村民救出
あたしとルイナを抱き上げると、ジュニパーは大きく飛び上がった。水棲馬形態でもないのに数十メートルをひとっ飛びして、小屋の前まで迫る。
気配に気付いたのか偶然か、小屋から出てきた兵がいた。一瞬なにが起きたのかわからないような顔で固まっていたが、ジュニパーの回し蹴りで小屋の壁に叩き付けられた。
ベチャッと壁に血飛沫が広がって、倒れた後はピクリとも動かない。
「もしかして、壁を崩すのもアリか?」
「ぼくも考えたけど、屋根ごと崩れちゃいそうなんだよね」
次々に飛び出してくるエルフの兵士を、会話しながらビンタで吹き飛ばすジュニパー。一撃でエルフの顔が崩れて頭蓋骨が歪み、折れた首が長く伸びた状態で横ざまに倒れる。
それが三人続いたところで、出てくる兵士がいなくなった。
「なかの気配は、あとふたり。ひとりが攻撃魔法を練ってるみたい。ちょっとこっちに避けとこうか」
「赤ん坊、はッ」
ドゴンと壁が吹き飛んで、炎の柱が地面に突き刺さる。あたしとルイナが直前まで立っていた場所に爆煙が上がった。
小屋のなかから何か叫んでいる声が聞こえたけれども、爆発でキーンと麻痺した耳には聞き取れない。
壁に開いた穴から喚き散らしているエルフの姿が見えた。魔導師なのか右手に魔術短杖、左手に小さな子犬みたいのをぶら下げている。それが人狼の赤ん坊なんだろう。あたしは懐から取り出したリボルバーを構えて、狙いをつける。
距離は七、八メートル。間違っても赤ん坊に当たらないように両手で保持して右肩を撃った。剥き身のエルフに魔導防壁はなく、肩がひしゃげて血飛沫が飛び散る。
「ああああぁッ⁉︎」
致命傷にはならなかったが、もう右腕は使い物にならない。
エルフが取り落とした赤ん坊を、小屋に飛び込んでいったルイナが拾い上げる。援護しようにも、ふたりが射線上で重なっていて撃てない。床に転がったワンドを、エルフの魔導師が左手でつかんだ。
外に逃げ出してくるルイナの背中に、攻撃魔法をぶつけようとしているのがわかった。
「シェーナ、待って」
短く叫んで、ジュニパーが入り口から小屋のなかに踏み込む。一瞬でエルフの前まで距離を詰め、身体を沈ませるのが壁の穴から見えた。
「貴さ、まぅッ⁉︎」
ぐにゃっと、エルフの顔が歪んだ。頭が捻れて首が飴のように曲がり、魔導師は踊りに似たおかしな動きで身体を泳がせると、くにゃくにゃと崩れ落ちる。
あまりに速過ぎて視認できなかった。そのときになってようやく、ジュニパーに顔面を蹴り飛ばされたのだと気付いた。
「済んだよ」
赤子を抱えたルイナが、ホッとした顔でうなずく。まだ敵が残っている可能性を考えて、警戒したままで馬車のところまで戻る。
「みんな、生きてる?」
「……ぁ、あ」
大人たちは檻のなかで、起き上がろうと苦しそうにもがく。無理するなと身振りで示して、ルイナと赤ん坊を見える場所に立たせる。
「ルイナに頼まれて、助けに来た。子供たちも、赤ん坊も無事だ。村を襲ったエルフは、全部で何人だったかわかるか?」
「……十、四」
騎馬の王子と六人の兵士、小屋にいた四人プラス魔導師。ふたり足りない。
「ジュニパー、ここ頼めるか。できれば檻を開けて……」
「うん」
頑丈そうな鉄格子の扉を、ジュニパーは話しながら鎖ごと引きちぎった。仕事早いな。
「ルイナ。敵は、あとふたりいる。みんなが隠れられる安全な場所は」
「そこ。倉庫だから、広いし壁も厚い」
彼女が指した近くの建物に、全員を避難させる。どこにいるのかわからん残りの敵を、ジュニパーとふたりで待ち構える。
「ジュニパー、どこにいるのか、わかるか?」
「近くに気配は、ないけど……」
倉庫に誘導していたルイナが、こちらを振り返る。
「シェーナ、長がいない。あいつらに連れて行かれたって、いってる」
「連れてかれたって、どこにだ? 長の家にはいなかったぞ」
「下に。わたしを、誘き出す餌に、するつもりで……」
まさか、行き違いになったのか。ランクルが停めてある方向から銃声が響いた。タンターンと二発。その後は何も聞こえてこない。
「シェーナ⁉︎」
ルイナは動揺しているけれども、あたしとジュニパーが顔を見合わせて、うなずく。
「たぶん、向こうも済んだよ」
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