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九尾の狐、 監禁しました  作者: 八神響
第3章 壊れゆく日常編
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第100話 休憩

「……小鉢、店長が危なそうなら店長の方に行ってもらってもいいんだぞ?」

「…………」


 大黒が領収書整理を始めると、小鉢は再び大黒の所に戻ってきた。

 大黒は遠回しに小鉢を離れさそうとするが、小鉢はブンブンと首を振って離れようとしなかった。


 小鉢は大黒に懐いてからというもの、大黒が出勤するとすぐに大黒にくっつくようになった。

 万里に危険が及びそうになったら万里の側で万里を守ろうとするが、それ以外の時は大概大黒の近くにいる。


 そして座敷わらしという妖怪の特性か小鉢が言葉を発することは無いが、大袈裟とも言える身振り手振りで大黒とコミュニケーションを取っている。


「小鉢、遊びたいっていうのは凄く伝わるんだけど流石にキャッチボールは無理だ。多分道具もないし、広めの空き地があるわけでもない、なんなら俺には片手がない。それに温厚が過ぎる店長だけどバイトさぼって遊びに行ったら確実に怒るだろ」

「! ……! っ!」

「え? 絶対大丈夫? クッキーが焼けるまで後十五分くらいあるからその間に? いやいやその十五分で客が来るかもしれないしさ。キャッチボールなら今度バイトがない日にでも頑張って付き合うし、今日は大人しくクッキーが焼けるのを待っとこう」

「……………………」

「すっごい不満そうな顔するけど無理なものは無理だから諦めてくれ」

「大黒くーん、クッキー焼けたから食べに来てー」

「十五分っていうのも嘘かよっ! 小鉢っ!」


 大黒は自分を騙して遊びに出そうとしていた小鉢を怒ろうとしたが、大黒がそれ以上言う前に小鉢はピューッと走り去っていってしまった。


「大黒くーん?」

「……はーい、今行きまーす」


 店の奥にある居間からひょっこりと顔を出して大黒を呼ぶ万里、そしてその万里の背中からこそっと顔を出す小鉢を見て、大黒はすっかり毒気が抜かれてしまう。


 大黒は一旦手に持っていた領収書を軽くまとめて机に置き、万里達の元に向かう。そしてすっかり定位置となっている椅子に腰掛けると、膝の上に小鉢が乗ってきた。

 それも二人にとっては既に日常茶飯事いつものことであり、大黒は特に気にせず向かいに座っている万里に頭を下げる。


「すいません、お待たせしました」

「大丈夫よー。それじゃあ大黒くんも来たことだし食べましょうか、召し上がれー」

「はい、いただきます」


 大黒は手を合わせて挨拶をすると、お皿に乗せられているクッキーを一つ摘んで口に入れる。

 小腹の空いていた大黒の手は止まること無く、クッキーを次々と自分の腹に収めていく。そんな大黒の様子を見て、万里はニコニコしながら用意していた紅茶に口をつける。


「大黒くんはいつも美味しそうに食べてくれるから作りがいがあるわねー」

「美味しいもの食べたら美味しそうにするのは当然でしょう。高いバイト代も貰って、その上こんな美味しいものも食べさせて貰えるなんて世の苦学生達に知られたら良くない恨みを買ってしまいそうですよ」

「もー、そんなに褒めたって紅茶のお代わりくらいしか出せないよー?」

「まだほとんど口もつけていませんし、もしお代わりするとしても自分でやるんで店長は座ってて下さい」

「そんな……私はもう用済みってことー……?」

「な、泣きそうな顔でこっちを見ないで下さい、店長にそういう反応されると俺に被害が……痛っ!」

「どうしたのー?」

「い、いえ、何でも」


 大黒は鳩尾をさすりながら万里に苦笑いを返す。


 大黒のうめき声の原因は膝に座らせている小鉢にあった。

 小鉢は万里が危ない目に遭いそうになったり悲しい顔をしたりすると、能力や暴力を使ってその原因を取り除こうとする。

 今回の場合は自らの後頭部で大黒に頭突きをすることで事態の解決を図ろうとした。

 万里の表情が本気でないことは理解しているし、大黒が悪者で無いこともわかっているのだが、座敷わらしとしての本能が小鉢にそうさせてしまっていた。


(……子供の見た目してても妖怪なだけあってそこそこ痛いな。能力を使われないだけ百倍ましだからいいけど、不意打ちは結構堪える……)


 痛みに耐えている大黒の鳩尾を今度は小鉢が申し訳無さそうな顔をしながら擦っていた。

 小鉢もほぼ無意識的にやっていることなので、自分がやったことに気づいた後はいつもこうしてケアをしてくれていた。その度に大黒は、仕方ないといった風にため息を付く。

 そこまでが一連の流れのようになっていた。


 そしてそれをいつも見ている万里は、


「……大黒くんってたまにそうやって私じゃない誰かとコミュニケーションを取ってるように見えるけど、この家って幽霊とか住んでるのー?」

「はっはっはっ、そんなわけないじゃないですか。大体住んでたとしても俺が見えるはずもないですし」

「んー……ならいいけどー……」


 色々と納得のいっていない表情をする万里だったが、それ以上聞いても大黒が『何か』を明かすことはなさそうだったので話題を切り替えることにした。


「じゃあ別のことを聞くけどー、最近困ってる事とかってないー? 私で良ければ相談にのるよー?」

「……俺ってそんなに顔に出てます?」

「んー、わりと? 少し前よりは明るい顔をするようになったとかも分かるくらいにはー?」

「要するにバレバレってことですね……。店長の言う通り悩み事はありますよ。一番の悩み事は自分の中で折り合いがついたのでいいんですけど、どういうわけか次から次へと悩み事が増えていきまして」

「日頃の行いが悪いんじゃないー?」

「なんてことを言うんですか、俺ほど品行方正に生きてる人間も他にいないというのに」


 おどけて言う大黒に万里は優しい微笑みを返すだけで特に突っ込むことはしなかった。

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