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別れと別れと別れ

「世話になった」

「……ああ、うん」


 何て答えれば良いやら、イマイチわからんけど。まあ、達者でやれというくらいしか。

 特務部隊の隊長と副長は、ここで“元”が付くことになった。兵から奪った服と革水筒と安物の剣、砦で飼ってた馬を渡してやると、丁重に礼をいって去って行った。ここまでの道中なにがどうしたやら、えらく吹っ切れた顔だった。

 五十哩東にあるという街に向かうのだろう。馬で八十キロ。


「上手くいけば二、三日てとこかな」


 ジュニパーの予想では、無事に到着できる可能性は七割ぐらいだそうな。ミュニオは、八割五分。高いのか低いのか、よくわからん確率だな。


龍の住処(ドラゴンズネスト)でも通らない限り、大丈夫なの。治癒魔法掛けてたとき見たら、けっこう鍛えてたの」

「そうかな? あたしから見たら、あんまり筋肉なさそうだったけど」

「あ、わかった。身体が大きいひと、重くなるし、ご飯も多く食べるから長旅に向いてないって。軍でも、移動が長い兵科は細身が多いって聞いたことあるよ」


 特務部隊だか斥候隊だか、潜入工作を専門にしてるとムキムキにはならんのかもな。まあ、捕まりまくってボコボコにされまくってた――しかも味方の軍に――みたいだから、あんまり向いてなかったのかもしれんけど。


 砦に捕まっていたひとたちを、ランドクルーザーでミチュの村に送り届ける。小柄なミュニオとルーエが助手席で、ジュニパーが運転手だ。真ん中の補助席みたいなとこには、ジュニパーのパートナーのハミを座らせた。あたしとネルは荷台で後方を警戒する。

 まあ、もうこちらに敵対するような相手は魔物くらいだと思うけど。


「しぇーな、うさぎ……うつ?」

「もう要らんかな。やめとけ」


 半分忘れかけてたけど、射撃練習のために兎狩りした獲物を懐収納で預かってる。村に着いたら忘れないように出さないとな。なんだかいう緑の鳥もだ。

 砦から村までの二十哩の道程を、いろいろ思うところがあるのか、捕まってたひとたちは黙ったまま揺られていた。ゆっくり走っても小一時間で着く。自動車なら近いようにも思えるけど、囚われの身には永遠のように遠い距離だったんだろう。


「おおおおぉ……!」


 あたしたちが捕まってたひとたちを下ろすと、ミチュの村のひとたちは涙ながらに出迎えてた。もう二度と会えないと思ってた、なんていう声まで聞こえてきて反応に困る。そこまで思い詰めても、兵士の集団には歯向かえないもんか。そうだろな。脱走兵とはいっても、相手は元職業軍人。バリバリの戦闘集団だ。

 どこでそうしてどうなったとかいう村人からの詮索はマルッと無視して、“ネルたちの狩りに付き合って、ついでに見付けてきた”で押し通す。

 砦から奪った物資は全部置いてく。どうせこの村か、どこか近くの村から奪われた物だ。正直いうと、あたしたちが有効活用できそうな物はなかった。種芋とかエールとか塩漬け肉とか脱穀してない麦とか、逃避行の身ではどうしようもない。

 ついでにネルたちが狩ったウサギ三十二匹も忘れず渡しとく。ミンス鳥という害鳥十七羽もだ。この緑の鳥、あんまり食うとこないけど羽根が行商人に高く売れるんだそうな。


「そんじゃ、あたしたちはそろそろ出るか」

「「「しぇーな。じゅにぱ。みゅにお」」」

「おう、ネルもハミもルーエも、元気でな。お前らなら、きっと上手くやれる」


 礼をいって差し出してきた銃を、そのまま持たせる。


「……いいの?」

「もう、お前らの銃だって、いっただろ」

「「「ありがとう」」」

「その、あちこち赤い色は、あれだ。なんだかいう魔王のお仲間だって印だそうだけどな。そこは、あんまり気にすんな。あたしたちとお揃いってくらいのもんだ」

「うん」


 ネルとハミとルーエに、銃のクリーニングキットとガンオイル、22口径弾の箱もひと山ずつ置いてく。

 整備と清掃の基本は、あたしも自分の小型リボルバー(ラングラー)で一緒にやって覚えさせた。ルーエは、ミュニオが教えてた。

 彼女らの今後がどうなるのかはわからないけど。盗賊になろうと隊商の護衛になろうと、あるいは魔法使いになろうと。あたしたちと出会ったことが、あたしたちが渡した銃が、少しは理不尽に抗うきっかけになれば良いなとは思う。

 それでこそ、“力の差を埋める物(イコライザー)”ってもんだろ。


 チビエルフのミュニオ姐さんとお姉さんなルーエは、手を取り合ったまま、最後まで何かを話し合ってた。

 でも結局のところ、結末は最初から決まってた。ルーエは村を捨てられず、ミュニオはこの場に残れない。


「みゅ、みゅにお……」

「大丈夫なの。ルーエなら、きっと上手くやれるの」


 あたしたちは手を振って、ランクルを出す。これ以上は、長居したくない。どんどん別れが辛くなるし、捨てられないものが増えてく。たぶん、通り一遍の付き合いくらいが良いんだ。仔猫ちゃんたちには、深入りし過ぎた。

 いまさら、だけどな。


「みゅ……にょ……!」


 五分ほど走ったところで、遠くからルーエの叫ぶ声が、聞こえた気がした。

 振り返ると、なにか丸っこいものが空に向かって打ち上げられて、パァッと弾けた。大きく広く霧のように広がったそれは、光を浴びて小さな虹を作り、すぐに消えた。


「ルーエ、やっぱり成功したの♪」


 助手席で振り返ったミュニオが、ふわりと幸せそうに笑った。


「わたしと練習した、水魔法なの」

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