表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化決定!&新章スタート!】マグナム・ブラッドバス ―― Girls & Revolvers ――  作者: 石和¥
Sea Blaze

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

213/271

漂流するものたち

 船倉――というか船底――に詰め込まれていたひとたちは思ったより多く、全部で二十四人。見た感じ半分くらいが十代で、あとは二十代と三十代か。

 とはいえエルフなので実年齢はもっとずっと高いんだろう。


「アンタたちは、どこのひと?」


 あたしの質問に、解放したエルフたちは揃って身構える。こっちが人間だからか、正体不明の武器を持っているからか、上から下まで珍妙な赤づくめだからかは知らん。

 早いとこ脱出したいのに、固まってもらっちゃ話が進まない。


「マーイヘン村のタファって坊主に、助けてくれって泣き付かれてさ。関門と港湾要塞で目についたエルフは解放したつもりだけど、アンタたち以外にも捕まってるのはいるのか?」

「……」

「しゃべりたくないか。まあ、いいや、どうでも。岸までは送ってやる。後は好きにしろよ」


 ジュニパーと相談して一階層上に行き、船の外壁を蹴破ってもらった。

 手に入れたばかりの高速警備艇(パトロールボート)は、まだ近くに浮かんでいた。見たところ床の高さは、ボートのデッキより、少し高いくらい。


「いい感じだな。これなら飛び降りられそうだ」

「じゃあ、ぼく船を取ってくるね?」


 ひょいと飛び降りたジュニパーは水棲馬形態に変わって水面を駆ける。すぐにボートを動かすと、器用に操りながら船を横付けしてきた。


「おーいミュニオ! みんな連れてきてくれ!」


 船底に声を掛けた瞬間、ざわめくような気配があった。

 これは、やっちまったか。あたし、あのエルフたちにミュニオを紹介してないわ。あいつらが“ソルベシア真王”に対してどういう感情を抱いているか確認していないのに。


「ジュニパー、そのまま待機!」


 念のためショットガンを用意して階下に降りる。いまのミュニオが本気になれば、野良エルフの十や二十は敵じゃないとは思うけれども。


「待てお前ら……って、うぉい!」


 これは、どうなってる。

 あたしの予想に反して、船底のエルフたちは全員がミュニオに平伏していた。


「……やめて」


 フル土下座の二十四人を前に、チビエルフは困惑の表情だった。怖れられたり敵対されたりは想定していたが、こういう反応はあんまなかったな。

 ずいぶん前に、なんだかいう狐獣人の小坊主が平伏してたが。あいつは、王を迎える巫女なんだっけか。今どうしてるのかは知らんけどな。


「そんじゃ、船を乗り替えるぞ。岸までは送ってやる。その後は好きにしろ」


 あたしが上層に行くよう促すと、エルフたちが顔を上げてミュニオを見た。

 ひとりが頭を下げると、全員がそれに(なら)う。


「……ここにいるエルフは、絶対信奉者(エスポーサル)。代々王に仕えてきた忠臣の末裔です。高い魔力を持ち、真なる王に絶対の忠誠を誓う者。必ずや陛下を支え、陛下とともに森を……」

「だめ」


 ミュニオは硬い表情で首を振る。エルフたちは平伏したまま顔を上げない。


「わたしたちは、偽王を殺す。ソルベシアを取り戻して、楽園を解放する」

「でしたら!」

「そして、あなたたちに渡す。王座には就かない。登極の意思はない。……きっと、その資格も」


 期待と決意に満ちた二十四の顔が、その言葉に歪む。

 ミュニオは感情を押し殺したまま、彼らを見ているだけだ。彼女には、もう迷いはない。赤の他人の感情に流されたりしない。

 あたしは、祈るような姿勢のエルフたちを見る。いままでも、そうやってきたんだろう。

 そうやって、未来や責任を他人に背負わせて。自分では、何もしないで。


「ほら、早くしろよ。船と一緒に漂流したいのか?」


 あたしは目についた年長者をふたり、ひっつかんで上層まで連れ出す。グズグズいってるのを無視して壁の穴からパトロールボートのデッキに蹴り飛ばした。

 落ちてきたエルフをキャッチして、ジュニパーは怪訝そうにあたしの背後を見る。


「シェーナ、残りは?」

「すぐ来る。来ないなら置いてく」


 船底から上がってくる連中をパトロールボートに乗り移らせ、最後に残ったミュニオを迎える。浮かない顔だが、話は済んだのか落ち着いてはいる。


「あいつらだけ別扱いだったのは、魔力の高い生贄? それとも、真王の支援者を削ぐための妨害工作?」

「どちらもありえるけど、彼ら自身にはわからないの。知りたければ、ミキマフに訊くしかないの」

「ああ、そうだな。これまでのグダグダを考えれば、偽王本人だって理解できてるかどうかは怪しいもんだけど」


 あたしが肩を竦めると、ミュニオは困った顔で笑った。


「そうなるのも、わかる気がするの。果たすべき目的と、求められる役割と、本当の自分と。いつの間に混じり合って、ときどき自分でもわからなくなるの」


 両手を広げて、芝居がかった表情であたしを見る。


「わたしは、ミュニオ・ソルベシア。滅びた王家の血を引く者。命の森を(あがな)う力、“恵みの通貨”を持ったソルベシアの真王」


 笑いながらパトロールボートに向かい掛けた彼女が、ポソリと呟くのが聞こえた。


「……そして、この地に深緑の滅びをもたらす、出来損ないのエルフ(アノマラス)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 久々の更新、ありがとうございます
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ