来そうな状況だからまだいいけど、出来るなら一生会いたくない人種だな」 

 

 刀岐の例を見るに、七福神という団体は抜けるのに関しては特に苦労がない。

 それなのにずっと抜けることもせずに、金を至上とする場所で危険な仕事もしながら生き残り続けている。

 平穏無事に生きていきたい大黒にとって、自分とは真逆のその存在とは関わることも避けたい相手であった。


「……旦那や皆さん、過ぎた忠告かもしれませんが一応言わせてもらいやす。奴らに仲間意識なんてもんはありません、あるのは金を稼ぐという共通意識だけです。ここで味方に出来たとしても背中には常に注意をしておいて下さい。奴らの利から外れれば、どれだけ仲よさげにしていてもすぐにこちらに刃を向けてくるでしょう。それを努々お忘れなきよう」


 刀岐は低い声で車内にいる人間に注意を呼びかける。


 その場を経験してきた刀岐の言葉を軽んじる者はそこにはおらず、刀岐の忠告にそれぞれが頷くなどして同意を見せる。 

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