戦塵
「「「おおおおおぉッ!」」」
最初に突っ込んできたのは、大きな金属盾を構えた甲冑付きの重装歩兵。エルフのイメージとは随分と違う。おそらくイーケルヒの勢力ではなく、帝国軍から抽出した人間の兵士だろう。それを囮にして回り込む算段か。
爺ちゃんたちもジュニパーも、357マグナムで応戦することに決めたようだ。みんな冷静に盾の覗き穴から撃ち抜いて次々に倒してゆく。あたしにはそんな腕はないので、熊用一発弾で足元の露出部を叩く。先頭集団の膝を砕くと案外あっさりと陣形は崩れ、潰走状態のまま殲滅された。その間に北側に回った兵士がいたらしく、背後でも銃の射撃音や悲鳴や怒号が響き始める。防壁の中心部には矢を防ぐための板が立っていて状況を見ることはできないが、ミュニオやヘンケルの声を聞く限り順調に倒していっているようだ。
「南東から弓兵、斉射して来よるぞ!」
「みんな、頭下げとけ!」
「南西から騎兵! 突っ込んで来るよ!」
いきなり慌ただしくなってきた。山なり軌道で降り注ぐ長弓の矢は流石に銃よりも射程が長い。
こちらの手が届かない距離から攻撃を仕掛けられると、苛立ちとともに無力感がある。あたしたちが帝国軍に喰らわしてきた銃撃もこんなんだったのかもな。
「左奥、歩兵が回り込んできてるよ!」
「あたしが止める、みんなは他を頼む!」
散弾銃って、シューティングゲームなんかだと発射直後から広範囲に広がって飛距離がハンドガン以下なイメージあったけど、実際にはかなり遠くまで届く。しかも、見た感じそんなに大きくは広がらないようだ。
あたし程度の腕なら、大型リボルバーで撃つより効果的で効率的だ。
ショットシェルは弾種によるが、鳥用小粒弾と鹿用大粒弾はそれぞれ数百発はある。熊用一発弾は百もないけど、さほど活躍の機会もなさそうだ。
あまり過剰に持っていても荷物になるだけだし。今回の襲撃さえ凌げれば、その後は必要な分だけ追加購入すれば良い。必要以上に多くを抱え込むと判断が鈍る。あるもので戦うと決めて、割り切るしかない。
「南から騎兵が来るよ! お爺ちゃん、先頭を狙って!」
「おう!」
南西と南、二方向からそれぞれ十数騎の騎兵部隊が防壁の入り口目掛けて全力疾走で向かってくる。ジュニパーや爺さんたちが一斉射撃を加えているものの、拳銃弾では馬の速度を削ぎ脱落者を出すところまでが限界だ。突進する集団を止めるまでには至っていない。
「シェーナ!」
「任せろ!」
自動式散弾銃で鹿用大粒弾を正面から八連射。被弾した前列が派手に転がって後続を巻き込み、押し潰された馬体に次々と折り重なる。すぐに再装填して八連射。それで騎兵の突撃は無力化された。
捨て身で向かってきていた騎兵の先頭集団が激しい勢いのまま転がって防壁入り口を塞いでいた。前が詰まって壁になり、後ろに続く騎兵たちの退避行動を妨げる。まさに、“二進も三進もいかない”という状況だ。
突進力だけが強みだというのに、足が止まった騎兵など大きな的でしかない。散弾を喰らって次々と倒れ、あるいは騎兵を振り落として馬だけが走り去る。
「撃てぇ!」
357マグナム弾やバックショットの洗礼を受けて、立ち上がれる兵士はいない。馬も全身から血と汗を噴き出し、もがきながら逃げようとよろめき、崩れ落ちて動かなくなる。
「シェーナ嬢ちゃん!」
近くでターイン爺さんの声がして、彼が指差す方を見ると奥の馬車からバラバラに出てくる小柄な集団がいた。
「ターイン爺さん、あの集団はナニモンだ?」
「輜重兵じゃな。おそらく、回収を命じられたんじゃろ」
「死体と装備をか?」
「動けなくなった前線指揮官をじゃ。騎兵はよほど裕福でないと維持できん。つまり、騎兵はほとんどが貴族なんじゃ」
なるほど。その指揮官ともなれば容易く失うわけにはいかない高位貴族ってことか。
知るか。回収したけりゃ好きにしろ。ただし……
「生きては、返さねえけどな」




