メダル・オブ・デプリション
「他に敵は?」
「見当たらないの」
「魔力反応も気配もないね。このまま進む? 兵舎を調べてみる?」
「そうだな。どういう奴らなのかくらいは知りたい。ちょっと門まで戻ってくれる?」
「わかったー」
ジュニパーにランクルをUターンしてもらって、突破してきたばかりの関門まで戻る。途中に転々と倒れてる騎兵をどうしようかと思ったけど、金目の物も持っていなさそうだし武器防具は使い道もないので放置する。
発想は完全に盗賊である。
「ミュニオ、悪いけど屋上に出て、近付いてくる奴がいたら教えてくれるかな」
「わかったの」
ジュニパーと手分けして一階を調べる。勤務待機中にしか使わない詰所らしく、室内にはベンチがあるだけだ。他には簡素な武器と粗末な携行食、暇つぶし用のゲームと思われる木札と、柄杓の刺さった水瓶くらいしか置いてない。
「こいつら、ミキマフの配下なのかな」
「……たぶん。みんなエルフだけど、どこのエルフなのかまでは見ただけじゃわかんないから」
扉のところで死んでいる兵士たちも、身分を示すようなものは持っていなかった。
二階は倉庫。といっても物資はほとんどない。いくつかある木箱のなかには押収品なのか略奪品なのか粗雑な布地と庶民用の衣類、それに安そうな武器類だった。
「シェーナ、こっちに檻がある。悪い奴を閉じ込めとくとこかな」
「あいつらにとっての悪い奴だろ。あたしたちも抵抗しなきゃ、そこに入れられてたかもな」
ジュニパーは檻に近付いて床の染みを見る。
「エルフの血と、狼の体臭、それに……人間の臓物の臭いがあるよ」
「それ、捕まえてたんじゃないってことじゃん。邪魔な奴を狼に喰い殺させてたとか?」
目的が娯楽か尋問か証拠隠滅かは知らんけど。悪趣味にも程がある。
「何もなさそうだな。ミュニオを呼んで兵舎に行ってみよう」
屋上に向かうと、ミュニオ姐さんは死体の前で屈み込んでいるところだった。
「ありがとミュニオ、階下に目ぼしいものはなかったよ。こっちは?」
ミュニオの見ていたのは、目玉を撃ち抜かれた弓兵。最初に彼女が射殺したやつか。
脳をブチ撒けながら仰向けに倒れているそのエルフは、胸にいくつか飾りが付けられていた。そのひとつ、ペナペナの銀バッジみたいのを指す。
「この勲章、ミキマフの名前が彫られてるの」
「やっぱりか。この辺はもう、あいつらの勢力圏なのな」
他のペナペナ黒バッジとか、ペナペナ赤バッジを見ていたジュニパーが小さく笑った。
「“正しき者、正しき道”“栄光は継続の成果”……なんか、すごく偉そうなこと書いてるね」
「なんだ、これ勲章なのか。門のとこの兵士も着けてたな。もしかして、こいつら優秀な兵士だったとか?」
「たぶん違う。勲章が多くなるのって、財政が傾いて褒賞を出せないときだね。ほら、作るのにお金は掛かってないでしょ?」
物知りな水棲馬ガールはペナペナバッジを示す。たしかに、駄菓子のおまけにしか見えない安っぽさだ。
「兵舎の方を見てみたい」
「うん」
奴らがここに――というか、正確には“この先に”、だろうけれども――関門を置くくらいの地勢的・戦略的価値があると考えているのだとしたら、そこに置かれた兵数と補給を見れば、どこまで備えが進んでいるのかがわかるはず。
あと、どうせなら金目のものも欲しい。
「シェーナ、真面目なこと考えてますよーって振りしてるけど、ハナ膨らんでるよ?」
「盗賊みたいな顔になってるの」
バレてました。




