エリミネーション
「ぼくに乗った方が速くない?」
「たぶん何倍も速いな」
ジュニパーの意見は尤もなんだけどな。全力で飛ばされると酔う。あと前方にジュニパーさんの首があるので流し撃ちしにくい。耳の横で撃つのも気を遣う。
なにより、問題はジュニパーの方があたしより射撃が上手いってところだ。
「こんだけ見通しのいい真っ直ぐの道だ。遠距離射撃はミュニオとジュニパーにお願いしたいんだよ。水棲馬としての全力は、港湾要塞に突っ込むときに頼む」
「うん!」
「任せるの♪」
ランドクルーザーの運転席には、あたしが座った。念のために357マグナムを八発装填した紅の大型リボルバーと鹿撃ち用大粒散弾を九発装填した自動式散弾銃を懐収納に入れる。窓から撃てる敵はこいつで倒す。
助手席にタファ。戦闘が始まったら足元で丸くなるように伝えてある。
「行くぞ」
あたしはクラッチを繋いで、ランクルをスタートさせた。最初はゆっくり。次第にスピードを上げる。まだ道の先には、ぼんやりした陽炎のようなものしか見えない。
あたしの目には、だけどな。
「さーて、最初の関門は……と」
「こっちを察知してるの。たぶん、魔導師」
「敵意は?」
念のために確認する。訊くまでもないことくらい、わかってはいる。
「丸出しだね。弓兵が四人と魔導師がふたり、門の上で構えてる。射程に入ったら攻撃を放ってくるよ」
「上等じゃねえか。まさかミュニオが撃ち負けるなんてことはないだろ?」
「もちろんなの」
腹を括ったのか、荷台からは穏やかな笑みが返ってくる。
「門の奥にいるのは、騎兵みたい。最初の攻撃の後で突撃かな」
「ずいぶん用意が良いな。あたしたちが襲ってくることを予期してたとか?」
「それはないと思うの。たぶん、連絡手段がないの」
それもそうか。前に盗賊どもが拘禁枷で縛ったエルフを通信に使ってたけど、あの関門にはいないようだ。
たまたま現れたあたしたちにこの反応の早さなら、ずっと敵襲に備えているのか。ご苦労なことだ。
五分ほど走ったところで、ようやく関門と思われる建造物――らしきもの――が、視界に入ってきた。
「始めるの」
ドンと荷台で銃声が鳴り、その後に数発が続く。さすがにジュニパーは静観の構えだ。彼女の武器はあたしのより銃身の短いリボルバーだしな。そもそもミュニオが規格外すぎるんだ。まだ優に五、六百メートルはあるというのに迷いなく初弾を放つというのはさすがにおかしいだろ。
「倒れた」
「おぅふ」
もう驚かないけどな。驚かないけど、信じられんとは思う。風の魔法で弾丸の通り道を作るんだっけ。よくわからなすぎて笑える。
「シェーナ、三つ数えたら道の右端いっぱいまで寄ってくれる?」
「おっけ……」
「いいよ、右に寄って!」
ジュニパーの指示でハンドルを切ると、いままで走っていた地面に雷撃が突き刺さる。
「うぉう……あれ、遠雷砲ってやつか?」
「もっと小さい武器なの。魔導師が扱ってるから、魔道具だとは思うの」
新兵器か。それもすぐにミュニオの射撃で無力化される。近付いてきた関門の扉が開いて、騎兵が飛び出してきた。重甲冑を身に着け騎兵槍を抱え込んだのが三騎。ここのは連絡用ではなく戦闘要員だ。
「あれはぼくが」
「わたしは、屋上の敵を倒すの」
いまのところ全滅したようだけど、増援というか新たな登ってきた敵がいるっぽい。胸壁の隙間から弓を構えようとした兵士がミュニオの銃弾に倒れる。
「おおおおおぉ……ッ!」
彼我の速度が合わさってグングン迫ってくる騎兵は、それでも五十メートルほどのところでジュニパーの銃弾を受けて次々に転げ落ちた。疾走した勢いのまま地面を転がった騎兵たちはピクリとも動かない。
その脇を擦り抜けて、ランクルを走らせる。開いたままの門扉を抜けて停車。あたしはふたりに警戒を頼むと、単身でショットガンを手に建物に入る。
ここには人質や囚われの民間人も、吊るされた犠牲者の死体もない。兵舎も練兵場もなく、あるのは厩舎だけだ。ここの兵がどこでどうやって暮らしていたのかは知らない。興味もない。
長居したところで楽しいものなどないことは既にわかっていた。すぐに戻って、車を出す。
「何にもない。良いものも悪いものも金目のものもな」
「山から見たとき、一・六キロくらい北に町があったよ。そこから通ってるんじゃないのかな」
「なるほど」
さっさと通過して、その先へと向かう。ジュニパーとミュニオが俯瞰した目算では、次の関門までは十六キロほど。いまのスピードなら、十分ほどで見えてくるはずだ。
「次のは、少し大きいの」
「敵兵も多い?」
「多いと思うの。それに、檻になった馬車が見えたの」
そろそろ、そういうのが出る頃だとは思ってた。あたしの予想を裏付けるように、ミュニオが硬い声でいった。
「たぶん、捕まってるひとがいるの」