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海への関門

敵味方の確認もせずに殺すのかって感想あり。まあ、そらそうだと修正してみました。

 海に向かう、は良いんだけど距離はまだ数百キロありそう。ジュニパーが研究所で見た大陸地図からの概算で二百哩。キロメートルでいうと三百二十くらいか。しかも山道となれば一週間くらいは掛かるかも。

 急ぐ旅でもないし、敵が待ち受ける本拠地にまっすぐ突っ込むより回り込んだ方が戦略の幅が取れそうな気はする。具体的なプランは何もないが。


「なんか見付けたら教えてなー」

「うん!」

「わかったの」


 その“なんか”が良いものだったら嬉しいけどな。そんなわけないんだろうな。物資か人員か重量物の大量輸送が行われているルートなんだから、こっちはこっちで敵勢力が拠点を設けているのだ。

 案の定、それはすぐに現れた。


「……おう、なにあれ」

「関門、かな」


 低木混じりの草原を進むこと二時間ほど。何度目かの起伏を越えたところで見えてきたのは街道を封鎖する関所みたいな建造物だった。距離はまだ四、五百メートルくらいはありそう。あたしには小さな箱程度にしか見えんけど、ジュニパーとミュニオには門の前と上にエルフの兵士が数名ずつ確認できている。上にいるのは装備からして弓兵のようだ……って、相変わらず物凄い視力だな。


 ふたりの見立てによれば、門の手前は幅十メートルほどの河で、門の前にだけ石造りの橋が掛かっているらしい。いわれてみれば、河っぽい線は朧げにわかる。箱の前にボヤッとなんかあるっぽいから、橋といわれれば橋なのかなと思わんでもない。なんにしろ、東へ向かう者はそこを通らなければいけないわけだ。


「門の奥、右手にあるの平べったいのは兵舎じゃないかな」

「兵士は、けっこう多そう?」

「わかんない。中継用の拠点だとしたら、出入りが多いから常駐は少ない可能性はある」


 迂回路を探す方法もある。どこかでランクルを降りて河を渡る方法も。いま来た道を戻って北上ルートに切り替える方法もある。そんなことは三人ともわかってたけど。


「まさかとは思うけどさ、敵じゃねえって可能性は」

「「まさか」」


 即答ですか。あたしも期待はしてねえし。敵の敵もまた敵だったりしたから、ミキマフの犬じゃなくても気を許したりもしないけどさ。ふたりとも妙に確定的なのが気になった。


「だって、あれ」


 ジュニパーは嫌な顔して門の方を指すけど、“あれ”がどれなのかあたしには見えん。


「門の横に並んでるの、ぷらーんって」

「え、なにが……いやゴメンあんま聞きたくなくなってきた」

「……首から札下げた死体、なの」


 姐さん! さすがに聞きたくなかったかな、それは!


「フダって、罪状を付ける、あれか」

「“王を疑いし愚物”“天意に背きし逆賊”……あとは、血で汚れて読めないの」

「いや、もう十分(じゅうぶん)だ」


 前に会った子狐獣人の小僧がいってた。ソルベシアは偽王ミキマフ以外にも怪しげな派閥が権力争いをしてるって。あんま意味があるとも思えない政治的なプロパガンダを見せつけてるくらいだから、犠牲者は別派閥の者だ。殺された奴らが敵かどうかは知らない。


 でも、あそこにいるのは間違いなく敵だ。


「どっちに向かっても、ミキマフの手下たちはいるんだろ。……だったら、このまま行くぞ」


 あたしの提案に、ふたりは無言のまま頷く。逃げ隠れしてまで達成したい目的があるわけじゃない。ここを無事に通過したところで、どうせ増援やら後続やら別働隊やらとは行き合うのだ。


「シェーナ、ぼくが運転して良い?」

「そうだな。三十メートル(ひゃくフート)以下の敵はあたしが自動式散弾銃(ショットガン)で撃つ。それより遠くのはミュニオが頼む」

「わかったの」

「身の安全が第一、深追いはしない。油断も躊躇も容赦もだ」

「「うん」」


 最後のは、自分に言い聞かせてる部分が大きい。勝敗が決した後でも、なんなら降伏した後でも、諦めず悪足掻きする奴はいる。なのに、あたしのなかの平和ボケした日本人意識が“なにも皆殺しにしなくても良いんじゃね”、とか思ってしまいがちなのだ。

 甘い感情は味方を危険に晒す。それだけはナシだ。


「門の上の弓兵、こっちに気付いたの」


 あたしが運転席から荷台に上がると、ひと足先に射撃体勢を取っていたミュニオがいう。


「ミュニオ、カービン銃(マーリン)でエルフの弓兵に対抗できるか?」

「大丈夫、勝ってみせるの」


 ほとんど四十五度に近い角度で、ミュニオはさして狙いもせず初弾を放った。さすがに牽制かと思っていたあたしは、ランクルを発進させたジュニパーの言葉に驚く。


「よし、倒れた!」

「……いや、うそやん」


 毎度のことながら、姐さん呆れたチートキャラだ。風魔法で弾丸の通り道を作るとかいうてたけど、あたしにはその理屈も難易度もわからん。

 ランドクルーザーは静かに加速しながら門を目掛けて突き進む。できるだけ狙いが狂わないようにジュニパーが気を使ってくれてるのがわかる。敵からの攻撃が来れば避ける必要はありそうだけど、その前にミュニオの狙撃が確実に長距離戦力を潰してゆく。


「あたしの出番はなさそうな……」


 あたしの目にも、ようやく関門の姿が見えるようになってきた。フランスの凱旋門をちっこくしたような形で、石材と木材を組み合わせた頑丈そうな門。


「シェーナ!」


 ミュニオの指す先で、その門扉(もんぴ)が閉められようとしていた。じっさい動かしている者は、陰になっていて見えない。散弾で抜けるかどうかは扉の材質と厚み次第だけど、迷っていてもしょうがない。


「ミュニオは他を頼む!」

「わかったの!」


 扉の向こうにひとの身長をイメージして、胸元あたりの高さを狙う。オート5に装填された鹿撃ち用大粒散弾(バックショット)を八発、水平に掃射すると閉じかけてた扉が止まった。

 さらに接近するなか、装填する次弾をバックショットか熊撃ち用一発弾(スラッグ)か迷う。


「シェーナ、扉は抜けてるよッ」

「さんきゅ!」


 ジュニパーの声に、バックショットを八発装填。砕けた扉の穴からチラッと見えた人影を撃つ。右にふたり、左にひとり。再び開き始めた扉の下に、赤黒い血糊が広がってゆく。


「シェーナ、ミュニオつかまって!」


 ジュニパーの声に、あたしたちは射撃を中断して荷台で腰を落とした。銃架の支柱をつかんでショックに備える。ランクルがダメージを受けないよう、ジュニパーはギリギリまで減速、バンパーでこじ開ける感じ門扉を突破、関門内部に入り込んだ。通過して振り返ると扉の陰に倒れた血塗れの兵士たちが目に入る。


「シェーナ、兵舎から騎兵!」


 よりによって重装騎兵だ。バックショットどころかスラッグでも貫通は難しい気がする。

 考えを変えて鳥撃ち用小粒散弾(バードショット)を込める。追い縋る敵を必ずしも殺す必要はないんだ。追ってこれないようにしてしまえば。


「ぐ、あああぁッ⁉︎」

「ぎゃあぁッ!」


 できるだけ馬を避け、騎兵の頭を狙って散弾を撃ち込む。ショットガンを買ったときに、サイモン爺さんがいってたっけな。“開口部のない兜はない”って……チョキのポーズで目を指しながら。


 七騎のうち三人はまともに被弾したようで甲冑ごと転げ落ちたまま動かなくなった。重甲冑を着けた状態で落馬すると、重傷や致命傷を負うことも珍しくないと聞いた気がする。

 三人は辛うじて制動に成功したようだが、暴れる馬の背で悲鳴を上げながら身悶える。残るひとりは。散弾を避けてランドクルーザーに突進してきた。ゴッツい騎兵槍(ランス)を抱えてあと少しの距離まで迫っていたのだけれども、あたしの再装填は間に合いそうにない。


「ごめんミュニオ!」

「任せるの!」


 冷静にマーリンを向けた我らがチビエルフは、迫る騎兵の頭を兜ごと吹き飛ばした。

【作者からのお願い】

不定期ですみません。今週末はこちら少し進めようかと。

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お手数ですが、よろしくお願いします。

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