第一話 プロローグ
初投稿です。温かい目で見守ってくださると幸いです。
よろしくお願いします!
「⋯⋯もう、行ってしまうのか」
「ああ、世話になったな、ギルゼルド」
「お前が此処に来たときはまだひよっ子であったのに⋯⋯、人間という生き物はつくづく成長が早いものだ」
「あの時はな⋯⋯」
目の前にいる男性の言葉に俺は遠い目をしながら此処──【魔界】に来たばかりの頃の記憶を回想する。
俺が自分の居た世界から離れ、この世界にやって来たのは17歳の頃だ。
幼い頃から魔物を倒していろんな場所へ旅をする冒険者になりたくて、朝から晩まで冒険者を引退した近所のおじさんに剣術を習い、ひたすら修行に明け暮れた。
そんな俺には天賦とはいかずも多少の才覚があって、15歳になる頃には既に村で一番剣術が上手くなっていた。
そして15歳で晴れて成人した俺は、村を出て念願の冒険者となり、ずっと夢見ていた旅に出た。
しかし冒険者となって2年の歳月が過ぎたある日、運命の分岐点ともいえる出会いをした。
俺は偶然にも悪魔が開けた【魔界】へと繋がると言われるゲートを見つけてしまったのだ。
当時まだまだ若かったこともあり怖いもの無しであった俺は、存在しか聞いたことのない【魔界】に興味を持ち、村一番の剣の使い手だったという肩書きに慢心をし、そのゲートの中へと足を踏み入れてしまった。
「突然我の前に現れた時は驚いたものだ」
「俺だって吃驚したさ」
2人して笑い会う。
【魔界】へと続くゲートを潜った先、そこで一番最初に出会ったのが今目の前にいる男だ。
何せ俺がゲートを通って【魔界】の世界に来た瞬間、何とこの男は俺の目の前に居たのだから。
あの時は本当に驚いたものだ。
その後何だかんだで馬が合い、20年間共に過ごした結果、今では親友と呼べるまでになっている。
2人で一緒に世界を周り、いろんな出会い、発見、成長を経験してきた。旅の仲間だって次第に増えていった。弱肉強食の激しい【魔界】で彼等に何度命を助けられたことやら。
当たり前となってしまった〝明日の生死も保証されていない日々〟も今となっては良い思い出だ。
「帰ったら何をするか決めているのか?」
「んー、正直あまり考えてないんだよな。でも、やりたいことはある。出来るかどうかはわからないけど」
「ほう、夢と言うやつか。叶うと良いな」
ああ──と声を弾ませて頷く。
今後の予定など全く決めていない、行き当たりばったり、出たとこ勝負もいいところ。無計画にも程があると言うものだろう。
だけど、やりたいことがある。
「⋯⋯っとそうだ、これを持っていけ」
「これは⋯⋯っ、⋯⋯良いのか?」
ギルゼルドがハッと思い出したかのような素振りを見せた後、懐からあるものを取り出し俺に放ってきた。
それを片手で掴み、それが何なのかに気づいて、驚きながら念を押すように確認をとった。
これは俺達2人には思い入れの深いものであり、ギルゼルドの身体の一部でもあったものだ。だからこそ俺に渡してきたことに驚き、ギルゼルドに聞き返した。
まず最初に、ギルゼルドは悪魔と呼ばれる種族だ。
まあ【魔界】に住んでいる殆どが悪魔なので、ギルゼルドもまた悪魔なのは当然と言えば当然なのだが。
逆に俺のような悪魔ではない人族などの種族の方が本当に極少数しか住んでいない。そんな世界だ。
そして悪魔というだけあって、彼と俺には決定的な身体構造の違いがある。
悪魔は、背中に翼を持っている。
翼を持っている種族はそこそこいるが、悪魔の翼は特に群を抜いている。もちろん良い意味で、だ。
飛行速度は翼のある種族の中でもトップクラスで、必要の無いときには身体の中に仕舞うことも出来る。
どうやって仕舞っているのか凄い気になっているのだが、見せてもらっても消えるようにして翼が無くなるのでよく分からない。
結局、最後までわからなかった。
悪魔は、【魔眼】というものを持っている者がいる。
悪魔族以外にも【魔眼】を持って生まれてくる者も居るには居るが、悪魔族よりは少なく本当に僅かしかそれを持って生まれてくる者はいない。
【魔眼】には様々な特殊な能力が備わっており、例えば目が合った者を麻痺や毒、石化等の状態異常にさせたり、果てには即死させることも出来たりする。
ギルゼルドは相手の数が多くて面倒臭い時には、毎回これを使って魔物を一掃したりしていた。頭が可笑しい。
悪魔は、頭部に角が生えている者がいる。
これも【魔眼】同様、誰もが持っている訳ではないが、ギルゼルドは持っている。
悪魔によって個人差はあるものの、ギルゼルドの場合角は頭の両側面、つまり耳の辺りから生えている。そして直ぐに向きを変えて真上に伸びている。
悪魔の角は魔法を使うときに使用する魔力を安定させ、威力を高める効果があると教えてもらった。
しかし今のギルゼルドには本来2本ある筈の角の1本が、あろう事か根本から折れてしまっている。
⋯⋯模擬戦をした際に俺が剣で切り落としてしまったからだ。
いや、あの時は本当にビビったと記憶している。
そして今俺の手には、その切り落としてしまった角が握られている。
俺が切り落としてしまったものなので罪悪感を感じるが、切り落とされた本人はあまり気にしていない。むしろ何故か嬉しがっている。
「勿論だ。それを使って最高の武器ができたら、きっと見せに来てくれよ?」
過去の出来事を思い出して少し申し訳ない気分になっていた俺に、いつものように笑って話し掛けてくるギルゼルド。
その笑顔を見ていると、気に掛けているこっちが馬鹿馬鹿しく思えてきて仕方がない。
全く、こいつには敵わない。
「勿論だ、期待しておけ。⋯⋯もう少し話していたいが、別れが寂しくなるからここら辺で行くよ」
「お前なら大丈夫だとは思うが、向こうに行っても気をつけるんだぞ」
ギルゼルドが俺を心配してくれるとは珍しいことがあったものだ。
「ああ。と言っても此処より危険なところがあるとは思えないけど」
「っははは、違いない。ああそれと⋯⋯いや、何でもない」
ギルゼルドが何かを口にしようとしたが、それを言葉にせずに飲み込んだ。
何を言おうとしたのか分からないが、言わなかったという事は大したことでは無いのだろう。
俺はギルゼルドの角を肩に掛けているバッグに仕舞う。
最後の会話も終了した所で、俺の身体が淡く光り出し、次第にその光が強くなっていく。
「またな、ギル」
「死ぬなよ、オル」
──お互いが短く別れの挨拶を済ませた瞬間、光が一気に強く輝き、俺はギルゼルドの前から姿を消した。