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【書籍化決定!&新章スタート!】マグナム・ブラッドバス ―― Girls & Revolvers ――  作者: 石和¥
Sea Blaze

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出来損ないのエルフ

「なあ、ミュニオ」


 海上要塞に向けて進んでゆくパトロールボートの後部甲板。あたしは操舵室の後ろにある重機関銃架に寄り掛かって、周囲の警戒に当たっていた。

 いまのところ海上には遥か彼方で漂流する帆船以外、なにも見えない。無人で帆布もない船なら沈める必要もないだろうと放置することにしたのだ。わざわざ撃つのも弾の無駄遣いだしな。


「どうしたの、シェーナ?」

「その……聞いて良いのかどうかわかんないけどさ。お前、何度も自分のこと“出来損ない”っていってるだろ?」


 お姉さんなチビエルフは、静かな表情であたしを見る。もう自分の価値に怯えたりはしていないが、かといって価値判断が変わった様子もない。いまも、穏やかに頷くだけ。否定はしないのだ。


「あたしには、わかんないんだよ。何度も助けられて、一緒に修羅場を潜ってきて……でも、そういう贔屓目なしに見てもさ、戦闘能力も判断能力も、魔力も魔法もだ。単純にスゲーとしか思えないんだけど。お前は自分のどこを無価値だっていってるんだ?」


 ミュニオは少しだけ視線を逸らして、なにかを考えるような素振りを見せる。


「ああ、答えたくないとか、いえない秘密とかなら……」

「違うの」


 彼女は片手を上げて、指先に仄かな光を灯す。青白いそれは魔力光なんだとは思うけれども、どういった種類のものなのかまでは、あたしにはわからない。

 サイドデッキや船室にいるエルフたちからどよめきが起こっているのを見る限り、なんか凄いことなんだだろう。


「わたしは、精霊の声が聞こえないの」


 ミュニオは淡々と告げる。卑下している風でもなく、単なる事実を話しているだけといった口調だった。


「だから契約を結べなくて、庇護も加護も恩恵もないの。魔法も一方的に行使するだけで、成された結果以外なにもわからないの」


 それだけで出来損ないとか、結果が出せてるのに意味わからんと思うのは、あたしが人間だからなんだろうな。

 精霊とともに生きるエルフにとって、それは目が見えず、耳も聞こえず、言葉も話せないのと同じなのだとか。


「ずっと蔑まれて、何度も死にかけて、自分には生きる価値がないんだって……ずっと、そう思ってたの」


 それが過去形なことに、あたしは少しホッとする。

 誰が何をほざこうと知るか。過去やら出自だって知ったことか。ミュニオに価値がないなんて、絶対にいわせない。本当は、ミュニオ本人にだってそんなこといわせたくないんだ。


「……恐れながら陛下、それは違います」


 気を遣って少し距離を置いていたエルフたちのなかからひとり、年配の女性が控え目に声を掛けてきた。


「わたしは、陛下じゃないの」

「失礼いたしました。……ミュニオ様」

「ああ、あんたは?」


 話が進まないので助け舟を出すと、女性はあたしに視線を向ける。


「わたくしは、オルウェと申します。古い賢者の家系に生まれ、我が一族は史書を守ることに全てを賭けてきました。ですが力及ばず、偽王の襲撃により村は壊滅し、多くの史書は焚書に遭いましたが……」

「うん。それで?」


「ええ。機能特化エルフ(アノマラス)と呼ばれる選ばれたエルフ、王家の血を引く貴人のなかでも力の突出した方々には、よくあることなのです。命の森を(あがな)う力、“恵みの通貨”を生み出す力は、あまりに大き過ぎ、怒涛のように強大なその魔力によって精霊の囁きは掻き消されてしまうのです」

「「え?」」


 責務と資質を背負わされた結果、精霊の声は聞こえなくなる。それでも魔力は絶大なので、魔法そのものは行使できる……というか他を圧倒する力があるのだそうな。


「精霊の声に耳を傾けない結果として、傲慢になり道を誤って魔力を喪うという例も多くありましたが、ミュニオ様は精霊たちに慕われている様子」

「……そう、なの?」

「先ほどから、凄まじい数の精霊が集まっております」


 あたしはミュニオを見る。ポカンとした顔は、本当に知らなかったみたいだ。


「聞こえて、いたの? わたしの声は、精霊に……」

「はい。いまも楽しそうに、陛下の……失礼しました、ミュニオ様の周りで歌い舞い踊っております」


 あたしにはサッパリだけど、エルフたちには精霊が見えているのか。


「ありがとう」


 周囲を見渡し、ミュニオは笑う。見えるようになったのかと思ったが、彼女は首を振って苦笑する。

 見えないからいないと思っていた相手に、届かないと思っていた気持ちを伝えているんだろう。


「ずっと、一緒にいてくれて、ありがとう」


 ブワッと、物凄い量の光が海面近くに浮かび上がった。ボートの航跡に跳ね上がった水飛沫が二重三重の虹になって輝く。昼間だというのに眩く光る、それはまるでエレクトリカルパレードだ。


「何度も死に掛けたけど、その度に生き延びたの。助けて、くれてたのね。みんな、ずっと……側にいて、くれてたのね」


 肯定するみたいに光が瞬き、照らし出されたミュニオが広げた両手に寄り添う。


「わたしは、約束するの。みんなの声は聞こえなくても、きっと……その期待には、応えてみせるの」


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