◆【Shana's Side】The hunt begins
城砦遺跡に戻ったあたしを見て、ミュニオとジュニパーが首を傾げる。
「あれ、シェーナどうかした?」
「ん? どうって?」
「ヘンな顔、してるの」
ふたりに言われて、そうかなと自分の顔を撫でる。自覚はなかったけど、ショックを受けてはいるのかも。
「前に会った武器商人の爺さん、覚えてる?」
「もちろん。サイモンさん、だよね?」
「うん。……事故で、亡くなったって」
ふたりは驚いて固まる。ミュニオとジュニパーが会ったのは逃避行の一回だけだけど、あたしたちが生き延びられたのはあの爺さんが調達してくれた銃と物資のお陰だってことは当然ながら理解している。
「それは……残念なの」
「そうだね。ぼくらに、できることがあればいいんだけど」
曾孫のエステルっていう女の子と会って、イルミンシュルの小枝を渡してきたことを話す。これからの取り引きをエステルが引き受けたいってこともだ。
「曾孫? その子は何歳くらいなの?」
「さあ。見た感じは、あたしより少し下かな。十六とか、十五とか」
あたしはともかくミュニオとジュニパーは自分の誕生日も知らないというので、この島に上陸した夜に思いついて誕生パーティをした。ハッピーバースディを歌って、甘いものを食べた。その日からミュニオは三十三歳、あたしは十八歳で、ジュニパーは八歳ということになった。
それはともかく。
「エステルからの贈り物だ。これをジュニパー、こっちはミュニオに」
いままで大型リボルバーだけだったジュニパーには、メインの武器となるレバーアクション式散弾銃のウィンチェスターM1887。逆にカービン銃だけだったミュニオには、バックアップ用の拳銃だ。ルゥガーのバケーロというらしいリボルバーは、アドネの衛兵隊長代理エリのコルトSAAに似ている。グリップは例のごとく紅いんだけれども、銃本体はステンレス仕上げの銀色。コルトSAAは45ロングコルトっていう弾薬だったけど、バケーロはマーリンと同じく38スペシャル弾と357マグナム弾を使用できる。
テオのオッサンに聞いた銃の装填方法やら操作方法やらを伝えて、それぞれの弾薬を箱で渡しておく。
「それと、これも」
ミュニオのリボルバーには、エステルがガンベルトをおまけにつけてくれた。なんというのか知らんけど、ガンベルトは西部劇で見かけるような、予備の弾薬を二十発ほど保持できる仕様になってる。そして、例によって例のごとく紅い。
「ありがとう、とっても嬉しいの♪」
「この“うぃんちぇすたー”、すごくカッコいいね! 今度会ったら、エステルにお礼を言っておいて?」
新しい銃は好評。ふたりとも嬉しそうに身に着けている。ミュニオはガンベルトなんだけど、ジュニパーは胸の谷間に収めてしまった。
拳銃の何倍もデカい散弾銃をスッポリって。どうなってんだ、その爆乳謎収納。懐収納にランドクルーザーを収めたあたしが言うのもなんだけど、ジュニパーのはなんか、羨まけしからん感じがスゴい。
「ジュニパーのウィンチェスターはタマの広がり方が大きくなるから、近距離で威力を発揮するんだって。どっかで試してみようか」
「いいね。狩りに行ってみる? 北東側の森にゴブリンの巣があるみたいだから」
「ゴブリンか。南大陸でも見たけど、東群島にもいるのか」
ジュニパーが避難民たちから集めた情報によれば、南大陸にいるのより少し小型で、素早くて、木に登るらしい。そんな地域差があるとは知らなかった。
◇ ◇
「城砦遺跡のことは、わたしに任せるの!」
笑顔のミュニオ姐さんに見送られて、あたしとジュニパーは砦の北東側に向かう。
ジュニパーがM1887に慣れるのが目的なので、あたしは自動式散弾銃でバックアップだ。
ふたりとも、鹿用大粒散弾を装填した。人間の場合は鳥用小粒散弾で戦意を殺ぐのも手だが、魔物は手負いにしても死に物狂いになるだけで撤退なんかしない。
「奥にゴブリンの巣があるね。この方向、百二十メートルくらい。気配からすると数は二十前後かな」
ジュニパーが手で方向を示す。密生した木々で視界は通らないので、気配の察知がカギになる。あたしも身体強化と感覚器の強化は頑張ったんだけど、まだミュニオとジュニパーには全然かなわない。“なんかいる”程度のボンヤリした感覚しかない。
「シェーナ、あんまり近づき過ぎない方がいいよ」
「銃の強みを生かすんなら、距離を取らないとってこと?」
「それだけじゃないんだ」
南大陸のゴブリンは人間から奪った汚い剣とか棍棒とかを持っていたけど、こっちのゴブリンは武器を持たず飛び掛かって引っ掻いたり嚙みついたりしてくるらしい。相手はどんな病原菌を持ってるかわからない魔物だ。ある意味で、武器よりも怖い。
「右奥の岩場で迎え撃つのは?」
「いいね」
あたしの提案にジュニパーがうなずく。そこだけ少し高台になっていて、巣の方向を見降ろせる。巣そのものは森の奥で見えないけど、そこから向かってくる敵が見える。岩が遮蔽にもなるし、後ろに回り込まれる心配も少ない。
「ちょっと誘い出してみる」
ジュニパーは野球ボールくらいの石を拾うと、大きく振りかぶって投げた。ブンッ、と風切り音がして飛んで行った石が遥か彼方で何かに当たったようだ。ゴブリンなのか魔物が騒ぎ出す音が聞こえてきた。
「来るよ」
森の奥から、最初の一団が出てきた。距離は、聞いていた通り少し小柄で、武器も装備も身に着けていない。まだこちらに気づいていない。叫び声を上げながら、キョロキョロと周囲を見渡している。
距離は、三十メートルくらいか。
「ウィンチェスターで、届くかな」
「射程距離も含めて、試してみて。いざというときはサポートするから」
「うん!」
ショットガンは狙い撃ちするような銃ではないし、そもそもM1887には照準器がない。ジュニパーの放った初弾は、わずかに距離が足りなかったようだ。四体いたゴブリンの二体に当たってはいたようだけど、怒ってこちらに向かってくるところを見る限り、ダメージはほとんどなさそう。
「見つかっちゃっただけだったね」
「向こうから近づいてくるなら丁度いい」
続く三発で三体を仕留め、残りの一体も引き付けて仕留めた。初めての銃だというのに、落ち着いた対処だ。サポートの必要はなかったな。
彼女が装填している間、あたしは高台に続く坂でゴブリンの死骸を収納して回る。死んでいることの確認も兼ねてのことだが、仕留めそこなっていたり死んだ振りしていたりはなし。……なんだけど、なんかヘンな感覚があった。
いきなり背筋が、ゾワリと震える。これは……
「シェーナ! 戻って!」
ジュニパーの慌てた声に振り返ると、傍らの森からゴブリンの群れが一斉に飛び出してくるところだった。
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