リミテッドマーチ
「ミュニオ、そっちは?」
「みんな仕留めたの」
実にアッサリとした答えが返ってきた。
さすが万能砲台のミュニオ姐さん、エルフの平兵士が六名くらいでは相手にもならないか。
というわけで、あたしとジュニパーは正体不明の王子(仮)から、金目のものを剥ぐ。カネに困っているわけではないが、襲ってきた相手への損害賠償請求みたいなもんだ。毎回できることでもないけど、ホントは全員からこれをやらなくちゃスッキリしない。
とはいえ剣はマグナム弾が刀身にひどい傷とヒビを作っているので売り物にはならなそうだし、甲冑も全ての部位が血塗れでひしゃげて穴が開いてボコボコだ。中途半端に頑丈な鎧を撃ち抜いた弾頭は、潰れて中身を掻き混ぜたらしく、エラいことになってる。なので、剥いだ後は放置することにした。
ちなみに馬は、あたしが近付くと怖がって逃げてしまった。
「シェーナ、これ財布じゃないかな」
少し離れた場所から、ジュニパーが革袋を拾ってきた。あたしたちと最後にすれ違ったあたりか。
御大層な刺繍と焼印が入った革袋には、開けてみると金貨が十枚ちょっと。
「案外ショボいけど、こんくらいで勘弁しといてやるか」
「シェーナ……その笑顔、王子というより山賊みたいだね?」
「お前もだぞジュニパレオス」
一応、村長の息子だという人狼も見るが、金目のものどころか衣服も最低限で武器もない。ルイナに頭を割られて、ポカンと呆けたような顔で死んでいた。
「お待たせ」
あたしたちは再びランドクルーザーに乗って、村に向かう。
やるべきことは兵隊の殲滅と村の奪還だ。ただ、ちょびっとだけ違和感があった。ルイナが言っていた話と少しだけ食い違っているような印象。
「なあ、ルイナ。ルイナに子供たちを連れて逃げろって言ったのは、村長なんだよな?」
「そう」
「でも、さっきの、村長の息子……」
「ハーシェル」
「そいつが、エルフの兵隊を引き込んだのか?」
「そう。あいつ数も数えられない馬鹿のくせに、いつも自分の父親を馬鹿にしてた。村の者に甘過ぎるとか、弱い長に群れは任せられないとか。自分は中途半端な暴力以外に何の力もないのに、もう村長になったつもりでいた」
「父親は、まともそうなのに……いや、まともだからこそか。クズには父親が目障りだったんだろうな」
「たぶん、そう。ハーシェルは、ミキマフに忠誠を誓えば村長として認めるって持ちかけられて。勝手に契約魔法を結んで、村の者を贄に差し出した」
どうしようもないクズだとは思うけど、そんなのもいるんだろうなというくらいの感想しかない。
「村のなかで、他に関わっていた奴はいないのか」
「いた、と思うけど」
ルイナは答える前に、少しあたしを見た。たぶん質問の意図を知りたがっている。
「村に向かう前に、誰を救出するべきなのかを知りたいんだ。あたしたちの武器は、いっぺん向けたら殺さずに済ませるのが難しい。だから、正確に言うと……殺して良い相手をハッキリさせたい」
ここまで子供たちを守り切った人狼のお姉さんは、ようやく腑に落ちた落ちた顔でうなずく。
「村の者で怪しいのは、ふたり。でもシェーナたちには、見分けがつかないと思う。エルフだけを殺してくれたら、人狼の裏切り者は、わたしが」
「おっけ。ミュニオ、悪いけどその間、子供らの守りは頼めるかな」
「任せるの♪」
人狼のチビたちは、すっかり懐いたようだ。いまもミュニオを慕って、ウロチョロ足元にまとわりついている。
村を襲ってきたのがエルフなんで、ミュニオに対しても抵抗があるかと思ったんだけどな。たとえばルイナとハーシェルみたいに、どんな種族にも良い奴と悪い奴がいることくらいは理解している風だ。
もしかしたら、けっこう苦労してきたのかも。
小一時間ほど走ると、道は傾斜がつき始めた。水が流れるせいか地面は泥沼から湿った程度の赤土に変わっている。ちょびっと走りやすくなった代わりに、周囲の森が深くなってきていた。“恵みの通貨”でできた森か自然林なのか、あたしには区別がつかないが……なんにしろ森はエルフの得意なステージだ。銃弾も通りにくい。
こんな環境での索敵も、あたしには少し荷が重い。ミュニオとジュニパー、そしてルイナの危機察知能力が頼りだ。
木々の隙間から覗き見ると、頭上に大きな山が近付いてきていた。これがルイナのいっていた、“港の西にある山”だろう。
「村は、そこの道を上がって八百メートルくらい進んだ小さな丘の上」
あたしは森の木陰に、ランクルを停車させた。密生した葉が大きく広がる樹形なので、村のある斜め上方向からは車体が見えないはず。水平方向にはある程度の見通しがあるから、敵が降りてきたときには発見しやすい。
「ありがとう、シェーナ。視界が開けているから、ここなら問題ないの」
「ああ、頼りにしてる」
あたしは水棲馬姿に変わったジュニパーに跨り、案内役のルイナを引っ張り上げる。
「できるだけ、すぐ戻る。良い子にしてて」
「「うん!」」
子供たちの声を背に受けて、あたしたちはルイナのいた村に向けて走り出した。




