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【書籍化決定!&新章スタート!】マグナム・ブラッドバス ―― Girls & Revolvers ――  作者: 石和¥
Fountainhead

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死と敗走と新たな旅

 停戦合意に持ち込もうかと思っていた計画は頓挫した。というのも……


「「「すまん、嬢ちゃんたち」」」

「まあ、しょうがないっていうか……どうしようもないよな、実際」


 爺さんたちの武装・装甲ホイールローダーが本陣に突っ込んで蹂躙の限りを尽くした結果、どうやら最高指揮官である“メッケル家の四男、ムスタフ・メッケル様”とやらを取り巻きごと殺してしまったようなのだ。冗談みたいな色の真っ赤なキノコ雲が上がってたし。ありゃ本陣天幕周辺は丸ごと焼け野原だろう。

 となると、烏合の衆でしかない――さらにいえば帝国本隊に対しても叛徒となった――旧イーケルヒ王国の末裔たちは散り散りに逃げ落ちてゆくしかなくなったわけだ。


「これから、どうなるんだ?」

「あいつらのことか? 知らんのう。自業自得とはいえ宗主国に楯突いたんじゃ、その上に帝国軍の兵士を使い潰しての負け戦となればタダでは済むまい」

「いや、オアシスの処遇(こっち)の方がさ」

「南の帝都で優雅に暮らしとる奴らが、わざわざ出張ってくるとも思えんがのう。来たところで得るものは水溜まりに毛が生えたようなオアシスがひとつじゃ割りに合うまい」


 あたしたちは戦勝の宴に入って良いものやら、状況を読みかねている。バラバラと逃げてゆくイーケルヒの叛徒――というのはこの場合あたしたちのことらしいんだけど――討伐部隊とやらを追う気もなく、数百の死体が転がっている平野を手持ち無沙汰なまま眺めているしかない。


「何を悩んでいるの? 勝ちは勝ちじゃないの」

「そうなんだけどな」


 ドワーフの神使クレオーラは平然と胸を張るけど、あたしにとってみれば問題は勝ち負けじゃなく“オアシスに残して旅立っても良いのか”ってことになる。なにせ総勢で三十名近い大所帯に育ってしまったのだ。オアシスで暮らすことを望んでいるらしい彼らを、北の果てにあるエルフの楽園ソルベシアまで数百キロもの距離を延々と連れ回すのも可哀想だ。できることなら、ここで暮らせる算段をつけておきたい。


「嬢ちゃんたちは、旅に出るんじゃろ?」

「ここのみんなの安全が確認できればな」

「大丈夫よ。何かあったら、わたしが守ってあげるから」

「神使様がいうなら問題なかろう?」


 あたしとミュニオとジュニパーは顔を見合わせて苦笑する。


「……そっか。じゃあ、そうさせてもらおうかな」

「しぇなさん」


 コボルトたちが、あたしの腰にまとわりついてくる。尻尾がヘニョリと尻に垂れているのが見えた。


「じゅにぱ、さん、みゅーにお、さん」

「おでかけ、する?」

「ああ、そうだな。お前らは、どうする?」

「ぼくら、ここで、くらそうと、おもう」

「仲間はソルベシアに向かったんだろ? お前らも行きたいなら、一緒に連れてっても良いんだぞ?」

「ありがと、しぇなさん」

「でも、みんなと、いたい」


 彼らなりに考えて決めたことなのであれば、それを止めたり反対したりする気はない。


 あたしたちはドワーフの集落があった辺りに戦死したドワーフたちの墓を作り、神使クレオーラに“昇天の儀”という野辺送りの儀式をしてもらう。

 勇敢に戦った仲間たちの霊が光の粒子になって天に昇り、爺さんたちは穏やかな笑みでそれを見送った。


「それじゃ、世話になったな。みんな、達者で暮らせよ」

「「しぇな、さん」」


 コボルトたちをワッシャワッシャと撫でくり回し、抱き締めて頬ずりする。もふもふして、暖かくて、柔らかくて。子供の頃に遊んだ柴犬のタロジロが思い出されてキュンとなる。

 あと四回分の接種が必要な狂犬病ワクチンは、クレオーラに渡した。


「後を頼むな」

「大丈夫よ。心配ないわ。アンタたちのおかげで、神使としての力も取り戻しつつある。いつか戻ってきたら、きっと大きな町になってるわね」


「マナフルさん、エルフのみんなは」

「ここに、留まりたいと思っています」

「あたしたちの向かうソルベシアって、アンタたちエルフの楽園なんじゃないの?」

「はい」

「だったら、一緒に行かないか?」

「……ソルベシアが、かつて王国だったことはご存知ですか」


 急に何の話かと、あたしは首を傾げる。


「あー、いや。聞いたような、聞かないような。それが?」

「わたしは、そこから放逐された一族の末裔です。あの地が楽園であったとして……いえ、そうであればなおさら、わたしには戻る資格などありません」


 大意は、理解した。詳細は知らないし、知ったことでもない。おそらく、だけど。ソルベシアが彼女を受け入れるかどうか以前に、彼女自身がソルベシアを受け入れられないのだ。


「アンタは、そうだとして巫女さんたちは?」

「「「マナフルさんと、います」」」

「「「ずっと、いっしょ」」」


 小さなエルフっ子たちに囲まれたマナフルさんは、いつもと同じ、どこか影のある笑顔で微笑む。

 あたしに彼らの心情は、正直よくわからないけど。彼らは彼らで、自分たちのいるべき場所を見付けたのかもしれない。


「ほんじゃ、爺さんたち。これ、上手く使ってくれやな」

「良いのか?」

「あたしたち、もう武器はあるし。手はそんな多くないしな」


 爺さんには木箱ごとリボルバーを渡して、砦の守りを頼んだ。357マグナム弾は防衛には過剰とのことで、38スペシャルの弾薬を山分けして千五百発ほど残してくことにした。

 もうあたしには収納できないホイールローダーもだ。


「世話になったのう」

「何もかも嬢ちゃんたちのおかげじゃ」

「こちらこそ、だな。爺さんたちも、無理しないで元気でな」


 残った食料を大鍋にかけて、穴熊肉の残りと兎肉を焼いて、その夜は盛大に盛り上がった。そして。


「じゃあな!」

「「「しぇなさーん!」」」

「「達者でなー!」」

「「ありがとー」」


 あたしたちはまた、旅に出る。ランドクルーザーに乗って、三人だけの旅に。

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