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九尾の狐、 監禁しました  作者: 八神響
第3章 壊れゆく日常編
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第117話 襲撃

 午後十時過ぎ、バイトが終わった大黒はいつも通り万 なことが起こったが、それ以降も大黒はこの道を変わらず使い続けている。

 理由の一つは純粋に近さのため。ここの河川敷を通ると通らないとでは自宅に着く時間が十五分は遅れる。

 文字通り一刻も早くハクに会いたいと常に考えている大黒にとって、その十五分は我慢のならない時間だった。


 そしてもう一つの理由は、酒呑童子と戦うためにここを利用した時と同じで人通りの少なさにあった。

 まずもって大黒は人混みというのが嫌いである。毎年京都で行われている三大祭レベルの人混みはもちろん、大学の文化祭程度の人混みも全力で避けているくらいの筋金入り加減だ。

 大黒が帰宅する時間はいつも夜遅くとはいえ、道によってはまだまだ人が活動している時間である。

 この道はそれらの喧騒から遠ざかるためにもとても都合が良かった。すれ違う人間は多くて二人か三人、今も大黒の目で見える範囲には河原で寄り添っているカップルくらいしか人はいない。

 この静けさを感じる時間は、一日の中で大黒が最も好む時間の一つであった。


(なんだかんだ今日も平和な一日だった……。一人だけ妙な客はいたものの、特に実害があったわけでもなかったし。むしろ店の売上的にはあの人のおかげでいつもよりも相当良かった。五十万の皿をぽんっと買っていくとか変な殺気とか関係なしに只者じゃない。どこの富豪だよ)


 帰り道、大黒が主に考えていたのは昼間に来た女性客のことであった。

 見た目のインパクトはもちろん、その後の言動、行動全てが何かしら特徴的だった彼女のことが頭から離れないのは人としてとても自然なこととも言える。


(見た目がよくて、金もあって。しかも多分そのどっちもが、普通の人じゃ一生かかっても手に入れられないレベルのものを持ってる。一体どんな人生を送ってきたんだか。金を稼いだ方法だけでいいから教えて欲しい)


 そんな益体もないことを考えていたら、大黒の前方から一人の少女が歩いてきた。

 俯くと目が完全に隠れてしまうくらい長い前髪、上から下まで一分の隙もなく

真っ黒な服。

 存在感も薄く、そのまま闇夜に消えてしまうのではないかと不安になってしまう出で立ちだった。

 しかし逆にそれは、こんな人のいない暗がりで会ったら目が離せなくなる不気味さであった。

 大黒も例外ではなく少女が目に入った瞬間から自分とすれ違うまで、他のものには目もくれず大黒の視線は少女だけを追っていた。


 そしてちょうどすれ違いざま、少女は大黒に向かってふらふらと倒れてきた。


「っ、おっと……。大丈夫か?」


 反射的に少女を受け止めた大黒は、少女に意識があるかを確認するため声をかける。

 だが少女は返事をすることはなく、ただ大黒の服の袖をギュッと握ってくるだけだった。


「はー……、何だっていうんだ。せっかく穏やかな時間だったのに、この場所は変な磁場でも発生してるんじゃないだろうな……っと!」

「っ!?」


 大黒は気だるげに愚痴を呟いていたかと思うと、寄りかかってきていた少女を抱きかかえて後方に放り投げた。

 大黒の行動に驚いたのは少女本人、と他に後二人。


「はぁ!? 何考えてんの!?」

「くそがっ!」


 大黒の背後にいたその二人は放り投げられた少女を受け止めて地面に下ろした。

 少女を受け止めた男女の二人組、二人の手には大振りのナイフと細長い針という、人を殺すのに十分な武器が握られていた。


「物騒だなぁ。最近のカップルはそうやって人を襲うのが流行りだったりするのかもしかして」


 大黒は数歩下がって相手との距離をとる。

 

 眼前にいるのは先程河原に座っていたカップルと黒服の少女。武器を持っている二人もそうだが少女も射殺すような目で大黒を見てきており、三人とも大黒に対して殺意があることは間違いなかった。


「……ちょっと、なんか聞き捨てならない単語が聞こえたんだけど」

「あぁ? それでなんで俺の方睨むんだよ。なんか言ってたのはターゲットの方だろうが」

「そういう関係って勘違いされたのはあんたの振る舞いのせいでしょうが。だからあんたが責任持ってカップルなんかじゃないって弁明しなさいよ」

「ふざけんな! つーかそういう作戦だっただろうが最初っからよぉ! こっちは頑張って恋人のふりしようとしてんのにお前が駄々こねるから余計面倒だったし、その上で更に面倒なことさすんじゃねぇよ!」

「私はこの作戦嫌だって言ったじゃない! それなのに皆が押し付けてくるからやってあげたの! けどあんたはベタベタ触ってくるし、奇襲も失敗するし……挙げ句の果てには面と向かってカップル扱いされるし! こんなの文句も言いたくなるわよ!」

「こっちだって触りたくて触ったわけじゃねぇ! お前が滅茶苦茶離れようとするから逃さねぇようにしてただけだ! それにあいつからカップルだと思われてたんなら作戦は上手くいってたってことじゃねぇか! それなのにごちゃごちゃ言ってくんな!」

「ああもうっ! うるさいうるさい! どうせカップルに見られるんならあんたなんかじゃなくて葉桐さんとが良かったわ!」

「あいつは女じゃねぇか!」


 大黒を放って勝手にヒートアップしていくカップル(に見えた)二人。


 こんな展開は大黒も予想しておらず、ただただ二人を眺めて困惑してしまっていた。

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