ガールズエントリー
ランクルをさらに前進させると、砦から微かに鐘の音が聞こえてきた。なんじゃあれ、と振り返ったあたしにジュニパー先生が説明してくれる。
「警鐘だね。他にも見張りがいたか、死ぬところを見られたんだと思う」
「敵が来る?」
「たぶん、来ないね。いまのあいつら、山賊みたいなもんだし。そんな早く反応できるような備え方はしてないよ。城門を閉めて、立てこもるんじゃないかな」
それはそれで、めんどくさいな。
「ルーエ」
「はい!」
ノコノコ城壁上までやってきた追加の見張り役が、お姉さんズの狙撃で撃ち倒される。あたしには豆粒以下にしか見えんけど。半哩、約八百メートルでも一発必中なんだから、その半分くらいまで迫ったいまならやりたい放題だろう。
「仰角がキツくなってきたの。この先は、壁の上が死角になっちゃうの」
そう上手くいかないか。籠城側も遮蔽の陰に入る程度の知能はあったみたいで、荷台のスナイパー姉妹は射撃を止めている。
ミュニオが、あたしの注意を引くために運転席の屋根を叩く。
「シェーナ、回避の用意をしておいてほしいの」
「何か来るのか?」
「わたしなら死角から攻撃魔法か、山なりの斉射を降らせるの」
「その可能性は?」
「指揮官次第だけど、遮蔽のない傾斜路は、そのためのものだと思うの」
なるほど。坂道で動きの鈍った敵に、鏃の雨か攻撃魔法か。そんなのがいつ飛んできてもおかしくない状況だとしたら、一気に距離を詰めて車を降りた方が良いかもしれん。そこから二人ずつ三組に別れて突入、と。
う〜ん、あんまり、しっくり来ないな。
城門を突破するまでの行程がイメージできない。ジュニパーに乗せてもらって城壁の上から入るか、それとも蹴り開けてもらうか。
ミュニオとジュニパーに意見を聞いたところで、簡潔な返答が帰ってきた。
「ぼくに乗ってけば良いよ!」
「ここから? 五人全員を乗せて?」
水棲馬形態のジュニパーが凄まじい機動性と速度なのはわかるけど、さすがに全員乗ったら機動に制限があるんじゃないのかな。
「ぜんぜん大丈夫だよ。ネルちゃんハミちゃんルーエちゃんなら、誤差くらいの違いしかないもの」
「それじゃ、頼もうかな」
「じゅにぱに、のるの? みんなで?」
頭の上に疑問符を浮かべていた仔猫ちゃんたちは、水棲馬の姿になったジュニパーを見て歓声を上げる。
「「「ひゃあああぁッ♪」」」
うーん、いままでにないパターン。怖がるどころか、混じりっ気なしの憧憬と羨望。キャアキャアいいながら抱きついてスリスリしている。目にハートマークが浮かんでる感じだな、これ。獣人から見ると、ケルピーって“ステキなもの”なのか。ジュニパーもあまりの反応に、ちょっと照れ気味になってる。
「さあ乗って、お嬢さんたち。そして……」
ジュニパーがあたしを見る。なんだその目。わかるけど。やんねーっつうの。
「参りましょう、王子様?」
仔猫ちゃんたち、“しぇーな、おーじ?”みたいに怪訝そうな顔してる。
そらそうだ。そんな話はいっぺんも出てないし。ミュニオさん、お姉さんを通り越して、孫の学芸会見るお婆ちゃんみたいな笑顔になってるし。戻ってこい。
そういうの、要るのかな。要るのか。いまも捕まってるひとたちがいるのだとしたら、わかりやすい解放の旗印として。この辺りの山賊やら盗賊への抑止力としても。
しょうがない、この茶番に乗ってやるか。剣ならぬ自動式散弾銃を肩に掛けて、あたしは城壁を指差す。
「ああ、行くぞジュニパレオス。誅伐の時間だ」




