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【書籍化決定!&新章スタート!】マグナム・ブラッドバス ―― Girls & Revolvers ――  作者: 石和¥
新章01 ―― Simon's Legacy ――

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◇【Esther's Side】受け継ぐもの

 初めて会ったシェーナは、思っていたタイプとは少し違っていた。


 曾祖父が遺した“どこにも属さない(マヴェリック)”という表現は、合っているといえば合っているのかもしれないけれども。身に着けたデニムのシャツもパンツも、ベルトもブーツもみんな紅い。だというのに、まず最初に目に入ったのは彼女の輝く瞳だった。

 警戒するでもなく、値踏みするでもなく。こちらを向いた視線も眼の光も、揺れることなくただ静かにこちらを見据える。落ち着いているいうのとは、少しだけ違う気がした。過酷な戦場を経験した兵士の目に近いか。


「そんじゃ、そいつらは、あたしが引き取るよ」


 私が住居侵入者対策空間(パニック・ルーム)から出てきたときには、すべてが終わっていた。決死の覚悟で握り締めていたリボルバーは、なかなか手から離れようとしない。

 それでもなんとか演台の上に銃を置いて、私は襲ってきた連中の死体をシェーナが消してゆくのを見ていた。彼女が手を振るごとに、床に転がっていた男たちは次々に消滅する。まるで魔法のようだが、テオおじちゃんからそれが実際に魔法なんだと説明された。

 いまシェーナがいる世界には魔法があって魔物がいて、エルフやらドワーフやら獣人やらが暮らしているのだとか。

 私にとっては荒唐無稽な、映画やコミックブックのような世界だけれども。彼女たちも銃がなければ生き延びられなかったというから、夢のような場所ではないのだろう。


「なあ、それより爺さんはどうした」


 彼女は曾祖父の死を知らずに、こちらの世界と接続したようだ。遺された手紙から察するに、シェーナのいる世界とこちらとを結び付け、曾祖父との取り引きを成立させていた媒体が、きっと目の前にある演台なのだ。


逝っちまった(ヒーズ・ゴーン)


 テオおじちゃんの言葉にも、彼女は動揺しなかった。それは、なにも感じていないという意味ではない。ここまでの付き合いで、なにか通じ合う思い(もの)があったのだろう。シェーナは事実を受け入れ、曾祖父との思い出を言葉少なに語った。

 なにか人生でやり残したことを、終わらせようとしていたこと。曾祖父にとって、それは賭けだった。カネではなく、自分の人生の価値を見出すための。

 正直、私には共感できるほどの人生経験がないのだが。


「あいつは、勝ったんだな」


 シェーナの言葉は、すんなりと腑に落ちた。思えば曾祖父がときおり見せていた、遠くを見るような表情。老齢でありながらなにかを諦めていない、ある種の決意のようなもの。

 あれは、ルーレットを見据えるギャンブラーの(かお)だ。

 曾祖父が本当の自分を見せていたのは、そして心情を吐露していたのは、私でも他の家族でもなく異世界で戦い続ける女の子だった。

 悔しくはあるが、わかるような気はした。彼女が驚かず、悲しまなかった理由も。ふたりは、言ってみれば戦友のような関係(もの)だったのだろう。


「これを爺さんの墓にでも供えてくれないか」


 シェーナは、小さな花がついた木の枝を差し出してきた。悪を遠ざけ幸運をもたらす、聖なる樹の枝だという。不思議な光を放つ花を見れば、ふつうの植物でないことは明白だった。それは、かつて曾祖父が市場に持ち込んだという奇跡の花、“祈りのシェリル”に似ていた。


 私が礼を言うと、シェーナは用が済んだとばかりに帰ろうとし始めた。テオおじちゃんから用件を訊かれて、曾祖父にショットガンの調達を頼むつもりだったと話す。

 この隠れ家に用意されていたウィンチェスターを渡すと、紅い木部を呆れたように見る。テオおじちゃんから操作方法を教わっていた途中で、なぜかシェーナの表情が崩れた。整った顔がくしゃりと歪み、泣き出しそうなのを隠そうとして横を向く。

 そうだ。誰かを喪った悲しみは、すぐには来ない。なにか、ほんの小さなきっかけで、いきなり押し寄せてくるのだ。私は、彼女を止めた。理由はわからない。


「ねえ、シェーナ」


 気づけば、私は彼女に商取引を持ち掛けていた。曾祖父の後を継いで、彼女をサポートさせて欲しいと。

 シェーナは、少し迷っているようだ。こんな小娘になにができるのかと思っているのだろう。たしかに、私は商人(ディーラー)の経験などない。銃器も車両も詳しくない。でも、このまま帰せば曾祖父との間にあった絆を、培われてきたコネクションを、断ち切ることになる。


 そして、もうひとつ。最大の理由は、単なる私のエゴだ。

 私は、見たいと思ってしまった。知りたいと思ってしまったのだ。彼女と彼女のパートナーたちが生きている……


――遥かな異世界の、有り様を。

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― 新着の感想 ―
更新ありがとうございます。 こうして関係と歴史は紡がれるのですね。
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