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【書籍化決定!&新章スタート!】マグナム・ブラッドバス ―― Girls & Revolvers ――  作者: 石和¥
Fountainhead

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砂の海と癒しの地

「なあ、その……あたしたちが目指すオアシスに、集落はあるのか?」


 荒野を走るランドクルーザーの助手席で、ふと気付いた疑問を物知り水棲馬(はかせ)に尋ねる。ヅカ美女なジュニパー先生は相変わらずイケメンな感じでハンドルを操っていた。シャツを捲り気味にした片肘が開いた窓に掛けられ、気怠げな感じのセクシーさを演出している。うむ、実に絵になる女である。同性なので何の得もないが。


「うん。貴重な水場だから、あると思うよ?」


 そりゃそうか。こんな乾き切った土地なら、誰でもオアシスの傍に住みたいだろうね。でも、そんな貴重な場所なら普通に考えて帝国の管理下にあるんじゃないのかな。


「ぼくが聞いた話じゃ、規模はそんなに大きくはないはず。しかも長いこと色々な勢力が取ったり取られたりの状況だったらしいけど」

「なんで? 帝国軍が、砦を築いたりしないの?」

「無理なんだ。そこのオアシスには魔物が住んでる」

「え」

「少人数が静かに暮らしている分には大丈夫だけど、大勢でうるさくすると襲われちゃうんだって」


 オアシスに棲む魔物って……それは、あれか。水に引き摺り込んで溺れさせた後で貪り食うという、馬の。


「ち、違うよ? 水棲馬(ケルピー)じゃないよ? たぶん」


 あたしの視線に気付いたジュニパーが慌てて両手をパタパタさせながら否定する。やめれ、車が蛇行するから酔う。


「でも、わかんないかな。水妖(フーア)って聞いてるし」

「フーア?」

「ええと……」


 この世界の事情に詳しくないあたしの疑問に、ジュニパーはどう説明しようかと困っている。代わりに、ミュニオが答えてくれた。


「大きなくくりで、“水辺に住む魔物”のことなの。水棲馬も含まれるから、名前が付いてないってことは……姿を見たひとがいないんだと思うの」

「へえ。それ、人間に見付からないくらい上手く隠れてるって意味かな? それとも、単に見たひとは喰われてるだけ?」

「たぶん、後者だね。海ならともかく砂漠のなかのオアシスで誰にも見付からないって、ありえないよ」


 そらそうだ。そんな広さも水深もないだろうしな。

 ひと休みするだけでも良いやと暫定的な目的地に定めたものの、向かう意味がないなら予定を変更するだけだ。

 本人たちが望むなら、そこでエルフの巫女さんたちを降ろしてもいい。五、六人増えるくらいなら魔物も目溢ししてくれるだろ。


「ミュニオ、追っ手は?」

「ずっと注意してるけど、近付いてくる気配はないの。魔力による監視も、感じられないの」

「それじゃ、どこか適当な場所があれば休んで食事にしようか。ジュニパー、そこから運転代わるよ。このペースだと数日は走ることになりそうだ」

「うん」


 目的地(オアシス)がだいたい六百哩、約千キロ先と聞いたときにランクルの積算計を確認したけど、それからまだ三百キロちょっとしか進んでいない。思ったよりも地面が柔らかくて速度が出せず、迂回が必要な場所も多くて平均すると一時間に五十キロ程しか進めないためだ。


「その先で停まるよ」

「オッケー、マナフルさん、エルフのみんなも、いっぺん休憩するよ!」

「「「はい!」」」


 ジュニパーが見付けたのは、追跡者に発見されにくそうな砂丘の陰。フラットな地表からすると少しだけ低くなっているので、気休め程度の安心材料にはなる。


「火を起こしましょうか。水も出せますが」

「いい、煙の出ない専用の道具があるから。水もある」


 マナフルさんたちの提案は断って、懐収納からガソリンストーブと大鍋を出す。大判ペットボトルの水を注いで……


「シェーナ、どうしたの?」


 少し考えて砂の上に布を敷き、冥府穴熊(タナトスバジャー)を出した。血塗れで事切れた魔物の顔をまともに見て、エルフたちが小さく悲鳴を上げる。


「ひゃあ⁉︎」


 待て。待て待て待て。なんでアンタがいちばん怖がっているんだ、ジュニパー。いや、別にいいけど。


「なあ、これホントに美味いのか?」

「……ぼくは、聞いた、……だけで、食べたこと、……ないから」

「そうか。まあ、物は試しだ。みんな、そこの根菜の皮剥きお願い」

「「「はい」」」


 時間も技術もないので、解体はかなり雑になる。内臓を破らないように腸抜きだけは慎重にしたが、毛皮は穴だらけなので大型ナイフで切り裂き、食べられそうな肉の部位を大まかに切り分けるだけだ。

 内臓は料理に手間が掛かる上に傷みやすいとのことで毛皮と一緒に埋めた。判別できる部位は心臓と肝臓くらいだし、レバーはあんま好きじゃない。


「しっかし脂肪(アブラ)すげーな。こんな暑い地方の生き物なのに……」


 だいたい、この巨体を維持するほどの食い物って、何なんだ? 虫とか爬虫類って聞いた気がするけど、あんな不毛の荒野でそんな大量に生息してないだろ。


「地龍や穴熊、あとドワーフなんかは、食べなくても外在魔素(マナ)で太るとか聞いたよ」

「ドワーフもか。便利なんだか不便なんだか」

「だから、雑味が混ざらなくて肉が美味しいんだって。もしかしたら、ドワーフも美味しいのかもね?」


 “ね?”じゃねえよ!

 逃げてドワーフ! ヅカ水棲馬(ケルピー)が狙ってますよー⁉︎

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