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バス&マッソー

「「「むふぁあああぁ……♪」」」


 あたしたちはマクファーソン家の大浴場で、思わずオッサン臭い吐息を漏らす。久しぶりの湯船。こんなたっぷりのお湯に浸かったのはミチュ村以来だ。全身から疲労が溶けてゆくのを感じる。

 牧場のスタッフも一緒に入るらしく、巨大な浴室には巨大な浴槽があった。元々いた国ではあまり湯船に浸かる習慣はなかったみたいなのに、魔王領の文化――ということはつまり半分は日本文化らしいのだが――に触れて病み付きになったらしい。うむ、よくやった魔王。顔も知らんけど。


「しっかし、すごいねシャーリーさん」

「ん〜? なにが?」

「いや、その筋肉。すごい引き締まったボディ。それって、牧場の仕事で付いたの?」

「そうね。魔法で身体強化はしてるっていっても、基礎体力ないと底上げもできないから」


 すごい。腹筋割れてる。ウェストとかビシッとくびれてる。胸筋がバストアップにも貢献してるのか、かなりの巨乳なのに垂れる気配もない。自分の身体がもやしに見える。いや実際なんのエクササイズもしてないので、ひょろーんと薄っぺらいのだが。

 ジュニパーは爆乳に柔らかそうなグラマラスボディだし、あれだ。ここは幼児体型のミュニオだけが頼りだ。


「ふふっ、もうすぐ五十にしては頑張ってるでしょ?」

「「「うぇッ⁉︎」」」


 シャーリーさん、いま、なんつった⁉︎ もうすぐ五十⁉︎ てことは、四十代後半⁉︎


「なんで驚くの?」

「……三十歳くらいだと思ってた」


 ジュニパーが呆然と呟くけど、それはあたしも同じだ。こちらを見て、シャーリーさんは嬉しそうに微笑む。


「ありがと。でも、わたしが三十だとすると、エリを五歳くらいで産んでることになっちゃう」

「……そうね。そりゃそうだ。いや、頭では、わかってるんだよ、あたしたちも」

「シャーリーさん、もしかしてエルフの血が混じってるの?」


 ミュニオの素直なコメントに、シャーリーさんは笑い出した。


「あのなミュニオ。シャーリーさん()は三人とも、あたしと同じ異世界の出身だから。向こうに、エルフはいないんだ。ドワーフも獣人もな。人間しかいない」

「「へえ……」」


 ミュニオとジュニパーは、気の抜けたような声を出す。まあ、心情的にはあたしもふたりと同感ではある。四十後半でこの若々しさはおかしい。


「ケインの上司だった魔女……女性魔導師の弟子みたいな感じでわたしも働き出して、魔力循環を教わってから身体の調子がずいぶん良くなったの。そのせいもあるのかもね?」

「「「へえ……」」」


 あたしも気に抜けたような声を漏らしてしまう。エルフが長命なのも同じ理由なのかな。

 シャーリーさんによれば、あたしもその“魔力循環”をしているのだそうな。こっちの世界に来てから体力と運動能力が上がったのはそのせいか。あんまり、自覚はない。老化は抑えられるのかな。それよりむしろ成長してほしいんだが。胸とか。まあいい。


「あたしも魔法とか使えるようになりますかね?」

「なるわね。でも、向き不向きもあるんじゃないかしら。シェーナの場合は、見た感じ獣人によくある無意識の身体強化だから、魔力の意図的な制御とか行使とか覚える過程で循環が上手くいかなくなるかも」

「え」

「もちろん、一時的にね。その後で技術と経験が身に付けば、もっと上手に魔力循環を使えるようになるわ」


 う〜ん……それは安心していいのかどうか、だな。あたしの顔を見て考えてることがわかったんだろう、シャーリーさんは頷く。


「シェーナの考えてることは理解できるわ。実際、獣人に魔導師ってほとんどいないの。それは能力や資質として劣ってるわけじゃなくて、“一時的にせよ身体強化を捨ててまで魔法を使える必要はない”って考えちゃうみたい」


 なるほど。それはそうだ。良くも悪くも直情径行な彼らのことだから、苦手な分野を無理に補完するより得意分野を伸ばした方が効率的だと思う。たぶん性格は獣人タイプのあたしも、急速に面倒臭くなってきたし。

 攻撃魔法とか治癒魔法とか、使えたら便利だしカッコいいなとは思うけど。どうしても必要かといわれれば、そうでもない。


「サイモン爺さんと繋がるのも魔法なのかな」

「現象だけ見れば魔法以外の何物でもない、とはいえ、こちらの世界では高位魔導師だったケインの上司も、シェーナと同じ魔王の能力は過去に見たことも聞いたこともないらしいの」

「……そうなんだ」

「だから……わからない、としかいえないわね」


 むしろサイモン爺さんが魔法使い、という可能性も考えてみたが……ないな。あのインチキ臭い感じは魔導師より詐欺師や手品師の方がしっくりくる。

 いい加減のぼせてきたあたしたちは、深く考えるのをやめておとなしく湯船から出た。

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