罪過の澱
「お前ら、どこのもんだ」
姿を現した追跡者たちは“破落戸でございます”といわんばかりの中年男が五人。武器は子供用の野球バットみたいな棍棒と、薄汚れた大型ナイフ。
「どこから来たか? イーケルヒだよ。オアシスから追い出されちゃってさー」
ジュニパーは怯みもせず笑顔で答える。華奢な印象の美女がむさ苦しいチンピラに囲まれている絵面でそれだと、肝が据わってるというより頭が飛んでるみたいに見えるな。
「御者に騙されて馬車を奪われたんじゃねーのか」
なるほど。アドネに入ったとこから監視されてたんだな。それか、あの衛兵から情報が漏れたか。
特に口止めもしてないから、そうだとしても文句をいう気はないが。
「三流だな、アンタ。いまので、ずっと尾けてたのバレちまってんじゃん」
あたしの挑発にも動じず、男たちは武器を構えた。
「関係ねーだろ、お前らはここで死ぬんだ」
「あたしたちが悲鳴を上げたら?」
「誰もこねーよ。俺が保証してやる」
あたしは笑って、22口径のラングラーを抜く。
「ありがとな。それで安心した」
「あ?」
腹と胸に一発ずつ、計三人が倒れた。まだ死んではいないが、時間の問題だろう。生き延びられるのなら、それはそれで構わない。
残るふたりはジュニパーが踏み込んだかと思ったら、ドロップキックで吹き飛ばした。
「うわ……何あれ」
揃って飛んで行った男たちは、三十メートルほど離れた傭兵ギルドの建物にぶち当たって赤い染みになった。
「ホントに誰もこねーのな」
「ぼくたちが静かに仕留めたからかな?」
いや、静かではないだろ。あたしの撃った奴らは、もう静かになっていたけれども。
「遠くから見てるひとはいるの。関わり合いになりたくないだけなの」
そらそうだ。実態は犯罪組織の根城だもんな。
「メル、お前らを殺した相手って、名前は?」
「ギルド長ハーマン」
「四十年前だろ? さすがに死んでないか?」
この世界での寿命は知らないけど、ギルド長ってそこそこ年配だろうし……って考えたところで気付いた。
「そいつ、エルフか」
「そう。権力とカネのためなら何でもするクズ。見た目だけなら妖精みたいな美少女だったけど」
「……女か。色々と意外だな」
「待って」
ギルドの建物に向かいかけたあたしたちを、ミュニオが身振りで止める。振り返ると、彼女はいつの間にか布切れを外したカービン銃を構えていた。
「こちらを狙ってる」
「そうか? あたしには見えないけど……って、うわォ⁉︎」
屋根の死角から曲射で弧を描いた鏃があたしたちの足元に突き刺さる。逃げ隠れしようにも、こちらが動く方向を読んでいるかのように追撃の矢が降り注ぐ。
固まっているあたしを守って、ジュニパーがひょいひょいと手のひらで叩き落としてくれた。飛んで来る矢をそんなハエでも追い払うみたいに……
ドンッ、と銃声が響いて屋根から何かが転がり落ちた。
「ひとつ」
「……え」
「ふたつ、みっつ、よっつ……」
素早くレバーを操作して追撃を四発。四つの荷物が屋根から転げる。地響きを立てて落ちた奴らはどれもピクリとも動かない。
「いつつ」
ミュニオは銃に布切れを巻き直して背負った。
「もう、大丈夫なの」




