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三人のリスタート

 嵐の前のように静かな熱を帯びた夜が過ぎ、のどかで爽やかな朝が来て。あたしたちは見送りに起きてきてくれたコボルトの群れを前にランドクルーザーへと乗り込む。

 子狐獣人イハエルは夜のうちに姿を消していた。なにか思うところがあったのだろうけれども、それはあいつの問題だ。

 北上する決断はミュニオ自身が決めた。


「わたしは、ソルベシアに行きたいの」


 夜の間には、ずいぶんと迷い悩んだようだけれども。一夜明けてチビエルフの目はしっかりと落ち着いたものに変わっていた。


「そこで何が待ってるとしても、父さんと母さんの故郷を、この目で見たいの」


 たぶん。そんな簡単な話にはならない気がする。それぞれの理想と思惑と利害が入り乱れる混沌のなかに入っていくことになるんだ。きっと嫌な思いもするし、危険な目にも遭う。

 まあ、いいさ。三人でなら、どうにかなるし、してみせる。


「おっけー、それで行こうか。ジュニパー?」

「もちろん、最後まで付き合うよ」


「「しぇなさん、じゅにぱさん、みゅーにおさん」」


 あたしはひとりずつワシャワシャと撫で回して別れを惜しむ。やっぱり、コボルトたちには親しみを覚える。あたしがワンコ好きだとかいう単純な話だけじゃなく、彼らにはなんというか、真っ直ぐ無垢に生きてる魂への敬意と不器用さへのシンパシーを感じるのだ。

 “こんな風に生きられたら”、というのが最も近い感覚かも知れない。

 以前に仕留めた駆け鳥とウサギを何匹か、ミネラルウォーターと携行食も渡して、いくらか帝国軍の武器を置いた。それ以上は、彼らがどうにかすることだ。干渉し過ぎてはいけないし、彼らも必要としてはいない。


「みんな、元気でな。きっと、またどこかで会えるよ」

「うん」


 車を出してすぐ、チビコボルトがちょっとだけ追いかけてきた。あたしが荷台から手を振ると、足を止めて恥ずかしそうに並んで手を振り返す。かわいいな。ああいう子たちと出会ってしまうとホントに、離れるのが辛い。

 どんどん小さくなってくコボルトたちを見つめていたら、運転席のジュニパーが優しい声で笑う。


「シェーナ」

「ん?」

「幸せだね」


 一瞬、どういう意味かわからなくて振り返る。バックミラー越しに微笑む彼女と目が合った。


「また会いたいなって、別れるのが辛いなって、そんな風に思える子たちと出会えるなんて、研究所にいた頃には考えたこともなかった。シェーナと、ミュニオのお陰だよ」

「……わたしも、なの。胸の奥が、重くて痛い。けど、温かいの。苦しいけど、辛くないの。きっと」


 ミュニオが笑う。


「これも“生きてるって感じ”、だと思うの」


 あたしはランクルの荷台で笑う。おかしくて、なんでか泣きそうになる。


「そだな」

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