ハウイッダズ
トテチーッと元気よく駆けてくコボルト三銃士を見送って、あたしらは南の後続部隊に向かう。自分たちのできることをするだけ。とはいえ。
十分も走らないうちに、後続の先頭は見えてきた。先遣部隊と同じ谷間のルートを取らず、平野部に出て少し東に逸れている。表現を変えれば、真っ直ぐにオアシスに向かっているというべきか。稜線で停止してもらい、双眼鏡で覗く。
何か平たい物に乗った兵士たちが、二列縦隊で進んでいる。なんというのか、重装歩兵が密集陣形のまま空飛ぶ絨毯、というか板に乗ってる感じ。なんじゃ、あれ?
「ね?」
「……ああ、うん」
たしかに、“変な魔道具”以外の表現ができない。魔道具かどうかはともかく。いや、設計思想がこっちの世界のものと違うようだ。サイズは大型トラックくらい? 故障か監視か、手前の一両が停止したので乗り物の全貌が見えてきた。
「う〜ん……発想は、戦車なのかな。転移者か転生者の知識が入ってる気がする」
「シェーナのいたところのひと?」
「たぶん」
サイモン爺さんは“無限軌道”とかいってたけど、いわゆるキャタピラが付いてるっぽい。空飛ばない絨毯だこれ。
「白旗部隊四台に、青旗部隊と赤旗部隊の混成が一台、こっちは緑旗部隊がいない代わり、最後尾に橙旗部隊二台いるね」
「移動用の変な魔道具に魔力を使ってるから、か。ってことは……くそッ」
「うん。エルフかドワーフか獣人か知らないけど、魔力の豊富な奴隷が繋がれてる可能性はあるね」
一台に乗っている兵士は七から十五くらいか。後続部隊の総数は七十前後、トータルで百五十前後という事前の予想で大体合ってる。こっちが本隊なんだろう。前に出ていた部隊と比べて、正面戦力が多いようだ。
あれ、奴隷だけ奪えるかな。無理だな。できなかないけど、意味がない。どこにどう繋がれてるのか見えない段階で、無駄な危険を冒せない。少なくとも、弓兵だけは早急に無力化しないとダメだろう。まあ、いいか。コボルトたちと合流してオアシスまで戻る、あたしたちを追って来られないようにできれば、それで問題ない。
あれこれ考えをまとめながら、意識して口に出して方針を伝える。それがなくても、ジュニパーとミュニオは察してくれるけど。口に出すこと自体にも意味はあるのだ。
「良いと思うよ。コボルトたちと同じ手で行く?」
「そだな。距離を置いて、負傷者を増やす。集団をバラバラにして、奴隷になってる奴らだけ連れ帰る」
「了解」
体格にもよるけど、最大十五人くらいまでなら荷台と助手席に詰め込めるはずだ。最悪、ジュニパーに分乗させてもらう。伝えると彼女は快く引き受けてくれた。
「さて、どっから先に潰すかだな」
「ちょうど良いのがいるよ、シェーナ」
ジュニパーが、最後尾で停止してる車両を指差す。故障なのか駆動部が埋まったか、乗員が降りて車体を囲んでいる。
「動けなくなったのから襲うってこと?」
「それだけじゃなくてね。弓兵部隊の後ろの方に、紫の旗がある。あれ、指揮官が乗ってるよ」