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【書籍化決定!&新章スタート!】マグナム・ブラッドバス ―― Girls & Revolvers ――  作者: 石和¥
Funeral Journey

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美しき獣

「……ずいぶん、派手にやったな」


 森の小径を一キロほど進んだ先にあったそこは、村というよりも軍の野営地か盗賊の隠れ家というような代物だった。倒れた巨木と小さな崖を基礎にしてボロボロの帆布か何かで雨避けと目隠しを兼ねた天幕が張られている。寝床や私物の数からして、暮らしていたのは十名前後か。少し離れた位置に煮炊きをしていたらしい焚き火の跡。錆びてベコベコの鍋釜が転がっている。

 三十近い()()()たちの首なし死体も。被害者も加害者もエルフって、どうなってんだソルベシア。


外縁部(こっち)の兵士、誰も気付いてないの」

「そう、みたいだな」


 あたしはミュニオの指摘に頷く。殺される瞬間まで、もしくは殺された後まで。彼らはヤダルさんの接近に気付いていなかったように見える。

 まあ、あたしたちも似たような状況だったからな。あのひとが本気で殺す気になってたら、きっと同じような最期を迎えてた。


「さて、やりますか」


 あたしは笑顔のまま、あるいは戸惑った表情のまま首を刎ねられていた兵士たちの死体を収納する。愛用の武器や食品が入ってるとこに収めるのは良い気分じゃないが、しょうがない。ヤダルさんのいう通り“埋めてやる義理もねえ”し、放置しといたらシャーリーさんたちに迷惑が掛かる。

 野営地の奥、天幕の下に転がされた死体は着衣が少し派手で武器や装備も質が良い。指揮官か貴族か現王ミキマフの関係者か。ソルベシアの社会階級がどうなっているのかは知らん。


「“同じ目に遭わせてやった”……ってか」


 あたしは誰にいうでもなく独り言を呟く。まあ、それが事実なら自業自得だろ。みんな両耳と両手首を切り落とされ、血をそこら中に撒き散らしながら恐怖と痛みに歪んだ顔で死んでた。こいつらは、エルフの犠牲者をこういう目に遭わせてたわけだ。


「この白くなった顔、死ぬまで血を流し続けたんだね」

「失血死か。エグいな」

「それぞれ血の流れ方が違うの。耳が最初、手首は片方ずつ時間を置いてる。……たぶん、死ぬまで三十分(四半刻)くらい掛かったと思うの」

「ますますエグいな」


 あの虎ガールが山ほど背負った剣みたいなのは一体どういう武器なんだか。妙にシャープでフラットな切断面(きりくち)を見て、こんなもん振るわれたらと思ってゾッとする。

 当のヤダル姐さんは“後は任せた”とかいってランクルの荷台で不貞寝してる。何に対して不貞腐れてるのかはわからんが。


◇ ◇


「好きでやったんじゃねえぞ」


 死体を片付けて車に戻ると、ヤダルさんは毛布に(くる)まったまま()ねた声を出す。


「そんなの、わかってるよ。いちいち責めたりしないって。だいたい、殺しまくってんのは、こっちも同じだ。それと、これ……」

「要らねえ」


 兵士や指揮官が持ってた貨幣を革袋にまとめて荷台に置くが、引き取りを拒否された。使えそうな剣や槍や弓矢も。まあ、武器に関しては姐さん手持ちのだけで武蔵坊弁慶みたいになってるもんな。


「あたしたち町に近付けないから、カネの使い道はないんだよ。こういう刃物は使い方も知らんし」

「だったら捨てちまえ」

「まあ、最悪そうするけどさ。武器やカネを必要としてる仲間とか、いないのか?」


 ヤダルさんは、少し黙る。いることはいる、けど運んでくには遠いか、関係がそれほど良好じゃないかだな。

 このひと、ツンデレっぽいというか、感情がつかみやすい。考えてることも、なんとなくわかる。


「あたしたちは、偵察しながら北上してミキマフんとこにカチ込むよ。どっか行くとこあれば送るけど」

「このまま森を出て、東だ。半日くらいのところにメイケルグって町がある」

「へえ」


 エリにもらった地図を見ると、両親の牧場から北東方向に、文字は書いてないがそれらしい記号はある。距離は概算で、三十哩強(五十キロ)ってとこか。

 ヤダルさんの仲間がいるのがそこだとしたら、問題は物理的な距離じゃない。心の距離の方だろう。


「そんじゃ、そこ行こうか」

「……」


 あれ、何その間。構って欲しい感じか? 違うか?

 ジュニパーが運転席に座り、ミュニオが助手席。あたしが荷台に乗ると、ヤダルさんは面倒臭そうに――でも照れ隠しっぽい感じがバレバレの顔で――毛布を押しのけてあたしたちを見た。


「なあ、途中どっかで肉を仕入れたいんだけどさ」

「いいよ。何人分くらい?」

「ガキが十か十五、大人が二、三人だ」


 けっこうな人数だな。ちょうど良い獲物って何だろ。ウサギか野豚か。駆け鳥とかいたら良かったんだけど。この辺にどんな生き物が棲んでるのか知らん。

 途中に仕留められそうなものがいたら停車してもらうことにして、あたしたちは森のなかを走り始めた。適当なのが見付からなかったらストックのウサギ肉を渡しても良い。


「その子たち、ヤダルさんの仲間?」


 ジュニパーが運転席から声を掛ける。なんかトゲトゲツンツンとした答えが返ってくるかと思ったら、虎獣人の姐さんは吐息交じりに頷いた。


「あたしの子供たちだ。……義理のな」

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― 新着の感想 ―
[良い点] >「なあ、途中どっかで肉を仕入れたいんだけどさ」 「いいよ。何人分くらい?」 「ガキが十か十五、大人が二、三人だ」  お肉なら、しこたま収納してたやん! 「そうな。食欲はなくなる肉は、ま…
[良い点] んー、ヤダルはやっぱりヤダルだった。でもあの頃より大人になった感じ
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