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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

西へ向かう船

作者: ねむねむ

1 記憶

こいつは面白いことになった、師であるはずの船長に牙を剥いちまった、あいつ何をやらかすつもりだ。でも、まぁ船員達の評判も悪くない、俺には実のならない樹木を育てる趣味はない、風の向くまま、ままよままよとな。これまで船長さんのもたらす秩序とやらで足の不自由な俺もつまはじきにならずに航海をさせてもらった事には感謝しますがね、ここ一ヶ月ばかり検討外れな事をしている気にもなる、先日も発見した島に送った様子見が数名先住民に殺されて帰ってきた。中には俺のオトモダチも居たのだが仕事柄しかたねぇと納得はしていた、しかし、そうでない者達がいるのも世の常、追い討ちを掛けるようにこの蒸し風呂のような熱さ、何時食ったかもわからねぇ飯、正気じゃいられねぇよ。しまいにゃ仲間内でいさかいを始める、おめえの口がくせえ、おめえの屁がくせえ、に始まって、仕事のやり方にも及ぶ、大人ってやつの厄介なところは、そこに金や権力が絡むことだよ、こいつらなりに知ってか知らずかお互いに蔑みあってやがる。回りはさらにたまったもんじゃねぇ、巻き込まれたくないもんで黙り決め込むしで、お通夜かよ、内心呟きながら鰯をほおばる。上手くやってたんだよ、口くせえやつにはレモンを特別に分けてやって笑いを誘ったり、体の弱いやつに自分の魚くれてやったり、でもねぇ、寝不足と精神的な疲労て奴がね船員達を変えちまった。そこにあいつだ、占い師みたいな祈祷師みたいなやつが天候やらなんやらピタリと当てちまうもんで、仕事が捗るもんだから皆急にちやほやしだす、学の無いやつ等はまじないで病気が治ったとすら言い出す、逆上せちまったのかね、事あるごとに船長に楯突くようになり、今日完全に牙を剥いたんだ、端から冷めきった俺には退屈しのぎこの上無い、勿論良識ある船員も居るはずですぐ収まると思うだろ、囚人に毛が生えた様なやつ等が気を効かせてやっちまったらしい、犯しちまったんだよ、男が男をな、手を回してやがったんだ、震え上がっちまった、あとは多勢に無勢、船長交代って訳だ、間一髪取り入って正解だな。しかしだよ、大義名分が変わる訳じゃねぇんだ、西にある島国にあるって言う金塊が目当てで、その取り分が大分変わっちまったって話で、そうそう目的に変更はない、俺様もちっとは華のある人生を歩めるってもんだ。俺たちは、言葉のわかる元船長を使って持参の品々を金塊に交換した、何やらをしたためた書状を渡すと相手方の長は顔色ひとつ変えずに頷いた、どうやら上手くやったらしい。その国の連中が金塊を船まで運んでくれた、仲間の一人が駄賃が欲しいねぇと言うと、ピンと来たようで数人がしたたかに笑う、駄賃ねぇ、嫌な予感がしたがしたが案の定、ひとりふたりと女をかっさらう、趣味じゃねぇなと思いながら効かない足を引きずって船に飛び乗った。船上ではあいつ等酒池肉林雄叫びをあげている、品がねぇと目を伏せたが、取りっぱぐれちゃかなわない、開き直って犯した、女をな、で、捨てたんだ、殺してな。国へ帰ると不思議なことに取り分は要らねぇと俺たち以外の奴は帰っていった。俺達も取り分を手に散り散りになる、結局そんな縁しか気付けない奴等だよとしか思わなかった。やがて、その金を元に大成した俺は嫁をとり子供を設ける、立派な教育をして跡取りにするつもりだった、だったんだ、あの男が来るまでは。船員の親分格がふらりとやってきたんだ、案の定金の相談でしぶしぶいくらかを渡したりしていた、しかしある時いい加減うんざりして断りを入れる、すると拍子抜けするくらいすんなりと引き下がった、駄賃が欲しいねぇと言う男にまたいくらか渡し別れを告げる。ああ、こっちかと言うのが引っ掛かったが振り返ることはなかった。それから数日してだった、子供が死んだ、生き甲斐にしていた子供が死んだ、俺の留守にやって来た男が俺の蛮行鬼畜を洗いざらいぶちまけたらしく、道徳心が青年の心を押し潰す、嫁の前で首をかっ切って死んだんだ。あとに聞いたが土産話が欲しかったとのことらしい。息子の死に驚愕しながら放心状態の嫁に目をやり絶望する、皆に知られた俺に住まう所など無い、持てるだけの金をもって誰も俺を知る事の無い町まで行くんだ。俺は酒に溺れる様になり、何時ものように端っこで酒をやる、賑やかな連中が楽しそうに作物の自慢を始める、ふと静かになったかと思うとその集団がこっちを見て、本当だったんだな察して余りあるわと言う、なんの因果かあの船の乗組員の塊に出くわす。

「お前、あの船に乗ってた奴だろ。」

「だからなんだ。」

「こうなる事を俺たちは知っていたんだ。」

窶れた俺を蔑むように見下ろすと言った、

「手紙だよ、お前らが船を離れる際に船長が落とした冊子に挟んであったんだ。」

あれか、食うに食わず弱ってよろけたと思ったが、あの時そういや。こいつらの話しはこうだ。

手紙にはこうあった。

どうやら私には止められないようだ、論戦を繰り返す中、今は目的によって利害が一致するように仕向けてある、それさえ守れば皆の命までは奪うまい、彼等がどんな蛮行に及ぼうと、命あるかぎり動じてはいけない、この旅を終え正気に戻ったものは自責にかられ、そうでない者も染み付いた業は業を呼ぶ、法治国家にある国民がどう思うだろうか、彼らは既に罰せられているんだよ、君達は彼等のようにならない決断をした、それだけで財産なんだ。

皆で船長を嵌めたつもりが、嵌められた、目先の利害で動いたがために、なんて気長な奴なんだ。ついでに聞かされた話によると金塊を運んだのは重罪人達だったらしい、どちらにせよ俺たちには殺しの感触が残る、業が業を呼びか、親分各も別の件で捕まったらしい、息子を失い、俺には何がある、俺は金と地位が欲しかった、そうだ、俺には金がある。そう言って血反吐を吐いたのが最後だった。

2 話し

二人が話したのは祈祷師が船長の座を奪ったあの時

一度きり、

「勝負あったね、ごくろうさん。」

「死ぬときにわかるよ。」

なお、船長は国を創る仕事に尽力したらしい。 

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