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【書籍化決定!&新章スタート!】マグナム・ブラッドバス ―― Girls & Revolvers ――  作者: 石和¥
新章01 ―― Simon's Legacy ――

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◆【Shana's Side】Short Fuse Burning

「ルエナさんの位置はわかるか?」


 ミュニオ姐さんは頷いて地面に木の枝で線を引く。北北西8百メートル(半哩)のところに、ふたつの×印。斥候らしき気配があるとは聞いた。その先に大きな楕円を描く。いまいる城砦遺跡と、ミエニー族が暮らす町ミニエーズとの中間地点。ミニエーズまでは4キロ半(3哩弱)ほどらしいから、ざっくり2キロくらいか。


「ミエニー族が15から20人くらい。武装して、待ち構えてるの」


 頭巾の端切れを矢に結んだのは、救出に来なければルエナさんは無事では済まないという脅しだ。そして、救出に来たこちらの戦力を潰しにかかると。


「ははッ」


 思わず乾いた笑いを漏らすと、ミュニオも首を苦笑交じりに小首を傾げた。

 ハイアドラ(この島)の住人たちにとって、あたしたちはどこかから来てどこかに消える余所者(よそもの)だ。実際、こちらからしても単なる通過点でしかない。ハイアドラなんて名前も上陸して初めて知った。ミエニー族と避難民たちの関係も歴史も確執も、伝聞でしか知らない。複雑な事情があるようだけれども、深入りするつもりはなかったのだ。イルミンシュルとかいう神木だか聖樹だかについても同じだ。それは彼らの問題であり、干渉する気はなかった。――ただ。

 たとえ一時的な協力関係であっても、あたしたちの仲間に手を出すんなら。


「いまから、あいつらは敵だ」


「シェーナ」


 穏やかな表情のまま、ミュニオはあたしを見た。わかってる大丈夫だと、頷きを返す。東群島に上陸するにあたって、三人で最初に“原則”を決めた。

 自分たちの身を守ることが最優先。それを超えない範囲であれば、可能な限り“仲間”を守る。


「やっぱり、こうなったなって……」


「思ってるの」


 咎めるような表情のミュニオが、でも優しい目をして笑う。


「でも、それがわたしたちの、望んだ結果なの」


 ああ、そうだ。基準がガバガバなのは、ハナから自覚してた。どこで“仲間”の線引きをするか。そんなもん結果を見るまでもなくケース・バイ・ケースという名のグレーゾーンが際限なく広がっていくことくらいわかりきっていた。

 だけど、あたしたちはその先を決めなかった。決めたくなかった。悩んだり迷ったり困ったりするのも含めて、自分たちで考えて、決断して、その結果を受け入れる。


 それが、“生きている感じ”だから。


「それじゃ、ここは()()()()()()()の出番かな」


「そして、()()()()()()()も。わたしは、物見塔(うえ)で支援するの」


 ずっと傍観者だったヌマグさんは、明るい表情で話し合うあたしたちを見て固まってる。見捨てるつもりがないことは、通じてるみたいだけれども。そこから先は単なる避難民のお爺ちゃんであるヌマグさんの想像の埒外(そと)だ。


「ジュニパー!」


 待ってましたとばかりに水棲馬(ケルピー)姿のジュニパーが地上階まで飛び降りてきた。澄まし顔であたしの騎乗を待ってるけど、ワクワクしてるのが丸わかりだった。それは彼女だけじゃなく、入れ替わりに階段を上ってゆくミュニオも、ジュニパーの背に乗ったあたしもだ。


「そんじゃ、ちょっとルエナさん取り返してくる」


 長老に伝えると、理解できないようで目を白黒させている。


「それじゃ、行くよ!」


 ジュニパーは砦を飛び出すと、水たまりも泥濘も坂道も気にせずジャングルを縫っての全力疾走に入る。南大陸でも、森の中を超高速で突っ切る経験はした。とはいえこの島の植生は獣道さえないほどの密度なので、突っ切ることは不可能。避けるか飛び越えるか吹っ飛ばすかだ。


「初めて上陸したときのことを思い出すねえ?」


「そうね。でも余所見しないで、怖いから」


 笑顔で振り返るジュニパーの首を、あたしはグイグイと前に向ける。ほんの数分で敵陣らしきものが視界に入ってきた。後衛が一斉に弓を引いているのがわかった。でも、無理だ。あたしはジュニパーに警告すらしない。


「左奥、青い服着た男の横」


 ジュニパーがルエナさんの居場所を、短く伝えてくる。それと同時に数十本の矢が飛んできたが、加速する水棲馬(ジュニパー)の速度にはまったく対応できずあっさりと(かわ)されてしまう。

 それはそうだろうな。膝まで埋まるような泥のプールを時速百キロ以上で突っ込んでくる生き物がいるなんて、ジュニパーと出会う前のあたしだって考えない。


 抱えた自動式散弾銃(オート5)鳥用小粒散弾(バードショット)を連射する。せいぜい薄い革甲冑程度のミエニー族に対しては、鹿用大粒散弾(バックショット)は過剰火力だ。そもそも殺すよりも負傷させた方が、より多くの被害と問題と恐怖感を与える結果になる。

 九発を叩き込んだ後に再装填して計十八発。撃ち尽くすまでもなく、敵陣に立っている者はいなくなった。


「……が、あああぁ……ッ!」

「ぐ、ああ、あ」


 悲鳴と呻き声に満ちた陣地に、水棲馬に騎乗したあたしはゆっくりと入っていく。

 ミエニー族を間近で見るのは初めてだった。見た目は、どうということもない人間だ。肌や身長や体型は、印象としてアジア人に似てる。こちらに向けられた視線に込められているのは、わずかな殺意と憎しみ。そして圧倒的なまでの恐怖だ。


「仲間を、返してもらう」


 短く言って、左手を差し伸べる。右手には銃を構えたままなので、ミエニー族からは抵抗どころか反応すらない。後ろ手に縛られたルエナさんが立ち上がり、こちらに歩いてくる。手を出したら殺すというあたしの威嚇に、ミエニー族の連中は硬直したまま動かない。

 ルエナさんをジュニパーの背に引き上げて馬首を返したところで、この場の指揮官と思われる“青い服着た男”に目を向ける。殺されるとでも思ったのか、男はビクッと身を強張らせた。


「殺される覚悟があるなら、いつでも来い。ただし、女子供に手を出したら」


 あたしは、男の頭の上で揺れていた指揮官の印らしき羽飾りを散弾で吹き飛ばす。


「殺してくれって、懇願するような目に遭わせてやる」

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更新ありがとうございます。 最近の午前中の楽しみです。
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