裸足のランチ
「見えたぞ、ほら」
ケイン……エリの親父さんが魔物馬ガールの背で振り返る。彼の指す先には、いくつか丘を越えた彼方にではあるけど屋敷とサイロのものらしい煉瓦色の屋根が並んでいるのが見えた。まだ距離は一キロ以上ありそうなんで、敷地はかなり広いようだ。
ジュニパーの遠縁みたいな感じの混血馬のお嬢さんは名をティアラというのだそうな。名前の元になったのは、彼女の鬣。全力疾走すると魔力で髪飾りのように白く輝くからだって。見てみたいな。そう思ったところで視線に気付いたのかフワリと笑って少しだけ輝かせてくれた。
「うん、綺麗だなティアラ」
そういうと、ふんふんと満足そうに頷く。
「もしかして、この子かなり賢い?」
「うん♪」
なんでか運転席のジュニパーさんが満足そうにドヤ顔なのがよくわからん。水棲馬ガールと混血馬ガールは独自の何かでコミュニケートしてるっぽい。
「ティアラちゃん、今年で六歳だって」
「へえ、ジュニパーより年下か。彼女って、ジュニパーみたいな人型にはなれるのか?」
「えっと……まだ、なれないみたい。なる気がないのかな。もう少し大きくなったら、わかんないけど」
え、そんなもんなのか? 意欲や年齢だけの問題? ホントに?
「ティアラちゃん、育ってきた環境もぼくと似てるみたい」
「それって……研究施設育ち? 親父さん、そうなの?」
「ああ。でも、研究施設というのとは少し違うか。俺が元いた職場の上司が魔女でな」
「……いや、意味わかんない」
「ティアラの両親は、その魔女の眷属だ」
……ナニいってんだ、このひと。
でも待て、さっきミュニオが“たぶん中位魔導師”とかいってた気がする。つうことは、マジで魔女の弟子なのか。いや、でも上司? 職場? なんの話だ?
「親父さんって、魔法使いなの?」
「ああ。正確には“魔導師”だな。若い頃システムエンジニアだった経験が生きて、ミドルクラスまでは昇進したよ」
たぶん、あたしの頭上には無数の疑問符が浮かんでいるんだろう。親父さんは笑って首を振る。
「困惑するのも、脈絡が理解できないのもわかる。我ながら実際、何から何まで、おかしな話だからな」
話しながらゆっくり丘を下り登りまた下り登り。のどかにパカパカと進みつつも健脚なティアラ嬢に助けられて、すぐに牧場の柵が見えてきた。




