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(閑話)サイモンの困惑

「狙われる心当たりはないがね」


 場当たり的な嘘をついて、俺は記憶を整理する。実際には、心当たりが多過ぎて絞りきれない。

 狙われてるというのが事実だとしても、それは物理的な攻撃が目的ではなさそうだ。俺を殺して得をする奴は……心情的な問題を除けば、ほぼいない。無数にいるその例外は、いったん忘れておく。

 “勢力”というからには個人ではない。感情で動くほど小さな所帯なら、いまの俺でも対処できる。おそらく相手は、デカい。

 となれば経済的、もしくは情報的な価値だろう。可能性が高いのは後者。もう俺にはさほどの資産価値はない。

 この変わり者のレディ・ボンドが現れたところに違和感がある。国家安全情報局(N S I A)が出張って来たというのに、探りを入れるのが機材改装工房(プロップラボ)というのもピンとこない。

 表向き俺の所有でもない企業の、しかも法務部(LD)でもなくラボを探るってことは、俺に関心を持った相手は過去に俺と縁のなかった方向という気がした。


「わからんな、ミズ。今回の査察、目的は物証確保ではないとでも?」

「仮にあなたの尻尾をつかみたければ、もっと早く徹底的に動きます。今回もいくらかは嗅ぎ当てましたが、何かの交渉に利用するつもりはありません」


 その発言自体が一種の釘刺しのようにしか思えないが、まあいい。

 彼女が独り言めかして口にした数字に、俺は呆れ半分で首を振る。書類上は用途廃棄され異世界に回したリボルバーとショットガン、カービンと弾薬の数があらかた把握されている。わずかに実数とのブレがあることから、監視や聞き込みではなく書類を見ただけで突き止めたようだ。それはマクネアの優秀性を裏付け、“利用する気がない”という言葉も裏付けている。


「査察といっても、今日は挨拶程度ですから。あなたが、どちらを向いているかを知るだけで良かったのです」


 全然わからん。イヤホンで何やら使()()()から連絡を受けていた執事(ミハエル)に指を挙げると、書き殴ったメモをチラリと見せてくる。マクネアに覗かれたところで記号と数字でしかないそれは、想像と違う内容を示していた。

 ラボにいる連中は、国家安全情報局でも“輸出入統制部”らしい。それで、ようやく読めてきた。俺を狙ってきてるっていうのは、隣国(・・)か。

 潰すのではなく勧誘する意味の“狙う”であれば、腑に落ちるものがないでもない。


「ミズ・マクネア」


 俺は少し考えてエージェントに尋ねる。


海外の情報機関(おなかま)が、入ってきているんだな?」

「ええ。これまでにも何度か、()()()()()()と国外退去を行ってきましたが。今後は、もっと増えます」


 潜入工作員やら外交関係者やらを始末したり追放したりしてきたって話なんだろうけれども。そこに俺がどう関係してくる。


「彼らの目的は、あなたです」


 そんなもん知ったことか、といえれば簡単なんだが。不用意にも最近、全盛期のコネクションを部分的に利用して何度か金銀を流してしまったのだ。

 国外から見ると、“金を生むガチョウが息を吹き返した”ってところか。そら動くわな。それに呼応して国家安全情報局も緊張感を高めた、と。

 いま思えば、小口径自動小銃(ミニ14)の押収も妙に手際が良かった。ずっと監視下にあったわけだ。まったくもって、ヤキが回ったな。


「なるほど、俺の愛国心が試されているわけだ」

「いいえ、サー・サイモン・メドベージェフ。あなたのそれは、この国の誰をも遥かに上回るものです。そして、問題は愛国心の有無ではなく、()()()()

「……なに?」


 意外なことに、マクネアは少しだけ怯えを見せた。何に対してなのかは、わからん。いいたいことも、イマイチ伝わってこない。


「強過ぎる愛国心は、ときに痛みを伴う決断すら躊躇わない。あなたの愛国心が向いているのは国民や国土に対してであって、政体に対してではないのですから、なおさらです」

「いやいやいや待て。その評価を全否定はしないがな。政府に対してだって、十分以上に肩入れして協力もしてきたぞ?」


 とはいえ、個人的な愛国心を元にしたテロとか、売国とかってのは実際よくある。政府からすると犯罪者だけれども、過去には国の重鎮だったり要職だったりってのもよくある話で。国民から英雄に祭り上げられたりすると国内外問わず扱いに困るわけだ。

 大概は、敵か味方かその両方かに狙われ、殺される。最もシンプルで確実な対処方法として。

 おい待て、冗談じゃねえぞ。いまの俺がそのパターンか?


「率直に尋ねるがね、ミズ・マクネア。アンタは……というか政府は、俺に何を求めている?」

「喫緊の問題でいえば、要人保護プログラムに沿った速やかな潜伏です。いま最強度の圧力で、外部から軍民官の協働による干渉が加えられようとしていますから」


 特に反対する気はないけれども、そこで俺は首を傾げる。いくつか頭に浮かぶ非友好的な近隣諸国、友好的だが信用できない近隣諸国も含めて、彼らにそんな力はない。俺がチンピラだった半世紀前ならともかく、いまは協調路線という名の政治的降伏状態だ。

 干渉(それ)、どこからだよ。俺の疑問を当然のものとして、マクネアはこちらを真っ直ぐ見て、いった。


「あなたの、父祖の国です」


 ――なんだ、そりゃ。

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