覚醒
「「おはよー♪」」
みんなで動けなくなるまで食べた後、暗くなったのでそのまま雑魚寝させてもらったあたしたちは翌朝、見覚えのない生き物に揺り起こされて硬直する。
「……いや、“おはよー♪”じゃねえ。お前ら誰だよ⁉︎」
敵意は感じられない。人懐っこい笑顔を浮かべている、が。なんだこの、やたらキラキラした毛並みのモフモフは。
「あれ、しぇなさん、ねぼけてる?」
「ぼくたちだよ、きのう、おくってもらった、ほら」
「落ち着け、ふたりとも。驚いてるだけだ」
声は同じなので、それでわかった。こいつら、痩せコボルト一号二号と群の長だ。肌艶……じゃなく毛艶が一変してる。わりとペッタリしてたのに、ボリューム感が三倍くらいになってる。
「待て待て待て、どうしたん⁉︎ お前ら、どこをどうやったら、そんな……」
「これぞ、肉の力」
「「だね」」
長の言葉に一号二号は頷くけどさ。いや、肉にそんな力はねえよ。
ともあれ、脂の乗ったウサギローストと肉ダクの駆け鳥スープを苦しくなるほど食べた彼らは、たったひと晩で驚異の超回復を達成していた。もう痩せコボルトじゃない。痩せマッチョコボルトだな。語呂悪いな。
「かけどり、おいしかったな……」
「「「うさぎ、おいしかった」」」
チビッ子たちにはウサギ肉が好評で、大人には駆け鳥が好評だった。彼らが長く暮らしたオアシスでの思い出補正も入ってるのかもしれん。
あの鳥、脂っこくはないんだけど滋養感がすごいのだ。その肉を入れ過ぎて、ほとんど鳥肉の煮物に野菜トッピングみたいだったからな。昨日はラーメン屋のスープを入れるようなサイズの巨大鍋というか寸胴というか、それに並々と入ってたのがほとんど空になった。
みんな元気になったので、今日にでも旅立つとかいってる。というか手早く荷物を背負ってもう準備完了してる。
「なあジュニパー、目的地までコボルトの足で走って三日って、距離はどのくらい?」
「う〜ん……小さい子もいるから、四、五十くらいかな」
たしか土漠群狼で一日に十哩以上は移動するとか聞いた気はするけど。コボルトはチビッ子を連れて狼より長い距離をこなすのか。それを訊いたところ、物知り水棲馬からお答えをいただいた。
「土漠群狼は移動の目的が獲物を狩ることだからね。この子たちは、移動そのものが目的だし」
ごもっともである。
どうせ向かう先は一緒だし、コボルトたちもランドクルーザーに乗っけてくことにした。十人プラスあたしたち三人となるとちょっと狭いので、小さい子たち三人は水棲馬の姿になったジュニパーの背に乗ってもらう。
「「「じゅにぱしゃん、しゅごぉーい♪」」」
「えへへ……」
ジュニパー、小さい子にモテモテである。
ランクル乗車組は赤子連れのお母さんと成人女性ふたりが助手席、その他の男性陣は荷台だ。視力が良くて長射程の武器を持ったミュニオ姐さんにも、荷台で周囲の警戒をお願いする。
珍しい乗り物での移動に、みんな興味津々なんだけど。機械としての車そのものには、さほど食いつかない。このあたり、ドワーフとかと違うコボルトならではな感じで面白い。
「そんじゃ、行くぞ。みんな落ちないように、つかまってな〜?」
「「「はーい」」」




