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烏合の州

 水がないから汲みに来たか。そら、わかる。周囲に水源がなければオアシスに来るだろうとは思う。

 見たところリーダーな赤毛の男が十代後半かギリギリ二十代で、あとは十代半ばくらいのが十一人。十歳以下に見える子たちがふたり。男女比は……汚れ過ぎてて見ても正直わからん。

 彼らが手にした武器は、手製と思われる弓やボロボロの刃物。元いた世界の子供用野球バットみたいな棍棒とか、紐を振り回して投げる手持ちの投石器(スリング)。どっかで見た感じの装備だな、これ。

 赤毛男だけは少しランクアップしてて、柄を短く切り落とした大人用の槍。体格的にはあたしより少し恵まれてる程度だから、たぶん大人と打ち合える力はない。

 これは、盗賊団というよりも“武装した難民グループ”なのではないか。


「アンタたちの、ねぐらは?」

「ない。ずっと東から流れてきた。俺は、住んでたところが占領されて、妹が売られそうになって、ふたりで逃げた」

「ふたり? 他の子たちは?」

「途中で拾ったり、なんとなく合流したりだ。それで、オアシスを目指して、何日も歩いてきたんだ。やっと着いたと思ったら、このザマだったんだけどな」

「へえ。水汲むなら止めないよ。ただ、なんだかいう正体不明の水辺の妖怪がいるって聞いた」

水妖(フーア)?」

「そう、たぶんそれ。だから、音は立てない方がいい」


 盗賊団的な難民グループは、腹這い姿勢のままオアシスの水辺を見て、お互いの顔を見合って、あたしを見た。いや、こっち見られても困るんだが。汲むのまで面倒は見ねえよ。


「な、なあ。物は相談なんだけど」


 這いつくばって降伏ポーズのまま、赤毛男がオズオズと顔を上げてあたしに切り出す。


「あの兵隊の武器、要らなかったらもらえないか」

「は?」

「いや、勝手なことをいってるのはわかってる。でも、あんな物凄え武器を持ったアンタたちなら、作りの粗いイーケルヒの剣や槍や投石器なんて使わないだろ?」

「兵士たちの武器があれば、フーアとかいうのにも勝てる?」

「正体もわかんないんじゃ、何ともいえん。でもな、俺たちの武器、ハグレのゴブリンを狩りながら必死に集めたんだけど、質が悪いから、その度にかなりの被害が出ちまってたんだ。そういう無駄死には減らせる」


 ああ、そっか。わかった、さっきの既視感。彼らの装備は――さらにいえば彼ら自身もだけれども――ゴブリンぽいんだ。


「元は何人だったの?」

「いちばん多かったときで二十五。いまは十四だ。もう失いたくない。頼む!」


 ううむ。期待と不安に満ちた子供たちの涙目が、すんごいプレッシャーだ。こっちを殺しに来るタイプより、こういう方が苦手だ。


「こっちに向けないってんなら、好きにして」

「ありがとう、恩に着る!」


 赤毛男の先導で、少年少女の難民団は寄ってたかって兵士の死体から装備を剥ぎ始める。すごい手際とチームワーク……もしかしたら、やっぱり盗賊団なのかもな。もしくは兼業か。どうでもいいけど。


「あ、姐さん、金目のものは? 要る?」


 ホクホク顔で戻ってきた赤毛男が、あたしに“お願いポーズ”で首を傾げる。誰が姐さんだ。だいたい、あたしよりデカい男が媚びポーズしても可愛くもなんともねえっつうの。


「金貨があったら、もらう。あとは好きにしていいよ」

「「「やほぉーい!」」」

「欲張るな、持ち物は一日歩ける重さまでだ!」

「「おー」」

「カネはまとめとけ、重いから年長が持てよ!」

「「おー」」

「金貨は姐さんに献上せよ!」

「「おー」」


 呆れ顔で車に戻ったあたしを見て、荷台のミュニオが笑う。


「シェーナ、懐かれたの」

「やめろ、あんなの野良犬に餌やったら纏わり付かれたってだけだ」

「それを懐かれたっていうんだと思うの……」


「せっかくオアシスまで来たんだから、しばらくゆっくりしたいな。爺さん、アンタらドワーフの住んでたのって、どこ?」

「右の奥じゃ。少し高くなった場所に家が固まっとるじゃろ?」

「おお、けっこう大所帯だな」

「狭いとこじゃが、なんぼでも好きに使ってくれ。歓迎するぞ?」


 モグアズ爺さんがそこまでいったところで、護衛のヒゲなしターイン爺さんが周囲を見渡して首を傾げる。


「……しかし、どうにも雰囲気がおかしいのう。わしらが出て行った後で、なにかあったようじゃ」


 さっき小屋からちっこいのが顔を出した左岸を指す。


「あいつらに話を聞いてくるわい」


 ターイン爺さんが駆けて行った後、あたしはランドクルーザーをドワーフの集落に向ける。モグアズ爺さんのいった通り、少しだけ高台になった場所にあって、石造りの小規模住宅が寄り集まったような、なかなか暮らしやすそうな環境だ。なんというか、メルヘンティックな山賊のアジト、みたいな印象。

 ひと休み、ということで長旅で疲れただろうエルフの巫女さんたちを下ろして空いた部屋で休ませてもらう。こちらには入り込んでいる難民やら移民やら魔物やらはいないことを事前に確認してもらった。対岸のボロい小屋には隠れ住むひとが出ているというのに、なんでこっちは手付かずなのか理由はよくわからん。

 まあ、いいか。


「あ、そうだジュニパー。悪いけど、後で水辺を調べてもらえるかな? 水妖(フーア)ってのが何なのか知りたい。危ない相手じゃなかったら放っとくからさ」

「わかった。ちょっと怖いけど……」

「なんでだよ。ハンサムなケルピーかもよ?」

「イヤだ、そういうの……ぼくは魔物が怖いんだよ。接したことないから……」


 おう、ウチの水棲馬(ケルピー)は箱入りか。


「シェーナ嬢ちゃん!」


 対岸の小屋から、ターイン爺さんがあたしたちに激しく手を振っているのが見えた。当然ながら、親愛や喜びを表現しているのではなさそうだ。


「……なんか、あったみたいなの」

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