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【書籍化決定!&新章スタート!】マグナム・ブラッドバス ―― Girls & Revolvers ――  作者: 石和¥
Beast Encounter

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逃げずに向き合う

龍の住処(ドラゴンズネスト)……って、龍がいるのか?」

「いるよ。最後に目撃されたのは百年以上前だけど、そのときはムールム王国が壊滅的被害を受けて、帝国に侵略されるきっかけになった」

「お、おう……ホントにいるんだ、龍」


 さすが異世界。いや、そんなもんと戦う気はない。どんなサイズか知らんけど、ドラゴン相手に拳銃とカービン銃で立ち向かうとか無理。マグナムがどうとかいう問題じゃないし。


「それじゃ、そっちに向かうと見せかけて、東側に引きつけておいて反転、城砦側(あっち)を全力突破する」

「え?」


 あっさり提案を蹴ったことでジュニパーとミュニオは怪訝そうな顔になる。

 なんでだよ、ドラゴンより騎兵の方が楽に決まってんだろ。


北側(まえ)に二百、南側(うしろ)のも百はいるよ?」

「兵士が乗った馬よりは、ランドクルーザー(こっち)の方が速い。ドラゴンの鼻先を通過するより危険も少ないだろ」

「あの広がった陣形、こちらを包囲しようとしてる。突破は難しいと思うけど」

「わかってる。ミュニオ」


 あたしは懐から出したカービン銃(マーリン)をミュニオに渡す。箱に入ったままの357マグナム弾もだ。五十発入りを七つ、最初の砦で奪った携行袋に入れて肩からたすき掛けにしてもらう。

 これで突破できなければ、たしかに危ないかもしれんけど。そんな状況なら、何をしたって危ないってことだ。


「わたしも、戦える?」

「もちろん。今回は、お前だけが頼りだ」

「ぼくは……」


 あたしたちを見て、ジュニパーが口ごもる。自分だけ役割のないことが不満……いや、違うな。不安(・・)なんだ。気持ちが通じ合ったとしても、変わらないものはある。あたしたちは、みんな同じ。

 きっと、欠けてる自分を(・・・・・・・)自覚してる(・・・・・)。だからずっと縋るものを求めて、同じくらい強く、縋られることを求めてるんだと思う。

 “共依存”、だっけ。穀潰しのヒモと、そいつに貢いじゃう女の子みたいな関係。自分でいっててウンザリするけどな。


「ジュニパーも、銃を使うか?」

「いいの?」


 今回あたしの役目は運転だ。いざというときのためには、22口径の小型リボルバー(ラングラー)があればいいか。大型リボルバー(レッドホーク)を手渡して、ジュニパーには38スペシャルの弾薬を百発渡す。平然と胸の谷間に収めるのを見て、呆れながらさらに百発。簡単に装填と狙い方、撃ち方と安全のために必要な手順を教える。抵抗がないといえば嘘になるけど、ふたりがいなければ三百からの騎兵を突破できない。

 それよりも、気になっていたことをひとつだけ確認する。


「なあ、ふたりとも。ドラゴンの巣を抜けるとしても、ただじゃ済まなかっただろ。いざというときは、どうするつもりだったんだ?」

「ぼくが」

「わたしが」


 同時に答えたその口調で、なんとなく理解できた。こいつら、いざとなれば自分が囮になって残りのふたりを逃がすつもりだったんだ。

 なんだそれ。苛立ったあたしは助手席のふたりを睨みつける。


「今度そんなこと考えたら、ぶん殴る」

「「……!」」


 振り返ったあたしの眼は、きっと紅く光っているのだろう。ジュニパーもミュニオも、青褪めた顔でプルプルと頷きを返す。これだけはダメだ。ちゃんと伝えておかないと、こいつら何度でも繰り返す。


「本気だからな!」

「「は、はひぃッ!」」

 

 わかってる。ここで怒っただけじゃ、意味がない。ちゃんといわなきゃ、口にしなきゃ、伝わらない。

 通じてないってことは、あたしの言葉が足りなかったんだ。察してって、不機嫌な顔するだけで自分からは何にも動かないような馬鹿を、あたしはずっと嫌ってたのに。


あたしたち(・・・・・)みんなで(・・・・)って、いったじゃん」

「「うん」」

「貸し借りは、なしでって、本気で思ってるんだ。だから、そういうのは……“自分だけ犠牲になれば良い”っていうのは、やめて」

「「……ごめんなさい」」

「みんなで戦って、みんなで勝ちたいんだ。他の選択肢は、ないよ。みんなで行くか、行かないかだ。抜け駆けはなし。生き延びるときも」


 ふたりの顔を見て、あたしは真摯に訴える。


「死ぬときも、一緒だ」

「「うん!」」


 ミュニオは助手席の窓を開けて狙いを確認し、弾薬を取り出しやすいように携行袋の位置と中身を確認する。

 荷台のジュニパーはといえば胸元から出した箱を開け、弾丸をあちこちのポケットに流し込む。そのポケットは、どういう……いや、それ以前にその胸の谷間は異次元と繋がってたりとか……いや、そんなことはどうでもいい。

 目が合うとニッと笑うふたりを見て、あたしはなんでか、とてつもなく幸せな気分になる。


「準備はいいか?」

「いつでも」

「大丈夫なの」


 距離は一キロを切ったくらいか。包囲陣を広げる騎兵集団を見ながら、あたしは東に向けてランクルのアクセルを踏み込む。

読んでいただき、ありがとうございます。

続きは明日13時予定です。

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