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悪役っぽい冷血令嬢と一人の青年の物語

悪役っぽい冷血令嬢と一人の青年の物語  婚約破棄騒動の原因は未熟な王子様

作者: デューク


わりかし重たいシナリオだと思います。


今回も終わりハッピー?のつもりです。


楽しんでもらえれば幸いです。









私は、浅はかだった。後悔ばかりが頭の中を埋め尽くす。

こんなことになるなんて…





―学園のパーティ会場―



「ならば、この場所、この時をもって、アインツ・セレスティンヌは、ユリシア・ロイドとの婚約を破棄させていただく。」


そう冷たい声で私は宣言した。


私はアインツ・セレスティンヌ。このセレスティンヌ王国の王子である。

彼女は表情はこんな事を告げられても表情一つ変わらない。

目の前にいる、髪が長いストレートの銀髪で、冷たく青い瞳の女性がユリシア・ロイドだ。

そして血が通ってるかわからないほど真っ白の肌をしているからか「氷血の人形姫」と呼ばれていた。

幼い頃に将来の契りを交わした仲でもある。

今回の騒動は、今私の後ろにいるネル・フィリアとユリシアとの関係である。




最初にネルと会ったのは、入学式の時だ。

黒くてショートの髪をして、紅い瞳を涙でにじませている彼女がいた。

なんでも寮を探して迷子なってしまって途方に暮れていたそうな。

彼女を寮まで案内している途中だった。



「ごきげんよう、アインツ殿下。今日も素敵な日ですね。そして貴女は、はじめまして、わたくしはロイド公爵家の長女、ユリシア・ロイドと言います。」

「あぁ、ユリシアか、ちょうどよかった。彼女はネル。女子寮まで連れて行ってくれないか?」

「はっ、はじめまして!私はネル・フィリアです!えーっと、フィリア子爵家の養女としてむかえられました」

「……、どうして子爵令嬢の貴方がアインツ殿下と手をつながれているのですか?」


ハッと気付いた彼女は手を離す。

そういえば、何もないところで転げてしまいそうになった彼女を助けるために手をとっていたのを忘れていた。


「すまない、こけそうになった彼女を助けた後、手を離すのを忘れていた」

「……、殿下。ここは色々な人の目がございます。軽はずみな行動は今後に大きな影響が出ますわ」

「すいません!おっちょこちょいな私のせいなんです」

「えぇ、そうでしょうね。今後は気を付けてくださいね」

「はっ、はい……、すいません。…気を付けます…」

ネルはとてもしょんぼりした顔をしていた。

「あー…、確かに不注意だったが、もう少し優しくはできないか?ユリシア」

「殿下、その肩には王国がのっているのです」

「すまない」


これが彼女たちの最初の出会いだった。




入学して数か月が過ぎたころだった。


偶々、学園の庭を通ろうした時に、ベンチで俯いているネルを見かけた。

何があったのだろうと彼女に近づいた。


「ごきげんよう、ネル。」

「……?!ごっ、ごきげんよう、アインツ殿下」

「浮かない顔をしていたけどどうしたんだい?君がそんな顔をするなんて」

「いっ、いえ、なんでもないんです。なんでも……」

「ネル、私たちは友達と言ったじゃないか。話せないようなことなのかい?」

「あー、えーと、その…」

彼女は言い難そうな顔をしながら話した。

「ユリシア様はどのようなお人なのですか?」

「ユリシアかい?うーん、そうだな、一言でいえば、完璧だな。対人以外」

「はい」

「文武両道で成績はいいんだが、……彼女は色々あってね。立場ということに拘りがある」

「そうなのですか」

「あぁ、加えて、私の婚約者でもあるから、次期王妃としての矜持もあるのだろう」

「そう……ですか……」

「彼女と何かあったのかい?」

「いえ、少し……気になっただけです」

「そうか。何かあれば言ってくれ。私が何とかしよう」

「ありがとうございます。殿下、心強いです。」


そういって彼女は太陽のような眩しい笑顔をしていた。



あの日から数日の事だった。


教室が騒がしい。何かあったのだろう。野次馬も多い。


「なにがあった?」

近くの人に聞いてみた。

「いや、ほら、フィリア家の女の子がいたろう?」

「ネルの事か?」

「あー、そんな名前だっけ?なんかロイド家の友人と揉めてるんだって」

「なに?!」


急いで喧騒の元へと向かった。

私に気づいた人達が次々と道を開けてくれた。

「なにをしている?!」

そこには泣いているネルとユリシアによくそばにいる三人の女性がいた。


「アインツ殿下?!……これは、その」

「何をしているかと聞いている」

「すいません、彼女、ユリシア様よりアインツ殿下のそばのいるので…」

「それは、彼女が私の友人だからだ。私も許可している」

「ですが、殿下!最近はユリシア様と全然御会いになられていないではないですか!」

「それは君たちには関係のないことだ」

「――ッ!」


「失礼いたします」


冷たい声が響いた。


「失礼します。ごきげんよう、アインツ殿下」

「ユリシア?!これは一体どういうことなんだ」

「そうですね、私の友人が失礼しました」

「おい!説明してもらえないか」

「恐らくは、アインツ殿下とわたくしとの関係を憂いてのことかと」

「私とおまえが婚約者だからか」

「えぇ、そうですね、殿下とわたくしは婚約者ですから」

「彼女は友人だ」

「存じ上げておりますわ」

「お前がしてはいないんだな?」

「えぇ、もちろん。ですが、わたくしの友人が無礼をお掛けし致しました」

「わかった、今後二度としないでくれ」

「えぇ、約束いたしましょう。…ネルさんも失礼しました」


「殿下、貴方は未来の王です。その言葉は剣と成る」


ユリシアは言った。その言葉の本当の意味を理解したのは、

取り返しのつかない決断の後だった。





学園に入って一年が過ぎた頃、

あれ以来、ネルとユリシアとの間には何も起こらなかった。


「殿下、やっぱりユリシア様はそんなことしないですよ」


彼はルイ・フォート。私の一番親しいともだと思っている。

亜麻色の髪をした、ネルと同じで紅い瞳。彼女が爛々とした目と表現するなら彼は温かな目をしているといえるだろう。

ルイはユリシアと私の関係をお似合いだと言っている。

私はユリシアの事が嫌いではない。

だが、彼女の事がよくわからなくなってしまっていた。

最初にあった時もわかりにくかったのだが、ロイド家の当主が正妻のなくなった数日後に女性を娶った

日から徐々にユリシアの顔は氷のように固まっていった。

御家の事情は根が深い。

お父様も下手に手を出せなくなっていた。



「まぁ、そうだな。ユリシアも人並みの心があるのと安心したよ」

「で、殿下?!それはあまりな言い分ではありませんか」

「いや、すまない。彼女は何かあれば公爵が、王子がというもんでな」

「当たり前です。殿下は未来の王。彼女は王妃になるんですから」

「そうだな、私よりしっかりとしているよ」

「えぇ、そうです。だから、殿下、どうかユリシア様をしあわせにしてください」


そんな談笑をしていた時だった。


ガタン!と、廊下に一際大きな音が鳴った。

こちらに頭を向けて仰向けに倒れているネルの姿を見つけた。

その奥側には、手を突き出して、ネルに覆いかぶさりそうな体制の女性がいた。

あいつ!たしか!


「大丈夫か!ネル!」

走りながら向かう。ルイと共に。

さっきの声にビクッと体を震わせた女性はこちらに気が付くと、

青ざめた顔をしながら、後ろ側へと体を引っ張られたようにへたりこんだ



「違う、彼女が……急に!……」

「おまえ!ネルに何をした!」

「ちっ、違うの!彼女、フラフラしてて、急に!」

「ルイ!ネルを保健室へ」

追いついてきたルイに呼びかける。

「わかった、すぐ運ぶ!」



彼女は、ユリシアの学友の一人だった。

「ユリシア……」

あいつは!また!

プチンと、何かが切れる音がした。



「違います!お願いです!殿下!話を!」

「……」

「彼女、ふらふらしてて、声をかけようとしたの」

「……」

「そしたら急に倒れそうになったから、手を伸ばしたの」

「その話を信じろと?俺には押し倒しているようにしか見えなかったけど?」

「本当です!手を伸ばしたけど届かなかったの!」



「殿下!殿下、ネルさんは無事運びました」

ルイがいつの間にか帰ってきたようだ。

「ルイ……か…」

「殿下?どうかしましたか?」

「あぁ、何でもない」

「ネルさんは……」

何か言ってるようだがよく聞こえない。

―信じたのに!信じようとしたのに!―

怒りが体を支配していた。



「すまん、今日はもう休む」

「えっ!殿下?急にどうしたんですか?」

「気分がすぐれない」

「一緒に行きましょうか?」

「いや、大丈夫。一人で大丈夫だ」

「そう……ですか……、相談乗りますよ」

「ありがとう、でも大丈夫だ」

そして、寮には戻らず、学園を後にするのだった。





―王宮にて―




「アインツ、その話は本当か?」

普段は色々な重役がいるのだが、今日はお父様一人だ


「残念ながら事実です」

「ふむ、ユリシアがねぇ?」

お父様は訝しげにこちらを見つめる。

「はい。手を出さぬと約束しました」

「アインツ、彼女は人を貶める人間ではないよ」

「しかし!現に!彼女の学友が!」

「押し倒したと?それをユリシアが?」

やはり、芳しくない表情だ。

「ふむ、おまえも我が息子だ」

「…」

「それが本当なら、一大事だ」

「…」

「最後に聞くぞ、それを事実とするのだな?」


どうなのだろう?あの時、彼女は何を言っていたのだろう?

これでいいのか?自問する


「アインツ、アインツ!」

「はっ、はい!」

「間違えました、では、すまないことになる」

「はい」

「では、聞こう。どうする」

「彼女との婚約を破棄したい」

「……いいんだな?」

「はい」

「ふぅ、わかった。それは彼にも報告を入れねばなるまい」


彼とはきっと、「冷血の忠犬」、ライン・ロイド公爵だろう。

いうまでもなく、ユリシアの父親だ。彼はその名の通り、冷たく、そしてぎらぎらとした目をした男だ。



「一週間後に、パーティーがあります」

「そうだったな」

「そこで改めて、聞いてみようと思います」

「それまでに、婚約破棄と彼との決断を書状で届けよう」

「はい」

「では、寮に戻りなさい」

「失礼します」

私は王宮を後にして、寮へと戻るのだった。


「おまえは消えぬ傷跡を背負うことになる」


王様は一人、誰もいない王宮でつぶやく。

まるで、結末を知っているかのように。







―パーティーの前日のアインツの部屋―




「な、なんだ!これは!」


私は驚愕した。


そこには、こう記されている


―この度、アインツ・セレスティンヌとユリシア・ロイドとの婚約を破棄することをここに記す。―

―ユリシア・ロイドはロイド家の一族として相応しくない―

―よって、婚約破棄と共にロイド家から追放を宣言する―


これが、彼女の処遇だった。


私は、こんな結末を望んでいたわけではない!


私は、浅はかだった。後悔ばかりが頭の中を埋め尽くす。

こんなことになるなんて…


思い出すのは彼女の顔だ。

表情の変わらない、まるで人形のようなその顔だ。


どうする?どうする?

ただ、ネルへの仕打ちを止めるだけだったのに。

ユリシアにも理解してもらいたかっただけなのに。



ふとユリシアの言葉を思い出す。

―あなたは未来の王。貴方の言葉は剣と成る―

いつも私の道を示し、諫めてくれていた。



思い出すのは、ルイの言葉だ。

―ユリシア様を幸せにして下さい―

彼はユリシアの価値と尊さ教えてくれていた。



気付かなかった。

いや、気付いていたのかもしれない。

私に認める勇気も、覚悟も足りなかった。

ユリシアの幸せを願いたくなる。

わたしには、もう、その資格はなかったことを。

今日、魂の奥底に刻んだ。


意識はそこで途切れた。





―パーティ会場にて―



「もう、後戻りできないな」

そう小さくつぶやく。


ネルとルイを連れて私はメインフロアに向かう。

辺りが静まり返る。まるで嵐の前のような静けさで。

そして、


「ユリシア・ロイド、私の前まで来てもらおう」

声が響く。

そして、かつ、かつと、一人分の足音が響く。

目の前に「氷血の人形姫」ユリシア・ロイドが来た。

銀色の髪を後ろで結い白馬のような気品をかもしだしていた。

サファイアよりも青い瞳はこの先の結末を見通しているかのように鋭く。

青空を衣にしたようなドレスと雪よりも白い肌がまるで幻想の世界に来たかと錯覚させる。

そして、ピリピリとした張り詰めた空気が部屋全体に広がっていた。


「ユリシア、おまえは公爵の名を借り、彼女を迫害した」

「何か申し開きはないのか?」

「わたくしは何ら御家に恥じることはしてないと誓いますわ。」

「そうか本当に残念だ。。。」



「ならば、この場所、この時をもって、アインツ・セレスティンヌは、ユリシア・ロイドとの婚約を破棄させていただく。」



辺りに動揺が走る。学生が、がやがやと声を広げていく。



「わかりました。きっと陛下も、そして、お父様も承認されたのでしょう?」

「あぁ、そうだ。そして、ネルが味わった苦しみもお前に知ってもらうつもりだ」

「それで?わたくしをどうのように扱うのでしょうか。」

「お前はロイド家として相応しくない、ロイド家の人間として振舞う事、ネルに近づくことを禁止とする」

「なるほど、そしてそのまま、学園を卒業しろと言うのですね」

「その通りだ、今、反省して謝罪を…」


―頼む、ここで何か、何か!―


「謹んでお受けいたします」

「するな…?!おい、ユリシア!正気か?!」


―おい、どういう意味かわかっているのか?―


「なにを驚いているのですか?殿下?あなたが決めたことでしょう?」

「う…、まさか、受け入れるとは…」

「えぇ、そうですね。殿下、無理にわたくしに付き合わせてしまい、申し訳ありませんでした。」

「待て、待て!今ならまだ謝罪して罪を軽く…」

「いいえ、謝るべきことが思いつかないので…」


より一層辺りが騒めきだす。彼女への非難の声が大きくなる。


「やっぱり、冷血なのね」「わたくし、こわいです」


ここで初めて気が付いた。彼女の目にあった。最後の光が、深淵の闇へと変わっていたことに。


「殿下、ごきげん…」

その時だった。


いつまにか、ルイが目の前にいた。ユリシアのほうを向きながら、


「失礼します」


私を見つめる。いつもの優しい目ではない。

今にも決闘を始めそうな強い瞳で、


「では、殿下?私がユリシア様へと求婚してもよろしいですか?」



辺りが騒めきだしました。


―本当にすまない。私はまた一人、大切な人をなくした―

―だが、ありがとう。君ならあるいは―


「うそ?!ルイ様が!」「なぜこのタイミングで!」


―なら、私は外道に墜ちよう―


「何を言ってるのだ!ルイ!こいつを庇うのか?!」

「いいえ、殿下。僕は散々言いましたよね。殿下にユリシア様と幸せになって欲しいと」

「そうだ!なんで急にユリシアの味方になるんだ?」

「殿下、僕は諦めていたのです。」

「何が言いたい?」

「僕は、ユリシア様を幸せにできるのは殿下しかいないからと、僕にはそこに立つ資格すらないからと」

「………」

「それなのに!こんな、こんな!・・・殿下、僕は今でもあなたを尊敬しています」


―そうか、まだ私の事を信じてくれいるのだな―


「なら」

「でも、同じくらいにユリシア様を愛しているのです!」


―君は強いな。やはり君はこの国で一番の騎士だ―


ルイはユリシアと向き合う

「もう一度、言います。ぼく……私とお付き合いお願いします、ユリシア様」

「お断りさせていただきます」


―なん……だと!―


「お気持ちは大変嬉しいですわ、ルイ様。ですが、もう私に構わないでください。そして、わたくしは、傷ついてなどおりませんのでご安心ください。気を使っていただきありがとうごさいます」

「違う!僕は…」

「これ以上無駄な時間はもったいないでしょう?ごきげんよう」


この後、まともなパーティなど出来るはずもなく、

皆、散り散りになっていった。




私は何を得たのだろう。

何が欲しかったのだろう。


そうだ。自己満足だ。

王になることへの不安だ。

圧倒的に足りない器。


あぁ、そうか。

わたしは王より、

ユリシアに。

彼女に未来の王に相応しいと認めてほしかったんだ。




いつの間にか私は寮にいた。

日差しが出ていた。時計を見る。

学園に向かうにはまだすこし早い。


今から行こう。学園に。

まずは、私の記憶の中にいるユリシアから認めてもらえるよう。



――ッ!

ルイを見つけた。一瞬目を疑った。

顔が痣だらけになっていた。歩き方もぎこちない。


「おい!ルイ!なにがあった!」

「ごきげんよう、殿下。いい朝ですね」

笑顔を浮かべようとする。とても痛々しい笑みだ。


「いや、派手に転んじゃって」

「嘘つくな!そんなわけないだろう!」

「えー、まぁ、殿下。すいませんが今回の事は何も触れないでください」

「……大丈夫なんだろうな?」

「傷も夜までに直しますので」

「?まぁ、いい、気をつけろよ?」

「心配をおかけしました」

そして、ルイは保健室で安静にと連れていかれた。



―教室にて―


「ユリシアさん、少し頭が高いのではありませんか」

「えぇ、ルイ様を袖に振ってよくものうのうと来れましたわね」

「ロイド家も王家の盾もなくて大丈夫ですか」


教室からそんな声が聞こえた。

―私のせい、…か。だが、聞こえたからには―


「何をしている」


静まり返る教室。ユリシアを見る。

前々からユリシアを敵視していた女性たちだ。


「殿下?!これは……」

「ユリシア……さん……これは一体」

ユリシアに尋ねた。


「……」

答えない。何も言わない。


「ユリシアさんは、私たちの事を無視しているのです」


小さな、気を抜けば聞き逃しそうな声で。


「……許可を……いただいていませんので……」


――?!教室が揺れた気がした。


「許可をいただいていないので」

「……どういうことだい?」

「失礼しました。この度、わたしは平民です。許可をいただかねば、無礼にあたります」

胸が痛む。彼女をここまで追い詰めたのか自分だと。

「わかった。では許可する」

「寛大な心、感謝で言葉が出ません。……では、僭越ながら申し上げます。寛大で優しく気品のあふれる貴族の皆様から私の立ち居振る舞い、現実を享受してくださっていたのではないかと愚考いたします」


部屋に冷たい空気が流れる。


「……すまない、今日、昼、屋上で二人きりで話がしたい」

「身に余るお誘いありがとうございます。もちろん、お受けさせていただきます」

「あぁ」


それから、誰も彼女に話しかける者はいなかった。



―そして、屋上で―



ユリシアがやってきた。ひざを折り、首を垂れる。

その姿に胸が痛む。


「面を上げていい、体も楽にしてくれ、ここには誰もいない」

すっと、立ちあがり、こちらを見る。

あのサファイアに見えた瞳は、深海より暗く重い色をしていた。

そして、一言もしゃべらない。本当に人か人形かわからなくなりそうだった。

「……発言も大丈夫だ、人払いもしてある」


教師に屋上にはユリシアだけ通してもらい、そして窓は全て閉めてもらった。


「多大な配慮、感謝いたします殿下。私に何をお求めになられているのですか?」

「ユリシア……君は、大丈夫なのか?」

「質問が大変難解ですが、私の現状に対する感想でよろしければ特にございません」

「なにも……ない?」

「はい、実家にいた頃から、一切変わらないと感じています」

「私や学友に対してもか?」

「?……」

「――ッ!君は私に対して道を教えてくれていたではないか」

「……?それは婚約者、延いては王妃になる契約でした。ですが、今の私と殿下は無関係というほかないではありませんか?」



驚愕の事実だった。それは、彼女の本質を垣間見る問答だった。

何もなかった。彼女はただそこにいただけだったのだ。

全も悪も感情も意思も誇りも何もない。

「氷血の人形姫」その言葉は、彼女を的確に示していたのだ。


「……今後、どうするんだ」

「はい、今、私は一つ約束事をしております」


ピクリと体が震えた。……もしかして、


「……相手はルイ……か?」

「さすがは殿下、聡明でいらっしゃられますね。そのとおりです。」

「ルイの怪我も君が?」

「はい、余りにも無駄話がすぎるので木刀での決闘を申し込みました。ルイ様は強かでしたね。あえて、降参したら負けという形で、滅多打ちにして心を折ったつもりでいましたが、……いやはや、あの姿でも降参しないのは流石に予想外でした」


絶句していた。ルイは強い。

私と同じくらい強く、勝敗いつも五分五分で、剣の師匠以外は負けたことがない。

つまり、彼女はずっと実力を抑えていたのだ。私にも気づかれないように。


「でも、驚きでしたわ。まさかルイ様、私が実力を隠していることに気づいていた。そして、勝負では勝てないことも計算済みみたいでしたから。」

「そして、一つ約束を聞くということで今日、ルイ様にお会いします。その後は……そうですね、きっとどこか知らない遠くにでもいくつもりです」

「ですので、殿下。私と会うのは今日で最後ですので、私の事は忘れて良い婚約者に会えるといいですね」

そう言って、こちらに向かってほほ笑む。

つらつらと言葉を流し吐き出す。


ぞわりと体中に悪寒が走る。まるで、怪物を目の前にして立ちすくような感じさえする。


「……殿下?おひとつ御聞きしてもよろしいでしょうか?」

のどが渇く。辛うじて出せた掠れた声で

「…な…んだ?」

「ルイ様今日、学園に来られていないのですか?」

「……保健室で治療中で夜までに治すと言っていた。……どうしてそんことを?」

「まぁ、良かったです。今日と約束しましたのでそれは守れそうなのですね」



これが、私の犯した過ちだ。

いや、きっとユリシアを受け止めことはできなかっただろう。

この罪を背負う事、それが今できることだと。

そして、忘れない。

彼女と親友の言葉を。
















時は経ち、卒業式も間近に迫ったある日の事







「おい、ルイ!遅かったじゃないか、待ちくたびれたぞ」

「いや、悪いね殿下。彼女、朝には弱くて」


そう、卒業する前に思いっきり遊ぶことにした。


「まぁ、良く付き合えるな」

「……まぁ、ある意味では感謝しているんだけどさ」

「あぁ、やっぱり俺に彼女は釣り合わないだろう」

「……もちろん、いい意味だよね」

「あぁ、俺の手に余るやつさ。ルイ、きっと彼女と共に歩けるのは君だったんだよ」

「ありがとう」


銀色で整ているサラサラな髪、相変わらず白い肌と青のワンピース、

そして、

サファイアを彷彿とさせる瞳


「ねぇ、ルイ」

「あの時の事、忘れないからね」



二人に駆け寄る後ろ姿に人々は羽が見えたという。








そして俺は忘れない。


この学園で学んだこと。


たくさんの後悔。


ユリシアの言葉を。


ルイの心の強さを。


そして、俺の生きる意味を。





















いや、まさか、ブックマークとか評価ともらえると思ってなかったので嬉しくて書きました。


まぁ、相変わらず初心者なので誤字脱字、分かりにくい等、色々あると思いますが、

楽しんでもらえたら嬉しいです。


個人的に転移、転生に頼りたくなく、令嬢サヨナラがいや、というわがままから作った作品ですので、そういうのもっと増えてほしい!


あとは、ネルちゃんの話と後日談でルイ君の話をいつか書けたらいいなと思います。






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