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暗雲ふたたび

「ヤダルさん、大丈夫かな」


 あたしの声に、ミスネルさんは沈んだ顔で笑う。


「それは心配してないわ。ミュニオの射撃の腕もね」

「それじゃ……」


 きゅんと風が鳴って、水棲馬形態のジュニパーに乗った虎姐さんが帰ってきた。肩には小銃を二挺と小さなダッフルバッグみたいな携行袋を担いでいる。


「ミスネル!」

「ヤダル、相手は……」


 ヤダルさんが指先で弾いたものを受け取ったミスネルさんは、すぐに放り捨てて踏みにじった。

 茶色っぽい、尖った肉片。たぶん、エルフの耳だ。


「モレア?」

「そうだ。もうひとりは、知らん顔の褐色エルフ。ミキマフの手下だろう、そいつが当日の御者だったらしい」

「モレアは最初から、そのつもりで仲間に加わったってことね。ビオーのバカ……信用し過ぎるなって、あんなに」

「あのバカグマは、生きてる」


 ミスネルさんと獣人姐さんズが、ヤダルさんの言葉にハッと息を呑んだ。

 あちこち省略されてはいたけれど、大方の事情はわかる。銃とともに姿を消した片方は裏切り者だった。もう片方は、逃げたか隠れたかで危機を脱した……少なくとも死亡が確認されてはいないってわけだ。


「なあ、ヤダルさん。急ぎの用なら、隠れ家に向かう方は、あたしたちが引き受けるよ。道案内に誰かひとり来てくれるだけで良い」

「いや、予定通りに行く」

「だってさ」

「そこが、襲撃現場から最も近い隠れ家だ。ビオーが生きてるとしたら、そこに向かうはずだ」

「行くよ、さあ乗って」


 水棲馬形態のジュニパーが、男の子たちを背中に乗せる。気遣いキャラのジュニパーはボーイズに笑顔で話し掛けているけれども。はしゃいだ空気は、もう消えてしまっていた。

 残ったひとたちがランクルに乗り込んだのを確認すると、すぐに移動を始める。


「ミスネルさん、道は」

「森を抜けたら北に真っ直ぐ、川にぶつかったら東に。あと二十哩もない」

「了解」


 森から出ると、ようやく空が見えるようになった。いつの間にか、向かう先に暗い雲が広がっている。遠くでゴロゴロってるのは雷の音だろう。

 雨になる前に、サバーバンとかいう屋根付きの車に乗り換えるか? ミスネルさんたちの表情を見た限り、そんな余裕はなさそうだが……


「すまんシェーナ、停めてくれ。ジュニパー!」


 ヤダルさんがあたしたちに声を掛ける。車を停めると、先行していたジュニパーが引き返してきた。


「先に行く。嫌な予感がするんだ。ジュニパー、頼めるか」

「わかった」


 背中から男の子たちを降ろすけれども、彼らも状況を読んでいるのか不満を漏らしたりしない。

 代わりにヤダルさんを乗せたジュニパーは、隠れ家を目指して真っ直ぐに突っ走っていった。


「シェーナ、わたしたちも行くわよ」

「ああ、ちょっと待って」


 ここから先はしばらく、地形が比較的平坦になっていた。路面が硬く締まっているのか土に養分がないのか、植生も雑草が点在するだけ。

 この際だと思って、あたしは収納からサバーバンを出す。


「みんな、雨になりそうだから、こっちに乗ってくれ」

「シェーナ、これは?」

「新しい車だ。たぶん、こっちの方が速い」


 三列シートで運転席と助手席の間にも補助席みたいのがある。九人乗りでもこちらは定員の倍、子供が大半とはいえぎゅう詰めだ。子供を中心に可能な限りシートベルトを着けてもらう。


「悪いな、二十哩だけ我慢してくれ」

「「「はーい」」」


 キーを回すと巨大なエンジンが轟音を立てて動き出す。六千だか七千だか、サイモン爺さんによればエンジンの排気量(おおきさ)はランクルの倍近いそうだ。マイクロバス並みにデカい車体にも怯むけれども、真っ直ぐ走らせる分には問題なかろうと割り切る。念願のオートマだしな。

 ハンドル横のシフトレバーをドライブに入れて走り出す。ランクルより乗り心地は良いような……気はするが、それ以前に揺れが大きすぎて悪酔いしそうだ。乗車定員を超えているせいか、段差を越えると車体が軋んだ。


 走り出してすぐ、パサパサと雨が降り始めた。……と思ったとたん、目の前で稲光が輝く。


「「「ひゃああぁッ!」」」

「大丈夫だよ。このなかにいれば、問題ない」


 直後に雷鳴が鳴り響いた。まだ距離はある。とはいえ向かう先は暗雲の濃い方向だから、雷のただなかに向けて走って行くことになる。走り続けるごとに雨脚は強くなってきた。道が滑り始め、視界も悪くなる。ヤダルさんがいってたのが、なんとなくわかった。

 たしかに、嫌な予感がする。雨や雷だけじゃなく、なにか妙な胸騒ぎがしていた。

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