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九尾の狐、 監禁しました  作者: 八神響
第3章 壊れゆく日常編
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第101話 相談

「そうも大人の反応をされるとこっちもやりづらいんですけど……普段身近にいる相手が相手なだけに……」


 大黒は普段自分の周りにいる相手のことを思い浮かべる。

 大黒が今のような言葉を発した場合、ハクなら酷い罵倒が返ってくるだろうし、純なら全力で乗っかってくるだろうし、相生なら勢いよく突っ込みを入れてくる。

 そんな三人と比べて万里は、ただ大人の余裕を持って大黒の冗談を受け止める。

 そう対応されては大黒としてはもう恥ずかしさしか残らなかった。


「大黒くんの周りは元気な子ばっかりなんだねー。それとも最近の子は皆そうなのかな?」

「そんなん言うほど店長も年離れてないでしょう。確かまだ三十いってるかいってないかくらいじゃありませんでしたっけ?」

「妙齢の女の人に年齢の話をするなんて……、やっぱり大黒くんの日頃の行いは良くないみたいだねー……」

「今のもアウトラインなんですか!? どっちかと言うと年齢の話はそっちから振られた気がするんですけど!」

「冗談冗談ー。まあ大黒くんがどう感じてくれてるにしても私の方が年上なのは事実なんだし、年長者として迷える若者は導かないとねー」

「……ありがとうございます。確かにどうにも困ってるんですよね。それというのも店長が言うところの最近の元気な子、その中にちょっとした問題を抱えてる奴がいまして」


 大黒は後頭部を掻きながら首を右に傾ける。


「問題? 家庭環境とかー?」

「……家庭環境とはまた違いますかね。まあ問題がそいつの自宅の中で起こってるっていう点では一緒ですけど」

「うーん……、詳しくは話せない感じー?」

「そう、ですね。あまり言いふらすことではないので」


 大黒は苦い顔をして口ごもる。

 大黒が現在抱えている悩みのほとんどは妖怪絡みのことであり、妖怪が見えず、その存在を架空のものと思っている万里に詳細を話すわけにはいかなかった。


「じゃあ問題についてはこれ以上聞かないけどー……、大黒くんは何に対して悩んでるの? その問題を自分では解決できないからー?」

「いえ、一応解決自体は出来る案件なんですよ。たった一つの壁さえ乗り越えれば後は俺が全てをどうにか出来ます。ただその壁を乗り越えるにはどうすればいいか……っていうので最近はずっと悩んでるんですけど全然良い案が思い浮かばなくて」

「最終的には絶対になんとか出来るって自信があるなら、ちょっとくらい無理やり壁を乗り越えてもいいと思うなー。ちなみにその『壁』ってどんなことなのー?」

「………………実家暮らしの同級生の家に一晩泊まることです」


 大黒がそれについて話した瞬間、店の中に重たさを感じるほどの静寂が流れる。

 その静寂を破ったのは硬い笑顔になった万里の方だった。 


「……確認のために聞いておきたいんだけど大黒くんの同級生って男の子? それとも……」

「誤魔化しても変な感じになるので明言しておきますが、女子です」

「……その子と大黒くんの関係って」

「彼女とかなわけでもなく、普通に友達です」


 二つの確認をした後、万里の笑顔はさらに硬くなる。

 そして硬い笑顔のまま、万里は机の上に乗ってある大黒の右手を自分の両手で包み込み、優しい声色で大黒に語りかけた。


「大黒くん、若い男の子がそうなるのは仕方がないけど、さすがに彼女でもない女の子の実家に襲いかかりに行くのは……ごめんね、言い間違えた。押しかけに行くのはあんまりよくないことだと思うなー。何事もちゃんと段階を踏んでからいかないとねー……。それにそういうのは然るべき場所っていうものが……」

「店長からの信頼が想像以上に低いってのはよーく分かりましたからそれくらいにしといてくれません?」


 大黒は真っ直ぐに目を見つめて諭してくる万里を止める。

 万里も先程のように冗談で言っているわけでもなさそうな上に、大黒の膝に座っている小鉢まで非難がましい目で見てきている。

 そんな二人の誤解を解くために大黒は言葉を付け足すことにした。


「そうやって店長みたいに捉えられる危険があるから無理やりにもいけないんですよ。誓って言いますが、俺は決して店長が考えてるような目的のためにそいつの家に行こうとしてるわけじゃないんです。俺には心に決めた人がいますし」

「……もしかして、その心に決めた人って私のことー?」

「違いますけど!? いや、こんな全力で否定するのも失礼かもしれませんけど断じて違います!」

「でもー、一つ屋根の下で何年も一緒にいるわけだし、そんな感情を持たれてても不思議じゃないかなって」

「店内で働いてることを同棲してるみたいに表現しないで下さい! 店長にそんな目を向けたことは一度だってありません!」

「そこまで言われるのもちょっとショックかもー」


 万里は頬に手を当てて目線を下に向ける。


「あ、いえ、ほら、店長はもちろん美人なんですけど、そんな店長と一緒にいても心を動かされないくらい俺は一途なんですよ。だから女友達の家に行きたいっていうのも決して変な目的じゃなくてですね……」

「そんな慌てなくても大丈夫だよー。さっきはびっくりしてちょっと勘違いしちゃったけど、大黒くんがそんな子じゃないっていうのは私も分かってるしー」

「あの疑いようを考えたらとてもそう思えない……」

「あはは、そこは置いといてー。大黒くんの悩みはどうしたらその子の家に忍び込めるかだっけー?」

「別に忍び込む一択じゃないです。どうしようもなくなったらそれも選択肢には入りますが。でも出来れば正面から、店長みたいに勘違いもさせず健全に家に招かれたいんです」

「うーん……、そうだねぇー……」


 万里はパキっと音を立ててクッキーの欠片を口に入れる。

 そしてクッキーを咀嚼しながら、しばし考え込む姿勢を取る。

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