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ユレイユ書店の歴史の書  作者: 榮 裕也
一章 ミフィア・フィーシル
5/28

おかん少女と睡眠薬

「さあ、どんどん食べちゃってください!!疲れてたら明日からの帰路に耐えられませんよ!!」


現在、私が新たに作った五個目の体育館は食堂になっている。材料は何でもいいので陽子、中性子、電子までバラバラにした後、組みなおして擬似食品をを作っています。これも偏に前世の記憶が豚肉の成分とかその原子記号とか原子の作りとかいろいろ無駄な知識を持っていたおかげである。最悪、石からパンを作ったり、水からワインを作ることも出来ます。・・・あれ私ってなんてキリスト?


「おばちゃんお替り!!」


「おかんお替り!!」


私は『おばちゃん』か『おかん』と呼べと言っています。本当は『給食のおばちゃん』と言われたんですが皆さん『給食』を知らないようなので給食が抜けてただのおばちゃんかおかんになっています。八歳におばちゃんとかおかんとか言っている人たちの内心考えないでおこうとおもいます。なんか最初の方が複雑な表情をしていたけど途中からノリノリで呼んでくれています。理由は主に酒だったり。


ただ日本酒とかウォッカとかは成分を知らないので、ワインとかしか作れないのが玉に瑕な感じです。やっぱりそこ関連で調べ始めたんでしょうか?はた迷惑な物です。まあ、記憶容量が圧迫されていないのであんまりとやかく言うのも何か違う気がしますが。実害と言えば生き方に知識の隠蔽という重荷が追加されたくらいで別に負担なんて感じていませんし。感じていませんし。そうです気にしてません。


そう考えながらですがちゃんと給仕はこなします。女が私一人なので一人で給仕しています。アーレフトさん・・・十二連剣技の方が手伝うと言ってくれましたが台所は乙女の戦場なので男性を上げるわけにはいきません。男女平等という単語が無いこの大陸ではこの思考に口を挟む者はあまりいません。日本だったら普通に口を出してきますからね。男女平等を盾にとって自分のいい方に解釈していく日本人大っ嫌い。そうでない人は沢山いますけど私の周りには『ゴミ』と『カス』くらいしかいませんでしたからね。日本人は温厚で気遣い上手なんて私の中では完全に迷信の領域ですよもう。日本国憲法には穴が多すぎて信用に足りません。まあ警察の眼すら節穴なんですが。あ、勿論私周りの人物に限っての話ですよ?別に警察全てを批判しているわけではありませんよ?


「はいオムライスお待ち!てっぺんに旗はいりますか?もう刺しましたけど。」


「おいおい嬢ちゃ・・・おばちゃん。俺も子供じゃないんだぜ?子供だましの国旗をつけられても・・・って精巧に作り過ぎだろ!なんだよコレ、持ち手の部分がなんか純金に近い金色の柔らかい鉱石な上に細工が国宝レベル・・・売っていいかいお嬢・・・おばちゃん。ざっと百万にはなるよ。利益の九割は返すから。」


「はいはい。旗はどうでもいいので冷めないうちに食べてくださいねー。」


「いやいや、何言ってるんだ!じゃあくれるって事か?そうなのか?」


わざわざこの旗が欲しいがためにオムライスを頼む人が増えて来たので旗を刺すのを止めようかなと検討しているミフィアです。いや、原子から精製した八十二金でほぼほぼ金だけです。魔法で生成したから細工も私が思い描ける範疇なら自由自在です。


売ったら百万を超える細工なんて施していませんよ。魔法に優れた人がしたら誰でもこれくらい・・・いえ、原子の作りなんて技術大陸に行かなければ知りえないと思うので、金の質くらいは私の方が高いかもしれません。まあ、その程度でしょう。・・・その程度ですよね?


私ってなんかお父様やお母様に嘘の常識を叩き込まれた気がするんです。以上に強いんです私。魔獣とかに会わないだろうということで魔獣の強さはそのまま教えてくれたらしいんですがそれと私の強さがかみ合いません。料理だって異常に好評ですし失神する人も出ています。・・・戦場で美味しいご飯が食べれたことによる嬉しさからの失神だと結論付けておきますが。絶対そうです反論は認めません。

仮に私の料理が異常に美味しすぎたとしても剣術や魔術のように強すぎて厄介ごとを運んで来るわけではないのでこればっかりは隠さなくても大丈夫でしょう。


そんなこんなで給仕しているといつの間にか夜九時を回っていました。いえ、給仕に没頭していたわけではないんです。皆さんが沢山食べているのを見ているとなんだかもっと作ろうって思えるんですよ。それで最初の目的だった睡眠薬を盛ることを忘れていたんです。だから巻き返すようにガンガン作ってガンガン薬盛ってみんなが眠る頃には九時だったんです。


皆さんが眠ったことは確認したので私も寝ましょうか。


「少し話をしたいんだが、いいかな?」


するとビックリ、アーレフトさんがまだ起きているではありませんか。


「君は寝なくていいのかい?みんな、寝ているよ?いや、君が寝かしつけたといっていいかもしれないけどね。」


「気が付いていたんですか。私が眠り薬を盛っていたのに止めなかったんですか?」


「君は言ったじゃないか。『あとで記憶から消させてもらいますね』って。君はあの卓越した大魔法を使ったことも隠したかったように見えるし、ここにいる皆の記憶を消すのが妥当だと思ったんだ。助けてもらったんだし恩を仇で返すような真似はしないよ。」


そうですか・・・なんとも紳士的な方ですね。スポーツマンシップに則っている気がします。

ですがまあ、よくこの判断を下せましたね。自分の力に己惚れて私の力を自分の物にしようと画策するのが世の常だと思っていたのですが。


でも私は負けませんしこの人の心中がどうだろうと結果は同じと思いますが。・・・いえ、これも己惚れかもしれません。お父様やお母様は信用ならないので自分の中の常識をまた一から作らないといけません。もしかしたらレオは二級から準一級程度の強さだったという可能性も無きにしも非ずですからね。何故こんなところで常識の壁とぶち当たらないといけないんでしょうか。


そうです。いつかお父様とお母様とお兄様とお姉様を生き返らせてDO☆GE☆ZAさせてあげます。わざわざ手の込んだいたずらをするなんてやめてくださいよ。皆大人なんですから。


実際、生き返らせることは出来るかもしれません。人間は魂、精神、肉体の三つがあって、今は魂と精神を確保できています。どうやってかというと重力魔法です。重力魔法は重力を操るんじゃなくて、空間をいじる魔法と言い換えることも出来ますしね。・・・何気にこの魔法は王宮で活躍できるレベルの魔法なんですよね。原理さえ分かっていれば結構簡単なんですが。


「それはとても嬉しいです。ついでにアーレフトさんも眠ってイタダケマセンカ?」


「あはは、最後の方が片言になってて脅しに聞こえるよ。君と殺り合っても勝てる気がしないからね。」


それは見当違いではないのですか?少なくとも今の状態でアーレフトさんと同じくらいの剣技連撃数しか出ませんし、魔力も『体育館』を五個も作ったので枯渇気味です。


「ああ、違う違う。君『だけ』なら今戦えば倒せなくもない。勿論、君が残りの魔力を振り絞って逃げたら無理だけどね。あくまで『戦った場合』の話。・・・でも、今は強力な保護者がついているからね。」


アーレフトさんは読心者だった!まさか表情で全てを察することが出来るなんて。ポーカーフェイス、ポーカーフェイス・・・あれ?デジャヴな気が・・・?


「我の存在に気づくとは。使い慣れていない術とは言え、看破するのは容易では無かったなずなのだがな。」


「あ、レオさんですか!寝なくていいんですか?私が言うのもアレですけど結構な傷だったはずですよ?」


「レオでいい。家族と思ってくれていいと言ったはずだ。気が紛れるとは思っていないが形から入るのは大事だと思うぞ。」


「いいねえ、家族ってのは。さっきまで殺し合ってた仲とは思えないよ。」


レオがここに顔を出すとは思ってもいませんでした。むふふー。心配してくれたんでしょうか?テイムのせいなのかレオが割り切っているのか分かりませんがとっても気遣ってくれます。さっきまで殺し合っていたんですけどねー。


「我は自分より強い者には敬意を持って接するのだ。勿論、お前は強い。だがミフィアよりは弱い。そこがお前とミフィアへの対応の違いだ。・・・しかし、ミフィアにここまで興味が湧くのにはまた別に理由があるがな。」


「ふうん?別の理由・・・ああ、魂が複数個肉体に宿ってることについてか。」


「いや・・・そうじゃない。我が気になるのはその魂の・・・紫の魂と黒の魂について・・・」


魂が複数個ですか。確か戦っている途中にもそんなこと言ってましたね。私、前世の私、もう一人の私オフ・フェイス、そして謎の私。気になっているのはもう一人の私オフ・フェイスと謎の私の二つの人格ですか。ちょっと初期設定にしては内容が複雑ですね・・・。物語が進行するにつれて追加していけばいいものを。


「私を抜かして難しい話を始めないでくださいよ。魂が三個四個あるくらいで深刻にならないでください。これくらいの秘密は誰だって持ってるはずです。故に私は普通。」


「いやあ、君が普通なわけないじゃないか。・・・ん?君が自分の強さを隠すのは『普通』で居たいからかい?別にそれだけの強さがあったら多少の面倒ごともその強さで払えるんじゃないのか?」


「・・・・知ってますか?どれだけ強かったとしても圧倒的な力にねじ伏せられたらそこで終わりなんですよ。例えば飛来する巨大な鉄塊とか。」


そう。視認できても恐怖で体が動かないこともあります。人生は呆気なく終わるのが世の常なのでしょう。前世の私がそうだったように。私がこの世界でどの程度強いのか分かりませんが、慢心して死にたくありません。死んで大切なものを失うのは御免ですからね。by前世の私の知識。


・・・前世の知識を引用するだけで途端にシリアスになりますね。この張り詰めた空気はどうしたらいいんですか。


「まあ、気にしないでください。取り合えず神様を倒せるくらいになったら威張りますので。」


「神・・・?ミフィアは神を打倒したいのか?それならもう出来ると思うが。というかもう・・・いや我はあまり口出ししないでおこう。取り合えず、ミフィアの強さは一線級だと明言しておこう。」


「僕もそう思うよ。強いて言うなら全能列強にランクイン出来るくらいの強さは持っていると思う。」


全能列強?・・・ああ、純粋な強さの世界順位ですか。確かお父様にこの十人の名前は憶えとけと言われたくらいですからね。


十位 オルドゾ・ファングディア

九位 バルテス

八位 シーランス・レア

七位 ルーク・イースト・フレグモーネ

六位 バレッド・べトライト

五位 ダンディア

四位 サンスレット・スクウェア・ロード

三位 メンディス・ドランバルト

二位 ネメシス・ファンド

一位 ユレイユ・B・N・エデン・シィキア


因みに、ユレイユさんは学園の創始者の名前です。サンスレットさんが特待生の紙を私に渡すことができたのは偏にコネのおかげだと思いますが。

いえ、私何気にやばい人と話していたんですね。逆鱗に触れたら消し炭になるところでしたよ。まあ、私が知っている中でも一位二位を争うくらい優しい人でしたけど。ああいう人は自分の大切な人を傷つけられない限りそうそう怒らないと思いますけど。


因みに、列強の順位は無駄に千位まであったりする。ただ、千位の人でも王国騎士長を百人抜き出来るほど強いので馬鹿にはできません。


「今見てみるからね。順位は・・・・一個変動しているみたいだね。三百位後半に『サヱ・シィキア』がランクインしているよ。多分、一位のユレイユの家族かな。」


サヱ・・・?待ってください。サヱ・シィキア?ユレイユ・シィキア?聞き覚えがあります。とても・・・懐かしい感じがする名前です。ユレイユの時はアレ?くらいでしたが確信に変わりました。ですが、答えに至る情報がありません・・・。


「君の名前は無いみたいだね。意外だよ。君より強いのがあと千人はいると思うとゾッとするよ。因みに、僕は圏外だ。」


まあ列強に入っていれば超級なら何とか打破できたかもしれません。ですが流石に魔力を取り込んだ超級魔獣や絶級魔獣とは戦いにもならないでしょう。それを倒したいなら列強を五人ほど用意してもらわねば。


ん?私は一人でその超級炎魔獣を撃退したじゃないかって?・・・多分レオは弱い方だったのでしょう。魔獣や列強に名を刻んでいて、且つ自分より強い人と戦って勝つと順位が上がるんです。ならレオは弱かったと言えます。例え私の攻撃力が二百万まで上昇していたのに動きにある程度ついて行けたとしても。


「私はまだその領域には到達出来ていません。っていうことですね。百位以内に入ると絶級魔獣をも倒せると聞きますし、私の名前が百位圏内に入った時が実力を偽るのを止める時になりそうです。」


「じゃあ、その時は削除した記憶をもう一度蘇らせてくれるかい?」


「嫌です。貴方多分めんどくさい性格でしょうし、後から何を言われるか分かったものではありません。」


「・・・今僕と話しているのは記憶を消して何も無かった事にする前提での会話なのかい?」


ええ、まあ。だって私聖人じゃありませんし。めんどくさそうな人とか事件は避けて通りますよ。ローリスクノーリターンとか何が楽しくてするんですか。時間の無駄ですよ。人生は有限ですし春は人生で八十六回しか回ってきません。ちゃんとその時その時を楽しまないと人生損します。


「私はレオと一緒に家族と暮らすのが夢なんです。その為の努力とかはおろそかにしませんが面倒なことは一切合切遠慮します。だってアーレフトさん、なんか地位の高い人で息子との縁談とか持ってきそうな雰囲気を醸し出していますよ。」


「あはは・・・否定できないね。まあ、持っていく縁談は息子のじゃなくて僕の縁談だけどね。」


「求婚は他でやってくれ。ミフィアはまだ子供だ。お主はろりこんと糾弾されても痛くも痒くもないだろうが我はミフィアをろりこんの妻にしたくない。」


「そこまで言ってくれるなんて嬉しいです!!レオ大好き!」


「おい、あまりくっつくな。・・・少しだけだからな。」


レオはツンデレなんですね!最初は抵抗しますけどすぐにしなくなります。形だけの抵抗なんでしょうね。全長が七メートル前後あって抱き着くのも簡単じゃないんですが、しやすいように体を伏せて座っています。不自然な座り方になっているのに気付いているのでしょうか?私としてはレオの心情が簡単に読めて嬉しい限りです。私に心を許してくれているように見えます。


「じゃあこうしよう。私があなたの記憶操作に対抗レジストできたら、その時は考えてくれますか?」


むう、しつこい人ですね。一々こんな話されたらめんどくさいです。なればこうするしかありません。


「私たちは明日早朝にここを離れます。記憶操作をかければあなたは皆を救ったヒーローになれるでしょう。それが嘘だと自分で気付けた時は・・・まあ、考えてみようと思います。」


「わかりました。マイフィアンセ、必ずお迎えにいきブベェッ」


鈍器でフルスイングしてやったので朝までは起きないでしょう。記憶も操作しますし完全犯罪ですね。


「ミフィアよ・・・物理はあまり感心できないな。」


「レオだってついさっきまで『戦いこそすべて』みたいな感じだったじゃないですか。」


「我の本懐は全うされた。後はミフィアが好きなようにするがいい。煮るなり焼くなり、な。」


魔獣としての本懐を全う出来たから理性を押さえつける本能が薄れたのでしょうか。それなら私と戦うまでの本能で動くような姿勢と今の理性で動く姿勢の辻褄合わせが出来ます。まあ、私は煮もしませんし焼きもしませんが。


「私はレオをもふもふ出来ればそれで充分ですよーっ。」


ぎゅううう、と締め付けます。レオは困った顔はしますが嫌な顔はしません。嬉しい限りです。こんな風に信愛を向ける相手と巡り会えたのはとても幸運なことなんでしょう。具体的に言えば宝くじを当てるくらいの幸運でしょうか。


何はともあれ面倒事の塊たるアーレフトさんは退場してもらいましたし、今日はもう寝ましょう。


「レオ・・・明日までこうしているので振り落とさないでくださいね。」


「こんなところで寝ると風邪をひくぞ。・・・おい聞いているのか?」


「ふああ・・・レオはあったかいですぅ・・・・。」




004.9


「はあ・・・なんで私がクラスを一つ担当しないといけないのでしょうか。そんなに仕事が増えたらあの人に会いに行けなくなります。」


見た目十四歳前後の少女はそんな愚痴をこぼす。それもそうだ。彼女は仕事量が少なくていいならこの学校の教師をすると学園長に言ったのだ。残業までして未来の英雄を育てたいとかそういう心構えは無い。


「早く会いたいですね・・・休みは明後日ですから明日も頑張らなくては。」


彼女はメイル・ホワイト・シンフォル。全能列強第二百七位。この国の魔法使いの中で上位六名に入る強者だ。因みに年齢は二百五十とちょい。


「理不尽な物ですねえ。あの勘違い学園長はどうにかならないものでしょうか・・・。」


彼女は学園長に脅されている。別に暴力ではない。権力を使ったパワハラだ。お前担任しないならクビな、と言われている。学園長の名前はユレイユ・シィキア。小太りの男で、魔力が異常なほどに高く、基本固定砲台となって戦う。しかし、勲章は色々有るものの戦ったところを見た物は一人もいない。その強さの証明は現地の被害から察するしか出来ないのだ。しかも、大魔法である『列強表示石板』にきっちり名前を刻んでいるところを見るとその強さは嘘とは思えない。


だが、メイルは知っている。今学園長の椅子に座っている男が本物の『ユレイユ』ではないことを。ユレイユは数十年前からいくつかの施設を建設しており、そのすべてを無償で利用させているのだ。この教育機関も然り。今までは無償で高度な授業を受けれるこの学校は『空席の学園長』が当たり前だったのだ。数年前にユレイユを名乗る男が金を取ると言い始めるまでは。


ユレイユは姿を現さない。尻尾をつかませない。これがユレイユのスタンスだったはずだ。明らかに金に目のくらんだニセモノだ。だが、戦闘スキルだけはかなりの腕前で、本気で戦ったら殺すのに五分ほど掛かってしまう。本当に、無駄な才能だ。


あれくらいの強さなら列強の九百番台前半・・・バレフ・ネ―ブリスくらいの実力だろう。


確かにこの国では一位二位を争うくらい強い。だが、その彼だって全世界単位で順位分けしたら九百位前半なのだ。世界は広い、というものである。


まあ、その『この国』のランキングには入っていない。生まれは妖術大陸だし、今の拠点・・・というか夫とのマイホームは浮遊大陸に構えている。


「はあ・・・帰りたい、帰りたい・・・レット、もっと私を癒しに来てくださいよ・・・」


実際は週一で来たりしているが、メイルはそれでは足りないと感じている。結婚して二十年は経っているのにまだ熱々な夫婦なのだ。


「癒しに来たぞー。具体的に何をしたらいいかリクエストを、どうぞ。」


「膝枕を・・・わふ。」


メイルと以心伝心しているレット・・・サンスレット・ロードは転移魔法で到着した瞬間からさっさとイチャイチャしている。レットはメイルの隣に座り、強引に頭を自分の膝の上に乗せた。メイルはいつもの仏頂面を破顔させてニコニコにまにましている。


「レット、もっと来ていいんですよ?私が寂しいとかじゃないですけど、もっと来ていいんですよ?なんかクラス担任も任されて時間に余裕がなくなってきたんです。何か手を打ってください・・・。」


「ああ、もう打ったぞ。俺はちょっと学園に入学したわ。勿論、メイルが担任をしているクラスの、な。」


「今すぐ退学ですおめでとうございます。」


「いやいや、遊びで入学したんじゃないよ?」


「レットにとってあのカリキュラムなんて遊び以外の何物でもないでしょう。」


それもそうだ。あの学校の授業カリキュラムは全てレットが組んだものだ。魔術然り、剣術然り。浮遊大陸でも同じようなカリキュラムを組んでいるが、あの大陸では妖術、技術、呪術も学べるようになっている。強くなっておけばそれに越したことのないという精神である。魔術があれば魔法が打てるが魔力が尽きれば打てなくなる。


そこに呪術を覚えれば地の力を使って儀式が、技術を覚えれば物資を使って兵器が、妖術を覚えたら生命力を使って妖怪に変化することができる。


何事も持っているだけで危機を回避できる確率は高くなるというものだ。


「いやまあ、実はこの学校結構腐っちゃったから立て直そうと思ってな。学園長が見下してぼろが出やすくするために一生徒として会おうと思うんだよ。そこでメイルが担任にさせられるって聞いたからそこに滑り込んだんだよ。」


「本音は?」


「メイルが担任になるって話を聞いたからついでに学校改正しようかなと。」


レットにとってはこの学校の改正など所詮ついでなのだ。凄まじき夫婦愛。


「はあ、もう、自分が世界最強だからって何をしても許されるわけじゃないんですよ。」


「ああ、ちゃんと偽装して入学したから。俺はライズ。ただの農民で若干才能が有ります的な。」


「偽装したら何でも許されると思ったら大間違いです。」


もうどうにでもしてください。ライズ君。とメイルは投げやりに言う。彼の適当さ加減は今始まったことではない。いつも通りである。


ただ、彼も考え無しではない。アホな遊びに興じている割に色々考えがあっての行動なのだ。勿論、楽しいからという理由が九割だが。



「じゃあ、一学期から六年間、楽しいゲームをしようか。」

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