表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化決定!&新章スタート!】マグナム・ブラッドバス ―― Girls & Revolvers ――  作者: 石和¥
Fountainhead

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

77/271

夜陰の追跡者

「俺は、不思議なんだけどよ」


 前線に向かう馬車の車内で、ヘッケルは副官ルッキアに吐き捨てる。首を傾げる仕草は“不思議”のジェスチャーではなく、()()()()で腫れ上がった左目が視界を遮っているせいだ。


「なんでしょ隊長」

「あの馬鹿ども、いい加減てめぇの手に負えねえって気付かんもんか?」

「気付かんでしょうな」


 馬車の内部には水と食料の樽。ギュウギュウに詰め込まれたそれは、揺れるたび端に押し込まれたヘッケルたちを押し潰しに掛かる。御者台の見張り兵士は車内のことなど気にも留めていないが、馬車は隊列を組んで移動中だ。後部の扉から逃げ出せば周囲の馬車から即座に見付かってしまうだろう。遮るものもない荒野のただなか、徒歩で逃げ切れるとも思えない。

 

「隊長も他人(ひと)のこと笑えんでしょう、自軍に捕まるのも三回目ですよ?」

「しょうがねえだろ。魔導通信機を奪われ連絡役とも切り離された、となりゃ情報集積拠点(デポ)に向かうしかねえだろうが」


 ふたりは最初、ヘッケルの上官と因縁のある没落貴族メッケル辺境伯家の三男、ハウル・メッケルの城塞防衛部隊に拘束された。汚職を調べにきたと勘違いされ囚人扱いで前線に運ばれたが、途中で敵の襲撃を受け部隊は壊滅、ハウルは襲撃者に殺された。

 脱出したヘッケルとルッキアはデポを目指して北上を選び、今度はメッケル家の次男モール・メッケルの輜重部隊に拘束された。そちらでは敵前逃亡の罪で殺されかけたが、帝都司令部による特殊任務中だという――事実も含まれているのだが――脅迫めいたハッタリで強引に解放させた。

 そして三回めは、同じくメッケル家の四男ムスタフ・メッケルの叛徒討伐部隊だ。いい加減ウンザリしていたが、相手は完全武装した兵士たちで戦闘前の興奮に血走った目をして話を聞く気もない。丸腰で疲れ切ったヘッケルたちには抵抗する力も意思も残っていなかった。


「何が叛徒討伐だ。てめえらが帝国の叛徒だろうが」

「今頃になってイーケルヒの亡霊が蘇るとは思ってませんでしたが……わざわざ“赤目の悪魔”に突っ込んで行くとは」

「どうせ俺たちも目的地は北だったし、そもそも目的が“赤目の悪魔”の情報収集だ。現場まで馬車で運んでくれんだったら、一石二鳥だろうが」

「そのまま潰し合いをしてくれたらさらにありがたいんですがね。自分たち、前線で盾にでもされるんじゃないですかね?」

「あ?」

「さっき聞いた指揮官(ムスタフ)の演説、符丁みたいのが混ざってたでしょう。あれイーケルヒの現地語ですよ。“戦死”“報復”“奪還”みたいなことを叫んでます。戦意高揚を図ってるんでしょうが、逆効果ですね」

「……ふん。こっちでも“赤目の悪魔”が優勢か」


 夜中に停車した馬車は幕営どころか火を熾すことなく待機。しばらく待たされて明け方近く、遥か彼方から遠雷に似た音が聞こえてきた。それはすぐに静かになったが、戦闘音なのは明らかだった。またしばらくすると合図が回ってきて、次々に馬車から兵を下ろし始めた。連絡役の兵士がポソポソと囁く声は耳慣れない響きで、ヘッケルにはそれがイーケルヒの言葉なのだとわかった。


「ルッキア、なんか聞こえたか」

「ええ、まあ。“先陣”の“英雄たち”が、“待ってる”と」

「どこでだ?」

「天の国、ですかね。要は、“死んだ”という意味です」


 ヘッケルは小さく息を呑む。遠雷に似た音が“赤目の悪魔”が使用する武器によるものだということがわかったからだ。それ自体は襲撃を受けたときに聞いたので覚えている。きっとあの金色の筒が大量に撒き散らかされているのだろう。問題は、明らかに増えているその数だ。


「……拙いな。“赤目の悪魔(あいつ)”、武器を持った仲間の数が何倍にもなってるぞ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ