スーサイドヘッドショット
「死ぬかと思ったぁ……」
「こっちのセリフだよ⁉︎」
城塞正面を突破後、全速力で距離を稼ぎ追っ手が来ないことを確認したあたしは、遮蔽になりそうな岩山を見付けてランドクルーザーを停車させた。
ずっとバックミラーに治癒魔法を掛け続けるミュニオの姿は写っていたが、気を散らせてはいけないと黙ったまま運転し心のなかでジュニパーの無事を祈った。
何度も魔力光が瞬くのも、注ぎ込む時間が妙に長いのも、あたしの心をギリギリと責め苛んだ。ほんの十五分やそこらだったけど、それは永遠みたいに長く苦しかった。
「ジュニパー!」
運転席から飛び降り駆け寄った荷台で、ジュニパーの周りには投擲された手槍や長弓の矢がいくつも刺さっている。その中心で脱力した顔のまま、水棲馬の美女は潤んだ目であたしを見た。
「……あ、あのねシェーナ」
「怪我は⁉︎ 傷は、ひどいのか⁉︎」
「もう、大丈夫なの」
ミュニオが微笑んで、ジュニパーの後頭部から手を離す。
「ジュニパー、頭を……怪我したのか?」
「あ、ええと……うん、そう、みたい?」
「なんで疑問形なんだよ」
「頭を打って、ちょっとだけ気絶してたみたいなの。すごく大きなコブになってるの」
なんでまた、とジュニパーを見ると彼女は挙動不審な表情で、ついーっと目を逸らす。
「あ、あのね? 敵を、いっぱいやっつけて、ぼくも役に立ったから、嬉しくて、つい……やったーって」
「わたしも、そこは見てたの」
ああ、助手席でミュニオが息を呑んだところね。
「ジュニパー飛び上がったら、たまたま車が跳ねて、機関銃架に頭ぶつけてたの」
「このバカ!」
あたしが怒鳴るとヅカ馬はキュン、と縮こまってプルプル震え、哀れっぽい目でこちらを見る。ふだん男前でグラマラスなクセに、こういうとこだけ七歳っぽい幼さで腹立つ。
「ぼくがクラッてなったとき、あいつら槍とか弓矢とかムチャクチャ打ち込んできてさー。ズルいよね?」
いや、ズルくはないだろ。むしろ、拳銃やらカービン銃で遠距離からバンバン殺し回ったこっちの方が遥かにズルいと思うわ。それはともかく。
「怪我は、頭のコブだけ? どこか、矢が刺さってたり、槍に引っ掛けられたり、してないのか?」
「大丈夫、当たってないよ。ちゃんと全部避けてから気絶したもん」
器用だなオイ。まあ、無事ならいいけど。この魔物ガールは、なんか不満そうというか、拗ねた感じの顔になってるのが気になる。そんな顔される覚えはないのだが。
「シェーナ、ぼく、がんばったよ?」
「……それは、そうだけどな。あんなに死ぬほど心配させられてなかったら、素直に褒めるとこだったけど」
「そんな⁉︎ 褒めて褒めて! ね、ミュニオ?」
「そうね、ジュニパー、がんばったの」
チビエルフがお姉さんみたいな顔で微笑み、グラマラス美女の頭を撫でた。いくぶん恥ずかしがりながらも嬉しそうにして、ジュニパーはあたしを見る。ああ、もう……
ふたりを丸ごと抱きしめて、あたしは耳元で囁く。
「ありがとな、ふたりとも。無事に切り抜けられたのは、ふたりのおかげだ」
「違うよ、シェーナ。みんなで、がんばったからだよ?」
「そうなの。みんなで、勝ったの」
おかしな話だけど、あたしはなんでか泣きそうになって、ふたりと合わせた頭をグリグリと押し付ける。
「……そうだな。あたしたち、みんなの勝利だ」
このまま感動のフィナーレになれば良いんだけど、未だ追っ手の掛かった逃亡者だ。あたしたちは抱擁を解いて脱出行の続きに入る。
「ああ、シェーナありがとう。すごい武器だね、これ」
ジュニパーは大型リボルバーを差し出してきた。あたしは少し迷って、彼女にはそのまま持っていてもらう。弾薬も、38スペシャルの五十発入り箱をいくつか追加で渡した。
「いいの?」
「うん。ジュニパーにもミュニオにも、銃に慣れて欲しい。あたしだけじゃ、生き残れる気がしないし」
彼女の得意は接近しての肉弾戦みたいなんだけど、前に出てそれをやられるとあたしとミュニオが射撃に入れない。いざというときに近接戦闘の用意は必要だとしても、とりあえずは全員が銃を使えるようにはしておきたい。
「となると……もう一丁、追加の銃が要るかな」
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続きは本日19時予定です。




