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【書籍化決定!&新章スタート!】マグナム・ブラッドバス ―― Girls & Revolvers ――  作者: 石和¥
Scorching Beat

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魔珠

「魔珠、は」


 ハーマンの目が泳ぐ。乗り切る方法を考えてるって風じゃない。もしかしたら何かしらは考えているのかもしれんけど、犠牲になったひとたちのことは覚えてないな、これ。


「なあ、さっきのひとらのこと、少しくらいは覚えてるか?」

「……覚えて、いる」

「そんじゃさ、彼らの人種は?」

「……」

「ダメじゃん」


 あたしは右耳を撃ち抜く。22口径だと、薄くて長いエルフの耳でも千切れるところまでいかない。虫食いみたいに穴が開くだけ。


「うがああぁッ!」

「“魔珠”って、いってんだからさ。魔力持ちだよね。身に覚え、ないか?」

「……そんなもん、知らな……ッ!」


 左耳に虫食い穴が開く。悲鳴を上げて転げ回るエルフが一瞬、部屋の隅に視線を投げたのが見えた。何かを狙っていることはわかっていた。魔法だろうな、と思っていたがハーマンは抵抗せずそのまま顔を伏せる。


「ジュニパー、そこの隅にあるの取ってくれるか」

「この、魔術短杖(ワンド)?」


 受け取るまでもなく、それが目当てのものだとあたしにもわかった。メルオーリオが、静かに息を吐く。怒りと、呆れと、自嘲を込めて。


「なんで、気付かなかったんだろ。こんなに近くにあったのに。こんなに強い力なのに」

()()()()んじゃないのかな。何十何百の叫び声のなかじゃ……」


 杖の先端には、ソフトボールくらいの魔珠が色とりどりの魔力光を瞬かせていた。


「……仲間の声だって、掻き消されちゃうだろ」


 “合成魔珠”だって、メルが吐き捨てるようにいった。こいつの犠牲になったひとたちの魔珠と魔力を混ぜ合わせて作り上げた死と暴力の芸術。すごい技術と能力なのかもしれんけど。正直あたしには気が触れてるとしか思えなかった。


「こんなもんのために、何人の魔力持ちを殺したんだ」


 用済みだって、理解したのだろう。ハーマンは青褪めて震え始めた。それでも弱音は吐かず、命乞いもせず、真っ直ぐにこちらを睨みつけてくる。


「……お、お前たちが、いえたことか! 何人を殺してきた! ……どれだけの、死を! 振り撒いて、きた!」

「さあな。襲ってきた奴はみんな殺した。あたしたちを殺そうとした奴は、みんなだ。数えたことなんかねえし、後悔もしてねえよ」

「だったら……!」

「一緒にすんな、クソが。この魔珠(いし)に混ぜ込まれたひとたちは、お前を襲ったのか? お前を殺そうとしたのかよ」


 ハーマンは答えずこちらを睨み付けてくる。こいつとは、きっとどこまでも相容れない。


「あたしらを同類と思うのは勝手だけどな。好き勝手に殺し続けてきたんなら、殺される覚悟もあったんだろ?」


「この魔珠を、砕いて」


 メルが、耳元であたしに頼んできた。その声が聞こえたかのように、ハーマンの身体がビクリと震える。

 

「まッ……待て、待ってくれ、た……頼む……それは、それだけは……」

「なんだよ急に。魔術短杖(こいつ)がなくなったら、お前は」

「たぶん、精力維持が出来ない」


 メルの声は平坦だった。

 “若さを保てない”というような意味かと思うんだけど。四十年なんてエルフにとっちゃほんのひと昔なんだろうしな。

 たぶん、そういうことじゃない。それどころの話じゃないんだ。


「ハーマンが杖に溜め込み続けた魔珠と魔力は、あたしたちが殺されるもっとずっと前からだと思う。大型魔獣でもない亜人の魔珠なんて、せいぜい親指の先くらいの大きさしかないんだから」


 あたしたちが砂漠で集めたなかではメルのが一番大きかったけど、それでもパチンコ玉くらいだ。それをソフトボールサイズになるくらいまで集めて固めて充填して、自分の力に変えていたわけだ。魔法の世界にも、カネの代わりに魔力を貪る“強欲な守銭奴”みたいなタイプがいるわけだな。


「……呪ってやる。エルフの精霊魔法で貴様たちを、必ず……」


 22口径弾を横っ面に撃ち込む。歯と血と湿った悲鳴を振り撒いてハーマンは床に転げた。


「好きにしろよ。まあ、お前の相手をするのは、彼らが先だけどな」


 最後の一発を、魔珠に撃ち込む。弱くて小さな銃弾で粉微塵に砕けて、虹色の光が部屋いっぱいに(ほとばし)った。目が開けていられないような眩しさとともに、叫び声と悲鳴とひとの気配が溢れ出す。


「「「オオ、オオオ、オオォ……」」」

「……そ、……そんな、よせ……やめろ」


 黒っぽい影みたいな人型がいくつも、床を逃げるハーマンに這い寄り駆け寄り飛び掛かって縋り付く。

 かつて恐怖で顔を痙攣させ引き笑いのように引き攣った声を漏らす。元ギルド長のハラワタでも貪るように、無数の影は腹に手を掛け齧り付き手足や服を引き裂いて捥ぎ取る。

 臓腑のなかから、ズルリと引き出されたものがあった。萎びて枯れ木のような腕と足をしたヨボヨボの老婆。それは黒い影と同じような“この世のものではない”感じがした。

 老婆は黒い影に(たか)られどこかへ運ばれてゆく。


「いや、だ……たすけ、て……」

「「「オオオオオオオオオォ……」」」


 床から生えてきた長い黒い腕に絡め取られて、ハーマンの正体と思われる老婆の影は床に開いた黒い影のなかに引き摺り込まれて、消えた。

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