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魔界から帰って来たら、世界は救われた後でした。(旧:最強って誰のことですか?)  作者: 如月
一章 魔界から帰って来たら、何もかもが変わっていました
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第五話 ダンジョン攻略 ①

「──おめでとうございます! 今回の依頼達成で、オルフェウスさんのランクはFに上がりました!」

「ありがとうございます」


 あれから2週間、俺は薬草採集を中心に地道に依頼をこなしていき、漸く念願のランクアップを果たすことが出来た。


 そのランクアップを待ち望んでいたのには相応の理由がある。


 まず一つは、受注することの出来る依頼の種類が増えるということだ。

 今までは自身のランクの一つ上のFランクまでの依頼しか受けることしか出来なかったが、これからはEランクの依頼まで受けることが出来るようになる。そしてそれらを受けることによって、今までよりも高収入が期待できるのだ。


 二つ目は、俺にとってはこっちの方が重要なのだが、Fランクからダンジョンに入ることが許可されるようになるのだ。

 ダンジョンとはいわば魔物の巣窟のようなところで、レベル上げにもってこいの場所。


 他にもドロップアイテムというものもあって、魔物を倒すと低確率で出てくることがある。

 魔物が強ければ強いほどドロップ率は上がり、ある程度の実力のある冒険者はそのドロップ品を目当てにダンジョンに潜り、依頼ではなくそれらの稼ぎで生計を立てている者も少なくない。


 俺は新しくなったギルドカードを手に、冒険者ギルドを出て宿屋へと向かう。


「あ、お帰り~オルフェウス君」

「ただいまオリビア、ちょっと良いか?」

「いいよ~、どうしたの」


 宿屋に戻り、出迎えてくれたオリビアに早速ダンジョンの件について話を切り出す。


「これからダンジョンに行こうと思うんだが、帰ってくるまで俺の部屋開けといてくれないか? もちろん代金は払う」

「成る程⋯⋯うん、良いよ! 今から行くの?」

「ああ、()()()()()()()()()は久し振りだし、ずっと楽しみにしてきたからな」

「うんうん、分かった。気を付けて行ってきてね~」


 頼みを聞いてくれたことに少し安堵しつつ、俺はオリビアに「あぁ」と短く答え、入ったばかりの宿屋を出た。


 見慣れてきた大通りの賑わいを横目に、ゆったりとした動きで再び冒険者ギルドへと足を運ばせる。

 ギルドへはついさっき行ってきたばかりなのだが、一つ⋯⋯いや二つほど用事を思い出してしまったのだ。

 暫くして冒険者ギルドに到着し、その扉を押し開ける。


 カランカラン。


 扉に付いている鈴が鳴るとともに中へと足を踏み出し受付へと向かう。

 ⋯⋯が、受付に居る3人の人物を視界に捉えた時、はたと足を止めてしまう。

 しかしそれも一瞬のことで、何事も無かったかのように再び歩き出す。


 すると近づいてくる足音に気付いたのか、受付に居る3人の内の1人の少年が此方に振り向いた。


「あ、()()!」

「よっ、セト」


 そこに居た冒険者というのは、セト含め3人でパーティーを組んでいる者達で、残念なことにここ2週間で一番多く行動を共にしている奴等でもある。

 まあ、セトの方は剣を教えてやると言ってしまったので仕方無いが、何故か2人も嬉しくないおまけもついてきてしまった。

 なるべく仲良くしようと努力しているのだが、向こうは俺と仲良くしたくはないらしい。


 それと剣術を教えている過程で、セトはいつの間にか俺の事を〝師匠〟と呼ぶようになってしまい、その呼び方を止めろと言っても言うことを聞いてくれない。


 更に俺の所為でセトとの時間が減ってしまったからか、少女達の俺を見る目がやけに冷たい。

 今も彼女達の俺に対する視線が少し鋭いが、それに気づかないセトはニコニコした顔で此方へと歩み寄ってくる。

 あーめんどくせぇぇぇぇっ!! ──という気持ちを抑えて笑顔を作る。


「依頼でも受けに来たんですか?」

「いや、お前に用があって来たんだ」


 そう、俺が冒険者ギルドに来たのはセトにダンジョンのことを話すためだ。

 だがそう都合良くギルドに居る筈無いと思い、受付に伝言を頼もうと思っていたのだが⋯⋯、残念ながら丁度ギルドに来ていたようだ。


「僕に、ですか?」

「ああ、今からダンジョンに行くつもりなんだ。だから当分の間顔を出せなくなる。その間は適当に自主練でもしててくれ」

「と言うことは、とうとうFランクになったんですね! おめでとうございます、師匠!」


 早くこの場を離れたいと思いつつ言うと、セトはハッとした表情になって此方を見上げてそう言った。

 その純粋な瞳が眩しくて、圧倒されてしまった俺は二歩後退しながら口を開く。


「お、おう。そう言うことだから」


 伝えたいことはしっかりと伝えたので、セトの横を通り過ぎて受付へと向かおうとした時、セトが再び声を掛けてきた。


「あの、僕達も一緒に行っても良いですかっ?」


 一瞬、何を言っているか分からなかった。


「は?」


 思わず足を止め、振り返ってしまう俺。

 一緒に行って良いかって⋯⋯、どうしね一緒に行きたいんだよ、自分達で勝手に行ってくれば良いじゃないか。

 恐らくいまの俺は少し嫌そうな顔をしている。こいつだけならまだしも、()()と言うことはつまり、またおまけがついてくるって事だから。


 面倒以外の何事でもない。


「実は僕達もまだダンジョンに行ったこと無いんです。何かあると心配で⋯⋯、でも師匠となら安心です! だから着いていっても良いですか?」


 笑顔で聞いてくるセトを見て俺は小さく溜め息を吐く。

 こうなってしまえば絶対こいつは引かない、この二週間でそれは痛いほど実感してきた。

 本当に面倒な奴を弟子にしてしまった、と過去の俺を心の底から悔やみたい。


「⋯⋯パーティーメンバーとちゃんと相談して決めてくれ」

「そうでした!」


 今その事に気付いたかのように顔がはっとした時の表情となり、後ろで待機している2人へと振り返る。

 しかしその2人はムッとしたような顔をしており、どうやら俺とダンジョンへ行くのが不満らしいことが察せられる。

 まあ、その方が嬉しいのだが。この二人を少年はどうやって説得するのか見物だな。


 ──と、思っていたのだが、結果はあっという間に決まった。いや、決まってしまった。


 少年の「お願い!」の押しに、一瞬で2人の少女はダンジョンに行くことを許してしまったのだ。チョロかった。

 つまり俺は1人でダンジョンに行くこと叶わず、また何時ものように弟子プラスおまけ2名という外れくじを引いてしまったということ。


 ある1人を除いて複雑な顔をする4人でダンジョンへの入場許可を受付で申請し、条件を満たしているのでそれが受理される。

 そして、それぞれが準備だの買い出しなどで一旦別行動を取ることになった。




 ──俺達は今、よく薬草採集の時に来ている森の中を歩いている。


 俺達が目指しているのはこの町の近くに2つあるダンジョンの内の1つで、攻略難易度が低い方のDランクダンジョンだ。

 ダンジョンにもランクというものが存在しており、ランクが高くなるにつれて攻略難易度が上がってくる。つまり今向かっているダンジョンの攻略難易度はDということになる。


 ランクの決め方は色々とあるが、大体は出てくる魔物の強さとその数や、〝トラップ〟の量でランク付けされている。

 トラップにも色々あって、ダンジョンによっては本当に多種多様な種類のトラップが仕掛けられており、冒険者達の攻略を(はば)んでくる。


「疲れたか?」

「少し⋯⋯」

「「疲れたー!」」


 振り返ると3人とも疲れたような顔をしていたのでそう聞くと、セトはあまりそうでないようだったが、女性陣はかなり疲れていたようだ。

 歩くだけならまだしも、此処は森の中。つまり魔物が多く棲みついている。なのでダンジョンへと向かう道中でも何回か魔物と出くわしているので、疲れたというのも無理ないことだろう。


「けちってないで馬車を使えばあっという間なのにー!」

「なら今から帰っても良いんだぞ?」

「⋯⋯ふん!」


 彼女の言うとおりダンジョンまでは馬車で行っても良かったのだが、冒険者成り立ての奴が馬車など使うわけがない。

 一応金はあるが、折角なんだから雰囲気というものを味わっておきたいじゃないか。

 何事も形から入れと言うじゃないか。


 それと、あわよくば仲良くなれないかと考えている。

 これからも関わる機会があるだろうし。


 暫く休憩してから再び俺達はダンジョンへ向けて歩き出す。町からダンジョンへと向けて歩き出してそろそろ4時間くらい経つが、やっと全体の半分くらい進んだ程度だ。このままいけばダンジョンへ着くときには既に辺りが真っ暗になってしまっている事だろう。


「だいぶ暗くなってきたし、今日は野宿だな」

「そうですね」

「もう少し進んで、開けた場所で今日は終わりだな」


 俺だけならまだ陽が落ちる前にダンジョンに到着することが出来る。だが、他の奴等が着いてこれる速度ではない。

 残念だが今日は休んでダンジョンは明日とするとしよう。


 少し進んだ先で丁度言い開けた場所があったので、今日はそこで野宿をすることにした。


「いつも思うんですけど、師匠の魔法って本当に便利ですよね」


 俺が亜空間から野宿をするために寝袋を取り出している最中、セトがしみじみとそんな事を言ってきた。

 確かに両手に何も持たなくて良いし、背中に背負わなければならないものもないので冒険者にとってとても便利な代物だろう。


 しかし並大抵の魔法使いでは扱いが難しいし、出来たとしても魔力の供給が追い付かずに維持できない。

 ならアイテムボックスは? と考える人も居るだろうが、そんなレアスキルを持っているのにも拘わらず冒険者やってる奴なんて、愚かとしかいいようがない。


「まあな。⋯⋯お、戻ってきた」


 離れた場所に知っている2人の少女の姿を捉える。


 2人は夜になり辺りが真っ暗になる前に薪に使う木の枝を拾ってきてくれたのだ。

 両手で抱え込むように持ってきたそれを地面に置き、そこら辺にある落ち葉を集めて小さな山をづくり、そこに木の枝を綺麗に積み上げていく。

 仕上げに赤い髪の子。確か名前はアリシアだったと思うのだが、その子が火魔法のファイアーボールを使ってそれに火を灯す。因みに水色の髪の子の方はナディアという名前で、水魔法が使えるらしい。


「じゃ、ちょっと早いけど飯にするか」


 俺は亜空間から町を出る前に買っておいたパンと干し肉、果物を取り出す。

 パンと果物はそのままそれぞれに渡し、干し肉は細い木の枝に刺して焚き火で焼いていく。

 焼き上がったら配っていき、全員に行き届いた所で食べ始める。


 そんな時、セトが声を掛けてきた。


「そういえば、師匠って今いくつなんですか?」

「ん? んー、37くらいかな」

「へぇ~さんじゅう⋯⋯なな!?」


 セトは信じられないとばかりに声を大にしてそう叫ぶ。


 それを聞いていた少女達も此方に目をやり、驚いたような顔をしている。

 そりゃあ見た目がこんなだもんな……俺の年を聞いて驚くのも無理はない。俺も時間があればこれについて調べてみようと思っているくらい不思議な状態だもんな。


「師匠もそんな冗談言うんですね」


 どうやら、冗談だと判断したらしい。


「じゃあ何歳に見える?」


 案の定俺の言ったことをまるで信じていないので、逆に俺が何歳に見えるかを聞いてみることにした。

 年齢をを聞かれたときに本当のことを答えると、今みたいな面倒臭い事になりかねない。


 丁度良い機会だし、こいつらが答えた年齢をこれから使っていくことにしよう。


「うーん⋯⋯、僕と同じ16歳、かな?」

「「(コクコク)」」

「成る程」


 どうやら満場一致で俺の年は16歳だそうなので、これから年を聞かれたときはそう答えることにしよう。


 年齢詐欺? 騙される方が悪いんだよ?

 それにしても、セトはまだ16なのか。


「お前らはいくつなんだ?」

「私は16」

「⋯⋯15」


 ナディアが16歳で、アリシアが15歳らしい。

 当たり前だが見た目通りの年に決まってる。


「じゃあ、師匠のレベルっていくつなんですか?」

「あ、それ私も気になってた」


 年齢の次はレベルが知りたいらしい。

 ある程度は教えても構わないと思っているが⋯⋯。


「残念だがそれは秘密だな」

「⋯⋯ルール違反ですよ、そういうのはダメです」


 俺が注意する前に、アリシアがポツリとそう言った。

 冒険者の個人情報を聞くのは禁止されている訳ではないが、聞かないのが暗黙の了解とされている。


 セト達もそれは知っていただろうが、どうしても聞きたかったのだろう。

 俺も、その気持ちが分からないでもないからな。


「そうだな。ステータスの事は秘密だ。セトも自分のステータスはあまり言い触らさない方が良いぞ」

「⋯⋯はい。すみません師匠」


 しゅんと(しお)れたセトは、申し訳なさそうに謝罪の言葉を言った。

 それに「気にすんな」と言って、俺は串焼き肉を口に運ぶ。


「それじゃあ俺はもう寝るが、お前らも早く寝ろよ」

「待ってください師匠、見張りはどうするんですか? ここら辺は魔物が」

「俺が気づく」

「あっ、そうですね」


 納得してもらえたようで何より。

 寝袋に入り俺は眠りについた。


 ──次の日、今日も天気は晴れ。少し冷たい山の空気が肌を撫でるように過ぎ通っていき、段々と意識がはっきりとしてくる。

 全員が起きたのを確認し、朝食を準備して食べ始める。

 それが終わったら俺の亜空間に荷物を仕舞い込み、ダンジョンへと向けて歩き始める。


「陽が昇る前にダンジョンまで行くからな」

「はい」

「「⋯⋯おー」」


 女性陣は気の抜けたような声だったが、まあ大丈夫だろう。


 昨日よりも早い速度でダンジョンへと向かい、森を突き進んでいく。しかし、それは森の奥深くに入ることと同じなので、道中に遭遇する魔物の数も次第に増えていく。

 それらを蹴散らしながら奥へ奥へと進んでいくと、遂に目的地へと辿り着くことが出来た。


「見た感じ普通の洞窟ですね」


 セトがダンジョンの第一印象を正直に答える。

 ま、外見なんて何処のダンジョンでも洞窟の大きさ以外、殆ど代わり映えなどしないだろう。

 これがダンジョンの危険な所でもあるのだが。


 見た目が殆ど変わらないということはつまり、中に入るまでそのダンジョンがどの程度のものなのかが分からないのだ。

 たまたま新しいダンジョンを発見して迂闊に足を踏み入れてしまうと最悪の事態になりかねない。

 これを防ぐためにギルドは新ダンジョンを発見した場合は中には決して入らず、直ちにギルドや衛兵、騎士などに報告するようにと呼び掛けている。


「あ、そうだ」


 ふと俺はあることを思い出し、亜空間からあるものを取り出す。


 周りからはただ空気を掴もうとしたようにしか見えないが、握った俺の手の中には亜空間から取り出したものがしっかりと握られている。

 手を開き、それを指で摘まみ上げる。


「何ですか、それ?」

「指輪?」


 俺が何かしていることに気付いた3人が手に持っているものを除き込むように観察してくる。

 ナディアが言った通り、これは〝指輪〟で間違いない、しかし、唯の指輪でもない。


「ん、ああ、〝魔道具〟だよ」

「「「魔道具!?」」」

「何だ? 魔道具を見るのがこれが初めてじゃないだろ?」


 魔道具、それは魔力を込めることで何らかの効果をもたらすものだ。

 その価値はピンキリで、何の役に立つんだ? というものから国を一つ落とせるような極めて危険なものまで、かなりの種類の魔道具が存在している。

 ネルバの町の街灯は確か火を灯しているのではなく、魔道具が使われていた筈なので初めて見たということは無いだろうに。

 いったい何をそんなに驚いているんだ?


「そうですけど⋯⋯、魔道具って確かすっごい高価ですよね?」

「普通の人が手をつけられるような代物じゃない」


 それはそうだ。

 どんなに使えない魔道具でも魔力を込めれば誰でも使えることの出来る優れものだし、そのぶん値が張るのは仕方無いことだと思うが、これは──。


「ああこれ、俺が自分で創ったんだ」

「へ?」

「は⋯⋯?」

「えっ?」


「「「──えぇえええっっ!?」」」


 静かな森の中に、三人の声がこだまする。


 そう、これは俺が自作した完全オリジナルの魔道具なので、今回ばかりはこいつらの反応は正しい。

 魔道具とは基本、古代遺跡やダンジョンで極稀に手に入る宝箱から出てくることがあるのだが、そうそうお目にかかれるものではない。

 しかもその殆どが何にも使えないようなもので、それを何とか使えるようにしたのがネルバで使われていた街灯などの極少数の魔道具だ。


 なので1つでも使えるものが手に入れば、一生遊んで暮らせるような大金が懐に転がり込んでくる。それを夢見て冒険者をやっている者だってざらだ。

 しかし、古代遺跡やダンジョン以外にも、魔道具を手に入れる方法が存在する。

 それが人の手で創り出すという方法だ。


 結論からいうと、魔道具は〝付与魔法〟で創り出すことが出来る。


 付与魔法を簡単に説明すると、あらゆる効果を何かに付与することが出来るというものだ。つまり何かしらの効果を何かに付与することが出来れば魔道具を創れるということだ。

 まあ、その為には高度な技術とかなり貴重な素材や大量の魔力を消費しなければならないが。


「どうだ、凄いだろ?」

「めちゃめちゃ凄いですよ!! 流石師匠です!」

「「(コクコク)⋯⋯!」」


 久し振りにべた褒めされたので俺は得意顔だ。


「それでそれでっ、どんな効果があるのよっ?」


 何時もはあまり感情を表に出さないアリシアが、今回は興味津々で聞いてくる。

 セトもナディアも気になるようで、此方をじぃーっと見詰めている。それに俺は堂々と胸を張って答えてやった。


「これは──装備した者の身体能力や魔力を100分の1にまで抑える魔道具。その名も『コフィンリング』だ!」


 ふふふ、決まったッ!


 俺は自作の魔道具を掲げて、そう直感した。

 これは俺が作成した魔道具の中でもかなり上位に位置する程の力作で、能力封印系の魔道具の中でならダントツのトップだ。

 何故そんなものを出したかって? そりゃあ勿論装備するために決まっているじゃないか。

 今の俺だとデコピン食らわすだけで消し飛ばしてしまう可能性もあるし。


 しかし、セト達の反応がないことに気付く。


「ん? どうしたんだ?」

「「「⋯⋯⋯⋯」」」


 見ると、顎が外れそうなほど開ききった口が塞がっていなかった。

 そしてたっぷりと無言の時間が経った後、3人は口を揃えてこう言った。


「「「なに、そのくそ魔道具」」」


 思わずフリーズしてしまった。

 って、はああああああああああああああっ!?


「お、おいおいおい、何言ってんだよ~⋯⋯じょ、冗談だよね?」

「まあ⋯⋯」

「確かに凄いんだけど、ね⋯⋯?」


 3人とも何と言っていいか分からないといった表情で、曖昧に話を流そうとしてくる。

 な、何故だ、俺の自信作なのに何故これほどまでに反応が薄いんだっ!?


 ──はっ! ま、まさか、この程度の魔道具は今時大したこと無いのか!?


 あ、有り得る⋯⋯!

 俺の常識は20年前の状態のまま、つまり20年経った今では更に凄い魔道具が存在している可能性は十分に有り得る話だ。

 しかも、たった20年ぽっちで文明やその他諸々の技術はかなり進歩していた。

 という事は、魔道具に関する情報もかなり新しくなっている可能性が極めて高いということ⋯⋯!

 ──成る程、完全に理解したぜ⋯⋯ははっ。


「確かに魔道具としては伝説級だと思いますけど⋯⋯」

「伝説級に呪われたアイテムね」

「そこまで強力な封印系魔道具、他に無いんじゃないですか⋯⋯?」

「言うな、それ以上言わないでくれ。俺をこれ以上惨めにしないでくれ」


 これ以上俺のライフを削られぬ内に、自分から話を打ち切る。

 そうやって持ち上げられる方が俺にとっては余計に傷付く。大したこと無いのなら正直にそう言ってもらった方が楽なときもあるのだ⋯⋯。

 俺は静かに全てを呑み込む漆黒のような、それでいて僅かに透き通ってキラキラと光を反射している魔道具『コフィンリング』を右手の中指に嵌める。


 それと共に自身に訪れる強烈な脱力感が、一層俺を悲しくさせる。


「はめちゃうんですか!?」

「はめたら二度と取れないとかじゃないでしょうね⋯⋯!?」

「良いだろ、別に」

「で、ですが、隷属の首輪より強力な封印系魔量具なんて身に付けたら⋯⋯」


 すかさず突っ込みを入れてきたセトをキッと睨み付けると、セトはばつが悪そうにそっと俺から目を逸らした。

 アリシアとナディアは既に俺と目を合わせないようにと、俺から視線を外している。

 やっと、ダンジョンにやって来たというのに、最悪な空気のまま挑むのか……はあ。もう帰りたい。


「じゃ、行くぞ」

「「「⋯⋯お、おー」」」

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