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【書籍化決定!&新章スタート!】マグナム・ブラッドバス ―― Girls & Revolvers ――  作者: 石和¥
Fountainhead

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隊列と贄

 正直いうと、あたしは落とし所を見失っていた。オアシスを守るのは良い。困ってる子たちを助けるのも結構。お仲間が増えたって、どうにかしてみせる。けど、その先は?

 ずっと留まって、そこで暮らしたいとまでは思わない。とりあえず、あたしたちの目的地は北の大地ソルベシアなのだ。そこが本当に楽園なのかどうかは、ともかくとして。ミュニオに勧められた以上の理由は、ないとしてもだ。


「しぇなさん、あたま、いたい?」


 ランドクルーザーの荷台で、頭を抱えるあたしを、コボルトの三人が心配そうに覗き込んでくる。


「いや、大丈夫だよ、なんでもない。ちょっと悩んでただけ。ありがとな」

「あのね、ぼくら、がんばる」

「しぇなさん、じゅにぱさん、みゅーにおさん、たすけて、くれた」

「ぼくら、おんがえし、したいの」


 ええ子や。コボルトの年齢は、いまいちわからんけど。そして、彼らは個人名を――少なくとも言葉としては――持たないらしいけど。毛並みや模様、体格で見分けはつく。今後も一緒に行動するなら名前をつけるのも良いかもな。


 今日の偵察予定地であるメッケル城塞は、オアシスから西南方向に六十(ミレ)ほどのところにある。出発して一時間ほど経った頃、岩混じりのデコボコ道から比較的フラットな土漠に変わった。コボルトたちのナビゲーションによれば全行程の半分くらい。ここまでは慎重な運転で距離が伸びていなかったけど、ようやく速度を上げられるかな。

 ……と思ったら運転席と荷台の仕切りになっている小窓からジュニパーが声を掛けてきた。


「シェーナ、その先にある丘の手前で停めるね」

「え、何かあった?」

「西南方向、十哩くらいのところに砂煙が見える。これ以上近付くと、向こうからも、こちらの砂煙が見えちゃう」

「了解」


 乾き切った大地を大部隊が進んでくると、どうしても砂煙が立つ。ランクルのような高速移動するものも同じだ。ここまでは速度を上げていなかったので、いまのところ大きな埃や砂煙は上がっていないはずだ。ジュニパーも可能な限りルートを選んでくれてたしな。

 高低差十メートル弱の丘の手前、岩場の陰に停車させたジュニパーはエンジンを切る。車を降りて稜線上に出ると思ったよりも視界が開け、前方には大小の砂丘が連続しているのが見えた。ここからはランクルの本領発揮で速度が出せる状況だったのにな。

 あたしたちは伏せた姿勢で並び、砂煙のある方角を確認する。水棲馬(ケルピー)であるジュニパーとコボルトたちは裸眼で問題ないようだけれども、こちらはそうもいかないので双眼鏡を使う。


「しぇなさん、てーこくぐん」

「どこ?」

「いま、あそこの谷、とおった」

「ばしゃ、五つ、三つ、四つ、五つ」

「うま、三つ、三つ、二つ、三つ」


 ええ……と。カウント難しいな。馬車が十七と馬が十一か?

 コボルトたちは、手の指で足りる分を数えて報告してくれる。なんでか、両手指カウント(それ)を二回分だ。

 そうこういいながら待つこと二十分ほど。二、三キロ先だろうか、幅二十メートル深さ十メートルほどの枯れ河(ワジ)に隠れて進む部隊が見えてきた。コボルトカウントの通り、馬車が十七両と騎兵が十一騎。荷台に乗った兵士は、ジュニパーによれば五十を切るくらい。総数で六十に満たない。先遣隊なのか、規模は想定戦力の半分以下だ。


「騎兵に緊張感がないね。奇襲を受けるとは、思ってもいないみたい」

「ん〜? だとしたら、なんで隠れて進むんだ?」

「さあ」


 隊列の間に、いくつか色違いの軍旗がはためいている。聞いた気がするけど、ジュニパーが教えてくれた兵科の分類をあたしは完全に忘れている。すまん。


「ええと……ジュニパー? あの旗、何だっけ?」

「黒いのが騎兵部隊の旗で、橙色(オレンジ)……は、いない? なんで?」

「どうした」

「弓兵がいないな、と思って。長距離攻撃の要になるはずなのに……ああ、そうか」


 納得したような声。でも、あたしにはサッパリ状況がつかめん。


「なんかわかった?」

「後ろの馬車、あの緑の旗は砲兵だよ」


 砲兵? もしかして帝国軍(あいつら)大砲を運んでるのか? オアシスを占領するための兵力に? 派遣を決めた時点では無人だったはずなのに? あいつら、アホなの?

 それとも……もしかして、あたしたちがコルタルの城塞都市やらムールムの砦やら、あるいは“暁の群狼(ドーンウルフパック)”の砦やらで殺し回った情報を知って対処に動いてる?


「魔導兵もいるけど、補給部隊(しちょう)と並んだ位置にいるから水を出す役割かな」


 位置を変えて監視を続けていたジュニパーが、コボルトの三人に何か耳打ちした。三方に走って行ったワンコたちは、すぐに戻ってきて身振り手振りを交えながら報告している。


「はこ、うしろに、くさり。こういうのに、てつの、ぼう」

「前、すわってるの、馬、つかう人と、やりの、へいたい」


 それを聞いたジュニパーが、苦い顔で振り返った。


「砲兵の後ろ、旗なしの馬車には、たぶん奴隷が乗せられてるよ」

「え?」

「馬車の扉に鍵、窓に格子が入って、御者台に兵士がいるって」

「あいつら、オアシスの占領が目的だろ? そこに奴隷を連れてきてどうするんだ。敵がいたら戦わせる気か? それとも盾にするとか? だいたい、あたしたちが占拠してることは、まだ知らないと思うんだけど」

「それは……わかんない、けど」

「しぇなさん、あれ、ビリビリの、まどうぐ」


 最も遠く、隊列の後ろの方まで見に行ってくれたコボルトのひとりが、進んでくる馬車を指して訴える。


「ビリビリ?」

「魔道具、魔力を使う兵器……それ、帝国軍の“遠雷砲(えんらいほう)”じゃないかな」

「なんだそりゃ。いや、わかった。雷を落とすのか」

「そう。バーンて、当たると、こげて、死ぬの」

「はんミレ、とぶよ?」


 まずいな。けっこう威力は高そう。射程も八百メートルもあるなら、銃より遠くから撃たれる。撃ち負けずに戦えるのはチート狙撃手(スナイパー)のミュニオくらいだ。


「いや待て、魔力を使う? もしかして、その奴隷から魔力を奪って、なんて話じゃないだろうな⁉︎」

「たぶん、そういうことだと思う。奴隷の馬車には旗がないから、純粋な戦力じゃない。配置が緑の旗の後ろだから、砲兵の管轄だよ」


 嫌な予感がする。拘禁枷(シャックル)着けられたミュニオや巫女さんたちの姿が浮かぶ。そのとき聞いた話も。

 ジュニパーにも、それが伝わったようだ。


「たぶん、シェーナの予想通り。……いちばん、使いやすいのは、虐げられてて、嫌われてて、魔力量が高い」

「エルフ、かよ。くそッ!」


 あたしは駆け出していた。

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