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【書籍化決定!&新章スタート!】マグナム・ブラッドバス ―― Girls & Revolvers ――  作者: 石和¥
Sea Blaze

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彷徨う餓狼

本業の年末進行により、不定期更新になっています。短めだったので本日二回目の更新。

「え」


 ボトボトと落ちてきたものをジュニパーがヒョイヒョイと受け止める。暗くて何かはわからんけど、大事なものなのかミュニオも必死に駆け回っているのはわかった。


「シェーナ、受け止めて!」

「あ、おう……?」


 気配だけで手を伸ばしたあたしの懐にぽふんと入ったそれは、驚くほど軽いモフモフの毛玉だった。

 痩せこけて震えていて、ちょっと獣臭い。というか、犬臭い?


「お前ら、コボルトか?」

「人狼だね。どうしたんだろ」


 っきゅうぅうううぅ……ッ!


 さっき聞こえた唸り声……じゃ、ないな。これ、腹の鳴る音だ


「おい、腹減ってんのか?」


 朧げなシルエットを数えると、チビっ子人狼は四名。まだこちらに怯えて震えて答えようとしないが、どうやらスープの匂いに惹かれて崖から転げ落ちそうになったようだ。そして、結果的に落ちてきたと。


「気配を消してたから、正体がわからなかったみたいだね」

「ううん、これ隠蔽魔法なの」


 ミュニオが断言して、あたしは首を傾げる。

 この子たち、魔法使えるのか。人狼、というか獣人って魔力循環させて戦うパワーファイターのイメージあるけど。ヤダルさんのイメージに引きずられ過ぎか。

 ミチュの村で出会った子猫ちゃんズのひとり、灰色毛のルーエも水魔法を習得してたもんな。


「違うよ、……ミュニオ!」

「大丈夫なの」


 あたしたちの頭上に魔法陣が広がり、パシンと小さな水飛沫が弾ける。攻撃魔法……というには貧相だったけど、攻撃の意思は感じられた。どうしたものかと見上げた大岩の上で、青白い光が弱々しく瞬いて、消えた。


「いまの子が魔法使いで、引率役なんだと思うよ。ちょっと連れてくる。気絶しちゃったみたいだから」

「「りゅぃ、なああぁ……!」」


 ジュニパーが倒れた子に何かすると思ったのか、人狼の子たちが一斉に怯えた声を上げる。


「待て、大丈夫だって、落ち着け。連れてくるだけだ。落っこちたら危ないだろ」


 できるだけ穏やかにいってみたものの、ぜんぜん信用されてない。ウーッて小さく唸り声。今度は腹の虫じゃなくて、ホントに唸り声だ。どんだけひどい目に遭ったんだかな。


「ほら、スープ食うか?」


 あたしが寸胴の蓋を開けると、一瞬で唸り声が止む。暗いけど食べ物の香りに釘付けになっているのはわかった。くーくーきゅるると鳴ってるのは腹だ。こっちの方は可愛げがある。


「まだ温かいぞ、ほら。遠慮すんな」


 木椀と木匙を出してそれぞれに持たせると、オタマですくってあげる。スープは作り過ぎたから、寸胴に半分近くは残ってる。食べ終わってちょっと経ってるから、そう熱くもない。


「お待たせ」


 ジュニパーが、小さな子をお姫様抱っこして戻ってきた。


「「ルイナ」」


 五人目の人狼、引率役の魔法使いがルイナちゃんか。グッタリしてるけど、ジュニパーの口調からすると深刻な状態じゃないんだろう。


「怪我はないみたい。魔力切れで気絶しちゃったんじゃないかな」


 ルイナちゃんを受け取ったミュニオが、優しく撫でながら魔法を掛けている。治癒か回復か浄化か、青白い光に照らされたのは痩せこけた人狼の少女だった。年齢はよくわからんが、人間でいうとローティーンな感じか。


「平気そう?」

「もう大丈夫なの。ただの、魔力切れと、空腹と、疲れと、緊張と、睡眠不足なの」


 最後の方で、ミュニオの声が少しだけ掠れる。

 それで、なんとなく、わかった。どっかから逃げてる間、チビのために使い果たしたんだ、この子。食い物も体力も魔力も睡眠時間も、みんな。


「よく頑張ったの」


 ミュニオ姐さんは、苦しそうな人狼少女の頭を優しく撫でる。

 あたしが毛布を出すと、ミュニオがルイナちゃんを包んで抱えた。ときおり手元がうすぼんやりと光っているのは、魔力譲渡でもしてるのかな? そんなことができるのかどうか知らんけど。


「人狼で魔法使いっていうのは珍しいの。魔力循環が滑らかで練り込みも高度、ちゃんと鍛えられてるの」

「……まじょ」

「え?」

「……ルイナ、まじょの、……でし、の、……でし」


 魔女の弟子の弟子。孫弟子か。

 木椀を抱え込んでガフガフと夢中で食べていた人狼の子たちは、ピタリと動きを止めた。


「ずっと、いってたの。“わたし、まじょの、でしの、でし、だから”」

「「……だから、だいじょぶ、て」」


 やっぱり。

 ムチャすんな、コボルトも人狼も。群れやら弱者を大事にするのは良いけど、なんぼなんでも度が過ぎるんだよ。


「まあ、ルイナはもう大丈夫だ。お前ら、飯も好きなだけ食え。水も、毛布もあるからな」

「「……ありがと」」


 結局、ルイナが目を覚ましたのは翌朝のことだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] シチュー食いたい。
[良い点] 相変わらずこの作品に登場する獣人たちは健気でかわいい。
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