エリ
「……ん〜?」
あたしたちの目的地であるソルベシアの事情を聞こうとした矢先、あたしたちは首を傾げる。
エリは帝国に来る前、半年ほど滞在したらしいのだが……
「ちょっと待て、エリが召喚されたのって、帝国じゃないのか?」
「違う。最初の到着地点は、別の大陸」
そんなもんあるのか。いや、ジュニパーに聞いた気はする。
あたしの視線に、セクシー水棲馬が頷き目を輝かせる。
「もしかして、北の大陸? 遥かな海の果てにあるとか、聞いたけど。そこ?」
「そう、たぶんそれ」
「うわぁ……ホントにあったんだ♪」
ジュニパーさん天空の城を見付けたみたいな顔でワクワクしてる。可愛いなオイ。
「ねえねえエリ、そこでは人間も亜人も魔族も、すべての種族が仲良く共存してるっていう話は?」
「うう〜ん……半分ホント、かな」
「ん? どういうこと?」
「結果的には、事実ではあるんだけど。“仲良く共存できない勢力”が、皆殺しにされたからなんだよね」
ええと。あたしたちはリアクションに困る。それは……ハッピーエンドなのか?
世知辛れぇ。
「話せば長くなるんだけど、わたしは自分の意思でこっちの世界に来たし、自分で望んでここにいるんだよ」
「北の大陸から、ソルベシアに来て、帝国……というか、アドネアに? 自分から望んで? それ、どんどん辛い場所に向かってない?」
ジュニパーの疑問は、あたしたちも同感だ。何でまた好きこのんで、とは思う。北大陸はともかくソルベシアまでは逆ルートを辿ろうとしていたあたしたちにとってはなおさらだ。
「なんか、未開の地って、ワクワクしない?」
「しない……ことも、ないけど。平和に暮らせる場所にいるなら、わざわざ乗り込んでく趣味はないな」
「わたしも、よくわからないの」
「そっかー。わたしは、冒険とか血が滾るような体験をしたいと思って、両親に無理いって旅立ったんだよ」
あれ? 待て待て待て。意味わかんないんだけど。
「エリ、両親いるの? こっちの世界に?」
「いるよ。いまソルベシアで牧場やってる。たまにベーコンとか送ってくれる」
いや、ベーコンは知らんけど。お前、召喚されてきたんじゃなかったか?
「まあ、わたしの話はおいといて。ソルベシアに行くなら牧場を訪ねてみて。あんたたちなら、きっと歓迎してくれるよ」
話が横道に逸れ過ぎたので元に戻す。まずは現状でソルベシアがあたしたちの目的地として適切かという確認だ。
「ソルベシアの森は、いまのところ拡大を止めてる。向かうのに障害やら問題はないと思うよ。交易路も確保されてるし、治安も帝国南部よりよほどマシだ。でもまあ、ソルベシアの森は……エルフ以外には居心地の良い所じゃないかな」
「嫌がらせでも?」
「いや、それはないよ。環境も悪くないし住人たちも……エルフにしちゃ色々と抜けてるけど、悪い奴らじゃなかった」
「それじゃ、なにがダメなの?」
「ダメっていうか……エルフ以外の、いや場合によってはエルフもだけど、周囲の生き物を取り込んで栄養にして広がってく森なんだぞ? エルフの王が命じない限りは発動しないって聞いてはいるけどさ。なんか落ち着かないだろ」
「……そんなもんかな」
行ったことないからわからん。その生き物を取り込むってのも初めて聞いたし。ふとミュニオさんを見ると口を開けてポカーンとしていた。
エリを指してあたしたちに何かを伝えようとしている。どした。
「森が、ひと、たべるの?」
「みたいね。こわいよね?」
「いや待てジュニパー、それをいうなら水棲馬もだぞ?」
「そっか。じゃあ、大丈夫かな」
大丈夫じゃねえよ。どんな基準だよ。“話せばわかる食肉植物もいる”みたいなオチになるわけないだろ。
「シェーナたち、こっからどうするの? ソルベシアに向かう?」
「そうだな。とりあえず、いっぺん行ってみるよ。性に合わないようなら帰って来ればいいしさ」
「そっか。気を付けてね。まあ、大丈夫か」
帝国軍では“赤目の悪魔”と出喰わして壊滅しなかった部隊はない、とかいわれてるらしいけど。そんなん自業自得じゃん。こっちに危害を加えてこなかったら、こっちだって手出しはしない。剣やら槍と違って、こっちの攻撃は一発ごとにお金が掛かるのだ。いや、打撃武器も刃毀れやら研ぎ直しやらあるのかもしれんけどさ。個人的な恨みがあるならともかく、帝国軍だってだけで好きこのんで喧嘩売ったりしない。たぶん。