パンがなければ作ればいいのよ!
パンは早くに作り始めると聞いたことがあるので、五時半には店に到着しました。若干早起きだとは思いましたがメイルさんも普通に起きていたのでセーフでしょう。
「全く、何でドレフは子供に仕事を受けさせたんだ。こっちの仕事が増えてしまうじゃないか。」
中から不機嫌な声が聞こえますが恐らく店主さんの声でしょう。まあ、仕事を受諾した人が女で、しかも年端もいかないガキだと知ったら文句も言いたくなりますよね。一応何でもこなせるレベルで英才教育を受けているのでパンを作るなんて御茶の子さいさいのさいです。
と、まあ、店先で何を言っていても始まらないので手早く入店しておきましょう。
内装は小綺麗な感じでしっかり整備されています。パンは出来た順にトレイに乗せて部屋の外側を一周ぐるりを回っている机の上に置くような方式を取っているみたいです。今はトレイと値札が並んでいるだけでパンは焼けていません。そりゃそうでしょう。開店二時間半前なので今置いていたら開店する時にはすでに冷えています。
「誰だこんな早くに。まだ開店してねえぞ。」
「すいません。昨日仕事を受けた物なのですけど、パンを焼いているところを見たくて早めに来てしまいました。」
私は申し訳なさそうにそう言います。勿論フェイクです。申し訳ないとは微塵も思っていませんし、ここに早く来た理由も熱心に頑張っていると思われるように来ただけなのです。勿論、店主さんが私の努力を認めパンを一度作っていいと許可を受けた瞬間、店の売り上げがうなぎ上りになる絶品のパンを作る所存です。お母さんの料理がどれほどの腕前かは知りませんが、今までの流れです。相当な物なのでしょう。
「ほう、子供のくせに意外と熱心じゃないか。隅にいるなら見ていてもいい。」
私はパアアッと表情を明るくします。勿論フェイクです。
「いいんですか!?お願いします!」
私はタトタトと厨房の隅に立ち、仕事を眺めます。日本式のパンの製法もこの世界式の魔法でのパンのも知っている私としてはどんな作り方でもどんと来いです。作り方はやはり魔法式で、昨日のうちに捏ねたパン生地をちぎって形を整えて、密閉した窯の中に火魔法を入れ込んで魔力を調節しながら焼きます。温度を自分の判断で的確に調整できるという利点の代わりに、焼いている間は集中しているので他の事が出来なくなるという欠点があります。
私には全く関係のない話ですが難しい人にとっては難しいものです。
店主さんは焼くのを後回しに、ちぎって形を整える、ちぎって形を整える、とずっと同じことをしています。開店直前に焼く予定なのでしょう。食べ物は鮮度が命ですからね。
ハースブレッド、ココナッツロール、ソフトロール、ダルニツキロー、デニッシュ、マフィン。主要なパンは大体揃っている感じなんですね。思ったより種類が豊富です。いや、前世の記憶辞典に全種類のレシピや成り立ちなんかが記されていたことにも驚きですが、この店のパンは私が知っているパンの製法と照らし合わせても無駄が少ないのが凄いと思います。
料理はレシピ通りにするのが一番おいしくなりますからね。料理は小さな化学です。
他にもこの国特産の素材を使った菓子パンや、レーズンパンみたいな前世でも人気のパンが売られていますが何せ種類が多いので割愛とさせてもらいます。こんな量を一々説明するのはめんどくさいですからね。ちょっと気合入れすぎですよ。
更に、私が注目しているのは『今週のパン』というコーナーです。一週間ごとに種類を変えるパンが有るらしいのですが、それには本当にびっくりしました。いくら何でもそんなに沢山種類を用意できるのでしょうか?週替わりということは一年に五十程度の種類のパンを用意しなければなりません。まあ、八種類くらい用意してくるくる回せばいいだけの話ですが、それを含めると三十以上の種類のパンを焼かないといけないです。
部屋が小さいので一つ一つ焼き方が違うパンを作ろうと思えばかなりの職人技術が必要です。一つ一つの焼き加減やその他もろもろ自分の魔法で制御しないといけませんからね。
「おい娘、何でここの仕事を請け負ったんだ?俺が言うのもアレだが、給料はそこまで高くない。広告誌を配る方がよっぽど身になるだろ。」
「お金はそこまで困ってません。今したいことはパンの勉強なんです。」
本当は丁度いい金額だったからとは勿論言いません。そりゃあ、広告誌を配った方がいい金にはなりますよ。ですがそんなにいらないんです。必要なのはメイルさんと一緒に暮らすうえでさり気無く使えるくらいの金額なんですから。
「・・・そうか。」
そしてさり気無く店主さんの好感度を稼いでおきます。このそっけない反応には最初期のデレに位置するものが含まれているんです。一日目にこの反応をいただけるのは結構いい感じです。この調子で好感度をマックスにしていきましょう。
と、いうわけでパンを焼く工程を淡々と見ています。時折ポケットからメモ帳のような何かにメモをしてみると店主さんがふっと笑うのでこれも好感度を稼いでいるのでしょう。
・・・あれ?なんか私あくどいことをしているような気がします。
まあ私の心の中だけでの出来事なので大丈夫です。周りには一切害が出ないと自負しておりますので!
話は変わりますが、先ほど私が言っていたパンの種類の話なのですが、店主さんの火魔法がとても上手だったことが判明しました。成程、これなら沢山の種類のパンにも対応できますね。火の使い方が上手です。火力型ではなく制御型の魔法使いなのでしょうね。
火力が平均よりずっと低い代わりに制御がとても上手になっているのでしょう。両方とも下手な人はごまんといるのでこの人は才能が有る部類の人なのでしょう。
すこし酷なことを言いますが私の前では魔力量や操作能力の異差は才能無しと王国魔法使いですら誤差の範疇ですからね。
何度か『疲労無視』をつかってみて分かったことですが、なぜが思考速度以外にも能力が上昇しているみたいなんです。つまり、この世界ですでに発見されている『疲労無視』とは全く違うスキルかもしれないと思っているわけです。
因みに、今スキルとして知られている『疲労無視』の効果は思考速度1.5倍です。発動条件は極度の肉体的、または精神的疲労です。
私が使っているのは思考速度1.5倍、魔力増強、後なんか増えている感じがするという感じです。発動条件は肉体、または精神的疲労が50パーセントを超えた場合です。
少し文章にしただけで何か違う感じがしますね。
取り合えず、才能値でも王国魔法使いの二倍はあるので言ってはアレだが私ってパン屋さんの比じゃない操作が上手いです。
そんなこんなで開店時間です。店主さんもパンを一通り焼き終わって店に並べています。私は接客をするのですがここで秘密兵器です。
「レオ、店の前にあらかじめ設置しておいた樽の上に待機です。人が集まってきたころを見計らって入店、そして私の頭の上に陣取ってください。」
「成程。わかった。」
秘密兵器『店先に猫』です!これでありとあらゆる人が釣れます。その猫が店員になついているのを見れば物珍しさに入店してしまうでしょう!
ということで今は普通に接客です。開店直後から人が流れ込むほど人気ではないので一人、二人という速度でお客が来ます。恐らく常連の方でしょう。店主さんと一言二言言葉を交わしているのを見るに、結構仲がいいんでしょうね。
私の事も話題に出ているようで、「あの子は?」「・・・新入りだ。」等の会話があったようです。盗み聞きは得意なんですよ。情報は命ですからね。・・・この話を聞いてたとしても命にかかわるアレコレがあるとは思えませんが。
少し作業をしていると肩を叩かれました。誰でしょうか?この辺では知り合いは数える程しかいないのでこんなところで遭遇するとは微塵も思っていませんでした。
・・・知らない人でした。振り返ってみたら知らないおっさんが立っていました。なんでしょうか・・・私何もしてませんよホントですよ?じゃない、この人は先ほど店主さんと話していた常連さんじゃないですか。
「どうなさいましたか?」
「いや、君は小さいのに偉いな、思ってね。どうして君はそんなに頑張っているのかを聞きたかったんだよ。」
言葉も交わしてないし、雇用一日目で働きぶりも全然見て無いはずなのにどの様に私の仕事を評価したのでしょうか。
「どうして、私が頑張っていると?」
「店主がね、君の事を『新入り』って言ったのを聞いたからね。彼はあまり人に心を開かなくてねえ。実際はパン屋よりいい仕事に就けたはずなんだよ。なのにパン屋とは・・・彼の趣味はわからないね。」
おじさん、話の焦点が完全にずれてますよ。
「ああ、焦点がずれてしまった。彼は心を開かないから人を見る目が厳しいんだ。昨日今日入った従業員を『小僧、小娘』呼ばわりするくらいにはね。でも君は『新入り』って呼ばれているんだよ?かなり認められている証拠だね。好感度なら50パーセントくらいかな?」
店主さんチョロッ!そしてこの常連さん好感度を教えてくれる親友ポジションのような人だ!
実際に好感度を数値化して私に言ってくるあたり結構いい人のようです。まあいい人じゃなくてもその数値を聞けるというシステムは存分に使わせてもらいます。
「私が頑張っていることは何もありませんよ。ただ、店主さんがパンを焼くのを見ていただけです。」
「パンを焼いているところを見ていた?早めにここに来たっていう事かな?でもそれだけで心を開くような男じゃなかったと思ったんだけど・・・まさかロリコン?いや待てルーデウス。彼は強面なのにパン屋だ。どんな趣味があってもおかしくない・・・。」
この人・・・ルーデウスさん?が錯乱し始めたので取り合えず外につまみ出しておきます。私の腕力でも簡単に持ち上げれます。多分五十キロ後半と言ったところでしょうか。
「おお?何で君が僕を持ち上げられるんだい?多分六十キロくらいあると思うんだけど。」
「鍛え方が違うんですよ。鍛え方が。」
その気になれば店員兼用心棒にもなれます。
「まあ、店内でおかしな行動をとって悪かった。僕はルーデウス・フォレストア。よろしく!」
「成程。貴方を尾行したらアベルさんの自宅を特定できるんですね。」
私の本音がぽろっと出たせいでルーデウスさんが驚愕の表情を浮かべます。そりゃそうでしょう。客観的に自分を見たら私って凄くやばい人ですからね。
しかしルーデウスさんは面白いものを見たとばかりに笑っています。
「ははは!僕の名前を聞いてそんな反応が返ってくるとは思っていなかったよ。アベルとはいつ知り合ったんだ?」
「つい先日、彼が糞兄に振り回されて困っていたところ、私がいろいろして解決したという流れです。」
「アバウトだけど、詳しいことはアベルに聞いておくよ。それにしても、第一王子に対して糞とは・・・なかなか度胸があるじゃないか?」
「?・・・意味が分かりませんが取り合えず失礼だったということは分かりました。」
第一王子?まあ聞き間違いでしょう。あれが王子だったらこの国終わりますよ。主に飢饉とかそっち系の不幸で。
「ですが、正直言ってあの人は尊敬に値しませんね。見た感じ貴女は彼の父親のようですが、あなたの悪い所を全て受け継いだような感じでしたよ。アベルさんは嗜好ですが。」
「君は素直過ぎると思うよ。」
素直なのは美徳だと思いますよ?まあ、この世界では正直なこと言うだけで処刑とか磔刑とかなっちゃいますから怖いですね。
「大丈夫です。国とか敵に回しても逃げ切れる自信はあるので。」
「・・・ほう?つまりこの国の兵力は君に及ばないという事かい?」
何か迫力のある発言をしてきます。そう言えばアベルさんはお金持ちっぽかったので国の運営にかかわっているのかもしれません。そんな人の前で『この国の兵からは逃げ切れるわ~~』とか言ってたら怒られますよね。
「いえ、この国の戦闘スタイルは籠城と遠距離魔法のコンボですからね。逃げる相手には向かない戦闘スタイルなんですよ。」
そこまで言うとルーデウスさんは驚いたような表情を作り、少しした後ゆっくりこちらに顔を向け、ニッコリと笑いかけてきました。
「いやあ凄いね。言われるまで気が付かなかった。確かに籠城と遠距離魔法に力が入ってるね。基本は全部均等に育てているつもりだったけど・・・君はかなりの観察眼を持ってるみたいだね。」
「え?この国を見たらぱっと見で分かりませんか?」
あ・・・そう言えば私ってそんじょそこらの貴族よりよっぽど英才教育を受けていましたね・・・。普通はわからない事なんでしょう。失言失言。
「あ、今の発言なしです。実はとっても偉い人が教えてくれたんです。」
「ごまかせないよ?」
ルーデウスさんがかなり疑ってかかってきます。そんなに不自然なことは言っていないはずです。すぐに訂正したので次の発言が嘘だと思う要素は無いはずです。
「君は顔に出やすいよ。今も『何でばれた!?』って顔をしてるし。」
む?やはり私は顔に出やすいのでしょうか?いろんな人に言われますね。ですが一向にポーカーフェイスが身に付きません。
「取り合えず、今度尾行するのでまた店に来てくださいね!」
「尾行しなくても家くらい教えるよ・・・。」
意外ですね・・・いや、日本人みたいにプライバシー死んでも守るマンじゃないって事ですかね。緩いです。流石異世界。ミフィアとしては『異』世界ではないのですが知識の源としてはここは異世界なのでそう言っておきます。
「客だ。早く来い。」
「分かりましたー!!それでは!またのご来店、お待ちしてます!」
ルーデウスさんにはお別れを告げといて、また業務に戻ります。さあ、接客頑張りましょう!
お昼頃になりました。相変わらず人はあまりいませんが、店先に人が集まり始めています。勿論レオ効果です。
「猫がいるよ!可愛い!!」
「撫でても大丈夫かな?」
「ねえ見て見て!この子全然動かないよ!撫でても大丈夫みたい!」
人気ですねえ。まあ、小動物は人の心をつかむのが得意な生き物ですからね。勿論私も例外ではありません。レオに興味を持った人が多くなってきた、基、私がレオと一緒に居たいのでレオに帰ってきてと合図を送ります。
右手で右の頬を触ります。レオは合図を読み取り、私の下へ移動します。レオは店前の樽からぴょんっと飛び降り、器用に扉を開けます。チリンチリン。
「あ、レオ居たんですね!」
白々しくそんなセリフを口にしておきます。最初から作戦の内だったとは言えませんしね。
レオはそのまま店内を歩き、私の近くでジャンプし、肩に着地した後にするりと頭の上に登り、陣取ります。レオにはそのまま寝ていてくださいと言っているので指示通り寝ます。そうしたらこの猫は私にとてもなついているということが見ている人に分かることでしょう。
しかもレオは私の上で寝ています。寝顔を拝みたい奴は入店するしかあるまいっ!
「すいませーん。その猫の飼い主って貴女ですか?」
チリンチリンという音と共に数人の子供、そしてその親が入ってきました。しめしめ、予想通りです。入店させたらあとはこっちのもの。少し話していればこのパンの素晴らしさが分かるであろう。
「そうですけど・・・この子が何かしましたか?」
「いえ、そうではないんですけど・・・触っても大丈夫ですか?」
親と思われる女性が申し訳なさそうにそう聞いてきます。まあ、野良猫と思ってずっともふもふしていた猫が実は飼い猫だったと知れば申し訳なくはなりますよね。
「この子が嫌がらない程度なら大丈夫ですよ。」
営業スマイルで答えておきます。やっぱりその方が客から好印象がもらえますからね。その言葉を聞いて子供たち、と言っても中には私より歳が上の人も居るので私から見たら同年代ですかね、が笑顔で走ってきます。
「店内は走らないでくださいね。あと、他のお客さんの邪魔にならないようにお願いします。」
別段変なことは言ったつもりは無かったんですが、子供たちの親が驚きの表情を浮かべます。なんでしょうか?この世界、いやこの国では店内でも騒いでいいということでしょうか?
「貴女、まさか店番やってるの?この年で?凄いわねぇ・・・。」
・・・そう言えば私って結構年齢が低かったですね。店番とは若干違うのですが店員とみられていなかったのが少し残念です。でも、私が接客しているところを見てないってことは無いですよね?だってずっと店先に居ましたよね?
「それはそうとこのパン屋さん、結構種類有るわね。美味しそうなものがいくつかあるわ。試しに買ってみようかしら。」
お、やっぱりそうなりますよね。入店しないとパンの種類とか分かりませんからね。そりゃあこの量のパンを見たら美味しそうなパンの一つや二つ、見つかりますよ。
私はただ入店させればいいだけです。
「良かったら値引きしますよ。」
「え?いいの?」
まあ、そうなるでしょうね。一店員がそんなこと言う権利があるとは思わないのでしょう。
「大丈夫ですよ。その代わり、美味しかったら今後も御贔屓にお願いしますね。」
満面の笑みでそう答えます。一回目はお試しで安めに購入してもらって気に入ってもらえたら次は適正価格で。確実に胃袋をつかめる自信があるので
「まあ・・・商売上手ねえ。何処でそんなこと習ったの?店主さんから?」
「俺はそんな手法教えてねえぞ。随分客引きが上手いじゃねえか。何でお前みたいな奴がうちの仕事取ったんだか・・・」
店主さんは一瞬で否定しに来ました。今も続々とパンを焼き続けているはずなのですが何でわざわざこっちの話に返事したのでしょうか?
もしかしてですが・・・自分の手柄じゃないことを自分の功績のように思われたくないって事でしょうか?普通に聞き流しといて自分の功績にしていればよかったのですが・・・。私は目立ちたくないので全て店主さんの策略という設定にしますが。
「照れ屋さんなんです。これも全部店主さんのおかげですよ。」
こそっと耳打ちをした後に接客に戻ります。このせいで若干店主さんのヘイトが溜まりましたがすぐに好感度を稼ぎなおしたのでプラマイゼロです。
結果発表。猫と初回割引の効果で売れたパンは五倍、売り上げは四倍ほどになりました。一日目としてはかなりの成果ではないのでしょうか?ここからブームを呼べればいいのですが。
ですが、店主さんのパンの生成速度を考慮すると私が来る前の三十倍が限度でしょうか。私も参戦して工程を省略化、私も焼く係をするなら三百倍まで効率を上げることができますが。
「おい、思ったよりやるじゃねえか。」
店主さんもそう言ってくれます。いつものように仏頂面なのですが、立ち去るときフッと笑ったのを私は見逃してませんよ。
「ありがとうございます!」
ルーデウスさんが言っていたことを信用するとお昼時には好感度が五十パーセントほどらしいので初期値が幾らか知りませんが、仮に二十パーセントだとすると今の好感度は八十パーセント前後になりますね。一日で六十パーセント。つまり二日目にはカンストしてしまいます。流石店主さんチョロい。
好感度をカンストさせた店主さんが何をするのから明日考えるとして今日はもう帰りましょう。勤務時間を三時間オーバーしてしまったので流石にこれ以上いると迷惑だと思った私の配慮です。まあ、二時間半は早く出勤したせいなんですけどね。残業は実質三十分だけです。
ということで楽しいお店屋さんごっこに満足して帰宅です。
「お帰りなさい。」
「ただいま帰りました!」
メイルさんが何かを食べながらこちらに返事します。何を食べているのでしょうか?
すたすたとメイルさんの所まで歩くと目に映ったのはパンでした。私の勤め先の。
「メイルさん、今日入店しましたっけ?」
「別ルートです。」
「でもこのパンはあの店でしか売ってないはず」
「別ルートです。」
別ルートのようでした。