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【書籍化決定!&新章スタート!】マグナム・ブラッドバス ―― Girls & Revolvers ――  作者: 石和¥
新章01 ―― Simon's Legacy ――

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◆【Shana's Side】Cowardly Plotter

「あれ、ルエナさん?」


 城砦に戻る途中で、森から出てくるルエナさんと出会った。短弓を持ってはいるけど矢筒と一緒に背負われたままで、狩りに出ていたという雰囲気ではない。


「ぼくらはミニエーズを調べに行ってきたんだけど、ルエナさんは?」


「森を見てきただよ。シェーナたちの話を聞いて、ちょっとばかり気になることがあってな」


 そう言って東を指す。ちょうど、あたしたちがゴブリンを倒した辺りだ。

 なにがあったのか、いつも飄々とした感じのルエナさんが、どうにも困ったような顔をしている。


「早く帰るべ。長老たちに話さんといかん」


 城砦遺跡に戻ったあたしたちは、ミュニオと避難民の大人たちを呼んだ。まずジュニパーとあたしが、ミニエーズで見てきたことを話す。


「ミニエーズは、ゴブリンの群れに襲われてた。あの煙は、ゴブリンを追い払おうとした火が燃え移ったみたいだね」


「ゴブリンはミエニー族の連中がほとんど倒してたから、こっちに流れてくることはなさそうだ」


 そう言うと避難民の大人たちはホッとしてた。ルエナさんを除いて、だけど。


「町の周りに、もっと大きい群れはいなかっただか?」


 暗くなりそうだったのでダンジョン側には行ってないけど、高台の樹上から見渡した限り他の群れはいなかった。

 ジュニパーの説明を聞いて避難民の大人たちは安堵し、またルエナさんだけが困った顔をする。


「この辺りにもミエニー族の町(ミニエーズ)の周りにも、ゴブリンだけが繁殖する(ふえる)ような餌も理由も見当たらねえ。それに、どうにもけったいだなや」


「どういうこと?」


「スライムがいねえだよ」


「スライムって、丸くてぷにぷにした、あれ?」


 スライムはこの島で最も多く生息する、ごく弱い魔物だ。水場や湿気を好み、死肉を分解する食物連鎖の最下層。ジュニパーによれば南大陸にもいないことはないらしいけど、通ったのが砂漠とか乾燥した地域ばかりだったせいか、あたしはこの島に来て初めて見た。

 基本的には無害で、どこぞのゲームやらアニメみたいに顔もないし知能も感じられない。元いた世界のナメクジとかミミズに近い印象。


「スタンピードの最初の兆候(さきがけ)は大概ゴブリンなんだけんど、その後にはスライムが続くもんだ。この島でいちばん多い魔物だかんな。それがないのは、少しばかりおかしいだ」


 スタンピードの場合、まずダンジョンで繁殖力の高いゴブリンが大発生して、殺したり殺されたりで魔力や死肉や魔珠を大量に生み出し、数の多いスライムが集まってそれを取り込み分解することで周辺地域の魔力を凝縮させる。それが大型の強い魔物たちを呼び寄せて密集状態になった後、しだいに指向性を持って動き始めるのがスタンピードの始まりなんだそうな。

 魔物も獣も少ない森のなかで起きることはない。まして、人間が暮らす環境を整えた町の近くで起きることもだ。ルエナさんの説明を聞いて、大人たちの顔が強張る。


「それじゃ、あんな数のゴブリンがミニエーズに押し寄せたのは……」


 ジュニパーの疑問を受けて、ルエナさんは苦々しい顔でうなずいた。


「誰かが、町に(けしか)けたんじゃねえかと思うだよ。魔物使役者テイマーを遣ったか魔物誘引剤(アトラクタント)を撒いたか、いずれにせよ自然に起きるとは思えねえだ」


 城砦近くの森(こっち)|に来た群れは、その余波(ながれ)別途(ついで)ではないかというのがルエナさんの予測だった。


「ちょっと待って、ぼくらはともかく、ミエニー族に対してそんな手の込んだ攻撃を加えるような勢力がいるってこと? ぼくら、ミエニー族(あいつら)がこの島で最大のグループだって聞いてたんだけど」


「ジュニパーさまのおっしゃる通りです」


 長老のヌマグさんが話を引き取って言う。ミエニー族は、このハイアドラ島で最多の民族であり、最大の、そして唯一の政体を形成している勢力でもある。


「ですが、ミエニー族もひとつではないのです」


 いまミエニー族の町(ミニエーズ)を統治しているのはミエニー族でもハイアドラ南部の氏族で、町から締め出されてイルミンシュルの恩恵を受けられなかった北部の氏族とはずっと敵対しているのだとか。


「めんどくさ……ッ」


「それは、ぼくもシェーナと同感だけどね。前にルエナさんが言ってた、みんなの住んでた村を襲った海賊って、もしかして……」


「北部のミエニー族だなや」


「ミニエーズに代わる安住の地を求めてあちこちに拠点を作ろうとしていますが、イルミンシュルの加護なしで生き延びるには森から離れた海沿いか強固な城壁が必要となりますから……」


 くっだらねえ。エラそうに島を支配してる連中かと思ったら、同族のなかでも争ってやがんのか。でもまあ、そこは正直どうでもいい。北部だろうと南部だろうと、連中が敵であることには変わりない。敵も、敵の敵も、敵だとシンプルに考えておこう。


「なあ、ヌマグさん。ここにいたところで、良いことなんてないだろ。この際みんなで、ミキリアルとかいう村に戻らないか?」


「ですが」


「海賊の話なら、()()するから大丈夫だよ。道中の安全も、定着のための防衛も、こちらで用意する。イルミンシュルも向こうに運べる」


 なんなら、この城砦遺跡もだ。全部を運べるかわからんので、口には出さなかったけどな。というか、運べたとしても着いた先で元に戻せる気はしない。


「我々も、ずっとここで暮らせるとは思っていませんでした。シェーナさま、ミュニオさま、ジュニパーさまのお力添えをいただけるのでしたら、ぜひ……」


 話の途中でいきなり、ミュニオとジュニパーの気配が変わった。避難民のなかでも敏感なルエナさんとマイエルさんが、ビクッと身を強張らせて傍らの短弓に手を伸ばした。


「敵か?」


「北西と北東、距離は8百メートル(半哩)、数は三十ずつくらいなの。北西側は人間、だけど北東のは魔物だと思うの」


 ミュニオはあたしの言葉に応えながら、援護に回ると上を指して物見塔に登っていく。


「ジュニパー」


「いつでも行けるよ。大人たちは屋上(うえ)で子供たちを守ってて」


 あたしは水棲馬の姿になったジュニパーに飛び乗って、城砦遺跡を飛び出す。そとはもう陽が落ちかけている。ジュニパーは問題ないだろうけど、あたしは夜目が利かない。夜の戦闘となると、かなりの不利を覚悟しなくちゃいけない。


「このタイミングで襲撃を仕掛けてくるような連中か……」


「ミエニー族って、もしかしたら戦慣れしてるのかもね」


 ジュニパーが、なんでか嬉しそうな声で言った。

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臆病な陰謀家って誰かな? 硬すぎる相手に噛み付くと歯が欠けるのは承知してるのか。
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