仔犬とワルツ
自動更新忘れてた…
「シェーナ、駄目!」
「大丈夫だ、車を頼む」
追い掛けて来ようとしたジュニパーに、身振りでランドクルーザーを回すよう指示した。あたしが単身特攻するんじゃないとは理解したらしいが、彼女は心配そうにこちらを見ながら運転席に乗り込む。
いくらあたしが考えなしでも、七十の兵隊相手に生身の単身では突っ込まんわ。あたしたちの役割は偵察。仮にここで倒したところで敵には後続もいるし、東の前線砦からの援軍もいる。
奴隷にされてるエルフ――と思われるひとたち――は奪い返したいけど、正直なところ人数次第では持て余す。ランクルとジュニパーの背で運べる人数には限りがある。後続部隊も同じような兵科構成だとしたら尚更だ。
ただ、こいつらを無傷のまま素直に行かせるのも拙いのだ。東側の前線砦と合わせて推定二百がオアシス側で集結されてしまうと、ふとしたアクシデントで押し込まれる可能性も出てくる。そういう不測の事態を防ぐためのヘスコ防壁と籠城戦だけれども、そうなると遠雷砲がかなり拙い。
谷間を移動する敵の視界に入らないよう、稜線から稜線に移動しながら接近。通過する隊列を右から回り込んだ中間地点で覗き込むあたしの脇に、コボルトたちがヒョコヒョコと顔を出す。
「しぇなさん、ぼくら、てつだう」
「がんばって、たたかうから」
「ありがとな。それじゃ、コボルトにしかできない重要な任務を頼みたい」
三人のコボルトたちは、あたしの言葉に目を輝かせて頷く。
背後で響いたエンジン音に振り返ると、ジュニパーが心配そうな顔でランドクルーザーの運転席から降りてくるところだった。
「シェーナ、隊列を止めるなら、ぼくが突っ込んで吹っ飛ばすよ?」
「だーから、自分だけで行こうとすんな。あたしも、ちゃんと留まっただろ?」
「……それは、そうだけど。……いまは」
信用ねえな。それはまあ、いいや。あたしはコボルトたちに向き直る。
「あたしとジュニパーは、後ろの隊列を偵察してくる。そこにも捕まってる奴隷がいたら……人数と状況しだいだけど、奪えそうなら奪い取ってくる」
ふんふんと頷いて聞くコボルトたち。表情は真剣だけど、“ぼくらの役目は?”という風に目を輝かせている。
「みんなには、こっちの隊列の足止めを頼みたい。コボルトが得意な投石器で、敵を翻弄するんだ。倒さなくて良い。というか、倒さない方がいい」
「「え?」」
「あ、わかった。むれを、バラバラに、する?」
あたしが説明しようとしたところで、コボルトのひとりが目的に気付く。言葉はちょっと覚束ないけど、彼らけっこう頭は良いのだ。戦闘経験もあって、勘も良い。ひとりが気付くと、残るふたりも結論に達した。
「そっか、てーこくぐん、いっぴきずつに、したら、よわい」
「むれに、もどれないのは、死んじゃう」
「死んだら、おいてけるけど、うごけないやつは、“助けて”って、さわぐよ?」
「それが、いっぱい、でたら」
「「おー♪」」
なんか、あたしの想定以上に彼らの脳内作戦が進んでる気はするけど、コボルトたちが正しい。ここで足止めして分断して消耗させたら、皆殺しにするまでもなく戦力としては機能しなくなる。極論をいえば、補給物資と魔導師を襲って水の供給を断つだけでも、あいつらは詰む。
拠点と目的地の中間地点。ここで足手まといの友軍が出るのは、全滅されるより遥かに厄介だ。
「そう、頼みたいのは“群れをバラバラにしておく”ことなんだよ。後ろの隊列を潰したら戻ってくるから、それまで頑張ってもらえるか?」
「「「うん!」」」
「問題は、遠雷砲を持ち出されたときなんだけど。あれ、発射される前に逃げられる?」
「ビリビリ? だいじょうぶ」
「あれ、くみたてるの、じかん、かかる」
「うん。あと、前にしか、とばない」
なるほどね。攻城兵器ってやつなのかな。動く小さな的に当てられるようなものではないらしい。逆にいえば、やぱりオアシスに持ち込まれると拙いな。城壁ごと黒焦げにされる。
あたしはしゃがんで目線を下げて、コボルトたちに伝える。
「これだけは、覚えといてくれよ。何があっても、お前らが死ぬようなことはすんな。危なくなったら、全部捨てて良いから、絶対に逃げるんだぞ?」
「「「わかった」」」
三人をワシャワシャと撫で回して、あたしはランドクルーザーに乗り込む。
「ジュニパー、ここの位置は覚えといてもらえる? 彼らと再合流は必須だから」
「任せて。後続とは、そんなに離れてないみたいだし」
「見える?」
さっき南方向を見渡してみたんだけど、砂煙らしきものは視認できなかったのだ。
「後ろは、ちょっと編成違うのかも」
ジュニパーは少し笑って、南南西の方向を指す。やっぱり、あたしの目には何にも見えん。
「変な魔道具に乗ってる」




