三王子の憂鬱
俺ことルーデウス・フォレストアは困っている。
息子三人の様子がおかしくなっているのだ。
フレデリックは自分の身嗜みや国へ対する考え方が変わっていっている。どうすれば女性の気を引けるのかを熱心に研究している姿を見てしまった。国のことに熱心になったのは恐らく好きな人がいるこの国を出来るだけいい国にしたいからなのだろう。
つまりフレデリックは今、恋をしている。
相手はまだ調べていないが根がアホな息子だ。すぐにボロを出すだろう。今日も今日とて色々な案を出しては消し、出しては消し、国がよりよくなる方法を考えている。しかしあれでも天才肌なのだろう。幾つかなるほどと思える案を出してくるのが怖いところだ。
俺ことルーデウス・フォレストアは困っている。
息子三人の様子がおかしくなっているのだ。
アーレフトは遠征から帰ってきてからずっと魔術や妖術、呪術や技術について調べている。今まで剣しか興味がないと言っても過言ではなく、剣を握れば誰よりも強かったアーレフトが帰ってきてからそれ以外に手を出し始めたのだ。
本人は遠征中に『負けた』と言っていた。
何に、どうやって負けたかなん聞いてはいない。だが、息子が負けたと端的に言うのなら剣の事だろう。その相手は女性で剣がとても強く、魔法も王国では右に出る者がいないと言って差し支えない程素晴らしかったらしい。更に、その女性はアーレフトに記憶の蓋をし、
私の正体が分かったら求婚してもいいと言ったらしい。
アーレフトは記憶の蓋を開けるためにありとあらゆる記憶に関する知識を吸収しているのだ。
つまりアーレフトは恋をしている。
この場合、アーレフトの好きな奴は舞姫で間違いないだろう。
俺ことルーデウス・フォレストアは困っている。
息子三人の様子がおかしくなっているのだ。
末っ子の我儘王子アベルがフレデリックとの遠征を終えて、大人びて帰ってきたのだ。
この国の現状を把握するために真剣に、八歳とは思えない速度で学習している。科目は全て。出来るところには全て手を出し、何でもそつなくこなす冷静沈着な王子になったのだ。
現状で誰を王に据えたいかを聞かれたら間違いなくアベルを押すだろう。あいつは恐らく天才だ。何にも興味を持ち、真剣に取り組むという条件を満たせば恐らく何でもできてしまうのだろう。
いつも丁寧な敬語で喋るくせに、たった一人との会話になると明らかに口調が崩れるのだ。
つまりアベルは恋をしている。
その人物は同級生で、最近人気のパン屋でアルバイトをしているミフィアだ。しかもとある筋の情報で彼女は『舞姫』『天才魔法工学士』『失踪公爵令嬢』『負神』であることが分かっている。ということはアベルとアーレフトは同じ人物に好意を抱いているのだ。
不安になった私は現在、そのパン屋に来ている。
変な魔法でも使われてこの国に取り入られたら堪ったものじゃない。確かに公爵令嬢だったのかもしれないが今はただの平民。理由があるのは察するが今の状態で、のし上がろうとする願望を持って息子たちに近づいているとなればまずいのだ。
そういうのに引っ掛かってしまえばそれからも同じような方法で付け込まれてしまう。それをダシに貴族たちから笑われて王の権威も落ちるだろう。どんな人物像かをきっちり把握し、ダメなら息子たちに真実を伝えなければならない。
私のスキル『時間逆行』を使い、魔獣騒動が始まる前に時間を戻す。時間指定の三十分だけだがこれがあれば追体験のような行為を行えるし最悪死んでも何の障害もなく現在に戻ってこれる。
まだ何も始まっていない時間。ミフィアを調べるにあたって魔獣を倒してレベルが上がっていないこの時間が一番安全であり、仮に既に対応できなくて殺されてもこっちに被害は零だ。
若干痛い思いをしないといけなくなるがそれで国の危機を回避できるのなら安い物だろう。
少し作業をしているようだから肩を軽く叩いてこちらを振り向かせる。
「どうなさいましたか?」
今のところ、何か行動をとる素振りは無い。ただ単に疑問を口に出しているだけなのだとすぐに察することが出来る。
「いや、君は小さいのに偉いな、思ってね。どうして君はそんなに頑張っているのかを聞きたかったんだよ。」
「どうして、私が頑張っていると?」
「店主がね、君の事を『新入り』って言ったのを聞いたからね。彼はあまり人に心を開かなくてねえ。実際はパン屋よりいい仕事に就けたはずなんだよ。なのにパン屋とは・・・彼の趣味はわからないね。」
そう。ここの店主は『魔術士団団長』のアンダーなのだ。彼はあまり愛想が良くなく、彼の才能である高度な魔術操作技術を持って沢山の種類のパンを一人で焼き上げているがそもそも店に入ってきてくれないのだ。
「ああ、焦点がずれてしまった。彼は心を開かないから人を見る目が厳しいんだ。昨日今日入った従業員を『小僧、小娘』呼ばわりするくらいにはね。でも君は『新入り』って呼ばれているんだよ?かなり認められている証拠だね。好感度なら50パーセントくらいかな?」
ちょっと盛って言ってみる。確かに常連のヤツと話すくらいの心の開き方をしているがそれでも二十パーセントほどだろう。まあ、俺も限界を見たわけではなく、目測と偏見によるものだと先に言っておく。
これで反応すればこの子は読心系の能力を使って息子たちに取り入っているということになる。幾つか候補があったけど最有力はそれだろう。反応をうかがっていると本人は心底嬉しそうに破顔し、素直に喜んでいる。読心系の能力は持っていないのか。
「私が頑張っていることは何もありませんよ。ただ、店主さんがパンを焼くのを見ていただけです。」
は?
「パンを焼いているところを見ていた?早めにここに来たっていう事かな?でもそれだけで心を開くような男じゃなかったと思ったんだけど・・・まさかロリコン?いや待てルーデウス。彼は強面なのにパン屋だ。どんな趣味があってもおかしくない・・・。」
やばいやばい・・・まさかパン屋になったのは子供と触れ合うため?いやしかしアンダーが子供と話しているのを見たことがない・・・まさか!我慢していたというのか!子供を愛でたいが、それを我慢し過ぎたせいで爆発し、今に至るというわけかああああ!!
「おお?何で君が僕を持ち上げられるんだい?多分六十キロくらいあると思うんだけど。」
「鍛え方が違うんですよ。鍛え方が。」
小さい女の子に持ち上げられた。・・・もしかして身体能力上昇系の魔法か?ということはアンダーはこの子の能力を見込んでここでパン屋をやっているのか!たかがパンと侮ってはいけない。パンを焼く時、それ専用の危惧を使わなければ繊細な魔力コントロールが必要だから魔法の練習には最適ともいえる。
ふう。友人のロリコン疑惑が解消できた。
「まあ、店内でおかしな行動をとって悪かった。僕はルーデウス・フォレストア。よろしく!」
「成程。貴方を尾行したらアベルさんの自宅を特定できるんですね。」
なんと!?舞姫の件と言い魔法工学士の件と言い、この子はすぐにボロを出していたがまさかここまで簡単にボロが出るとは!
「ははは!僕の名前を聞いてそんな反応が返ってくるとは思っていなかったよ。アベルとはいつ知り合ったんだ?」
「つい先日、彼が糞兄に振り回されて困っていたところ、私がいろいろして解決したという流れです。」
糞兄?それはまさかフレデリックの事を言ってるのかな・・・?ということはフレデリックを狙っているわけではないと・・・アーレフトとアベルが狙われていることには変わりないと言えるが。
「アバウトだけど、詳しいことはアベルに聞いておくよ。それにしても、第一王子に対して糞とは・・・なかなか度胸があるじゃないか?」
「?・・・意味が分かりませんが取り合えず失礼だったということは分かりました。」
え?まさか王子だということに気付いていないというのか?・・・そういえばアベルは自分の身分をひけらかすような子では無い。というかそんな感じじゃなくなった。
「ですが、正直言ってあの人は尊敬に値しませんね。見た感じ貴女は彼の父親のようですが、あなたの悪い所を全て受け継いだような感じでしたよ。アベルさんは嗜好ですが。」
「君は素直過ぎると思うよ。」
まだただの友達だと思っているからこそ言えるものだが、アベルやフレデリックが王族だと知ったらどうなることやら・・・取り合えずすぐに謝りに来るだろう。
「大丈夫です。国とか敵に回しても逃げ切れる自信はあるので。」
・・・ここで国の話になるのか?
「・・・ほう?つまりこの国の兵力は君に及ばないという事かい?」
自慢ではないが、今現在、魔術士団団長がいないから防衛力が落ちているがそれでも隣国との戦争になっても追い返せる自信はある。
「いえ、この国の戦闘スタイルは籠城と遠距離魔法のコンボですからね。逃げる相手には向かない戦闘スタイルなんですよ。」
・・・そう言われるとそうだ。今までアンダーに頼りきりだった結界での防御がこの国一番の強みだったと言える。俺は無意識的に、一人の友人に頼り過ぎていたのかもしれない。
「いやあ凄いね。言われるまで気が付かなかった。確かに籠城と遠距離魔法に力が入ってるね。基本は全部均等に育てているつもりだったけど・・・君はかなりの観察眼を持ってるみたいだね。」
「え?この国を見たらぱっと見で分かりませんか?」
え?
「あ、今の発言なしです。実はとっても偉い人が教えてくれたんです。」
「ごまかせないよ?」
歴戦の将軍のような感想を述べられたら誰かから引用したなんて言われても信用できるわけがない。
さっきから百面相しているし考えていることも手に取るように分かるので実際に顔を出すのには向いていないと思ったが。
「君は顔に出やすいよ。今も『何でばれた!?』って顔をしてるし。」
「取り合えず、今度尾行するのでまた店に来てくださいね!」
話を切り替えたな。それも結構危ない方向に。
「尾行しなくても家くらい教えるよ・・・。」
この子なら息子と一緒に居ても何とかなるだろう。野心は抱いてなさそうだし何より簡単に何を考えているのかが分かるのは大きい。
「客だ。早く来い。」
「分かりましたー!!それでは!またのご来店、お待ちしてます!」
そう言って店内に戻る。少し、いやかなり抜けているが逆に信用は出来そうだ。確かに息子たちが好く理由も分かった気がする。別にのし上がろうという野心は無い様だしこのまま放置でいいだろう。
「現在に帰ったときに普通に話せるくらいにはなっておきたいな・・・」
また何度か時間逆行してあの店に行かなければならないようだ。
「第六回、会議を始める。」
「兄さん、いい加減僕に譲る準備は出来たかな?舞姫は僕が貰うよ」
「兄上、彼女は僕が貰います。」
「馬鹿を言うな愚弟共。ミフィアは俺が貰うと決まっている。その為に彼女を貴族にさせたんだ。」
会議と言っても、この場では自分がどれだけミフィアが好きかを言い合うだけの場である。相手を引かせたら御の字。相手の会話を聞いて彼女の現状を知ることもこの会議に参加している理由だ。
更に事実を述べておくと、ここに居る三人、『第一王子フレデリック』『第二王子アーレフト』『第三王子アベル』の三人は同一人物に恋をしている。三兄弟で一人の女性を取り合うことになるとは・・・これが血筋というやつなのか?
「それで誰も諦める気は無いんだね?」
「当たり前だ。彼女の天真爛漫さは俺のためにあるんだからな。」
随分と傲慢な物言いだが、フレデリック兄上は素直に言葉が出ない病気にかかっている(重症。直す方法は無い)のでこのような言い方になっているだけで、ずっと近くに居た僕やアーレフトは会話フィルタがついているので何が言いたいかがわかる。
『そんなの当り前だろう!彼女の天真爛漫さに惚れてずっと彼女を見続けているんだ!全力で俺の物にしに行っているんだぞ!?諦めるなどできるわけがない!』
的な感じである。
因みに貴族にさせたというのは、彼女が王国まで送ってくれた時に渡していたあのバッチの事である。あれは貴族である証明のようなもので、入学試験前の遠征でいくつか断罪した貴族のバッチの内の一つだったのだ。
彼女はそのことに全然気づいていなく、只のバッチだと思っている。フレデリック兄上が役場に行けと言っていたのにすっかり忘れているようだ。
まあ、只の綺麗なバッチだと思っている辺り、そこまで重要だとは思っていないのだろう。バッチを渡す時に一緒に言っていたことをバッチの綺麗さで上塗りされているのは一抹の不安を覚えるが肝心な部分は伝わってないから良しとしよう。
「彼女の素晴らしいところは何と言っても剣だよ。あの美しい剣筋を作り出すためにどれだけの努力を重ねていたのか・・・しかもまだ幼い女の子だと言う。努力かな彼女に好意を抱いて何が悪いのかな?」
こっちもこっちで結構な好意を抱いているようなので要注意だ。
「それでアベルはどうしてミフィアの事が好きなんだ?俺たちが言ったのにお前が言わないのは不公平だろう。」
「そうだね。」
ちょ!こっち見んな。
「・・・可愛いところ、でしょうか。」
あ、しらけやがった。なんだよ渾身の理由だぞ?これ以上に理由を求められても困るのだが。
「・・・アベルはもう除外でいいよね?多分僕たちが思っているより舞姫への思いが大きくなかったようだ。」
「そうだな。アベル、見損なったぞ。」
何でここまでボロクソ言われなければならないのだろうか。
・・・最初は『全て』と答えそうになったが流石に飲み込んだ。
そんなこと言ったらこいつら絶対にニヤケ顔で馬鹿にしてくるに違いない。ちゃんとオブラートに包んで言うのが社交界の常識。失敗したら死ぬ(社会的に)。どんな発言にも責任が生じる嫌な世の中なのでそれっぽく聞こえるようにぼかしぼかし話さないといけなくてつらい。
「僕はちょっと用事があるので先に失礼しますよ。」
「ふうん?第六回ミフィア会議を放り出してまでの用事なのかい?アベルはそこまで相容れない存在になってしまったんだね。」
いつも通りの微笑を湛えながらそう言ってくるが、僕には関係ない。
「はい。ミフィアと下町を『二人』で歩く予定が入ってますので。」
「はあ!?なんっでお前にミフィアとの約束があるんだよ!」
ミフィア以外では無表情と平坦な口調を貫いている僕はその表情を崩し、微笑みながらこう言った。
「貴方と違って、僕はミフィアと仲がいいんです。」
そして僕とミフィアは下町を歩いているのだが・・・
「いやあ・・・どれもこれも自分で作れるので買いたいものが見当たりませんね・・・」
現在、舞姫が統治している区画に来ているのだが、彼女から出てきた言葉がまずそれだった。
そりゃそうだ。『舞姫』率いる『舞姫商会』はたった半年でこの大陸のどの商会よりも利益を伸ばしていて、小さい商会が生きていく環境が無くなってしまっている。王都の高級品は大体舞姫商会が取り扱っていて、材料から製造工程まで最適化を行っているので安い奴でも質がいい。つまり、王都で質のいいものは大体舞姫商会のものだ。
自分が欲しいものを片っ端からお店ごと作るからこうなるんだと声を大にして言いたい。しかし、現在ミフィアは正体を隠している(バレている)ので言わないでおく。
ミフィアが舞姫だということは親しくしている人なら大体わかっている。彼女は何を隠していてもぽろっと口から出してしまうし、本人は全くそれに気が付いていない。あれでは隠し事の一つも出来ないのではと思うがこっちは隠し事の内容がすぐに分かるので大分ありがたい。
「大陸の外にでも行かないとミフィアが望む物は手に入れられないんじゃないのか?」
「大陸の外・・・ですか・・・」
思案しながら街道の端を歩く。
ふとした時に後ろから心地よい風が流れた。ミフィアの髪がふわっと舞い、綺麗だ、と思いながら風が流れてきた方向を見る。すると雰囲気が一気に台無しになる人物がいた。
「大陸の外?行くか?空の大陸。」
サンスレット・ロードだ。
「あそこはいいぞ?文化圏が全く違うからミフィアが好きそうなものもたくさんあると思う。きっとうん。あそこには舞姫商会も流石に来れていないし知らないものもたくさんあると思う・・・思いたいな。」
「浮遊大陸なんてどうやって行くんだ?」
そう言うとサンスレットはきょとんとして問い返してきた。
「ミフィアと一緒に居るくらいなんだから空飛べるだろ?」
「え?ミフィアって空を飛べるのか?」
サンスレットの価値観がおかしい事よりミフィアにそんなことが出来るという事実の方に気が行ってしまったことは仕方のない事だと思う。
「いやいやいや!そんなことできるわけないじゃないですか!」
ミフィアはそう言いながらサンスレットの手を引いて向こうに行き、数分してから帰ってきた。実は結構耳がいいので、『そのことは秘密にしているから絶対に言わないでください!・・・あと治癒魔法の事は詳しく聞きたいです・・・』という会話が起こっていたのが筒抜けだった。
サンスレットも知ってると思う。だってニヤニヤしてたから。
「まあ冗談はさておき、転移用の魔法陣があるからそれでいけるって感じなんだが・・・あ、転移くらいなら魔法陣無しでも行けると思ったそこの彼女に言っておくけど俺だって転移くらい魔法陣無しでも行けるんだからな?『言語トリガー』と『多数同時転移』と『遠隔操作』の効果を付与するには魔法陣が丁度良かったから魔法陣型にしたんだからな?」
仕切りなおしたはずなのだが結局変な方向に話が脱線している。転移くらい魔法陣無しでも行けると思ったそこの彼女って絶対にミフィアだよな?知らんぷりをしていても意味ないよ?ここで知らんぷりしても自分がしましたって言っているようなものだからね?
「じゃあお言葉に甘えさせてもらうよ・・・」
そういうわけで転移先の大陸に期待を寄せることにした。
俺ことルーデウス・フォレストアは困っている。
息子三人の様子がおかしくなっているのだ。
フレデリックは自分の身嗜みや国へ対する考え方が変わっていっている。どうすれば女性の気を引けるのかを熱心に研究している姿を見てしまった。国のことに熱心になったのは恐らく好きな人がいるこの国を出来るだけいい国にしたいからなのだろう。
つまりフレデリックは今、恋をしている。
その相手はミフィアだということが分かった。
俺ことルーデウス・フォレストアは困っている。
息子三人の様子がおかしくなっているのだ。
アーレフトは遠征から帰ってきてからずっと魔術や妖術、呪術や技術について調べている。今まで剣しか興味がないと言っても過言ではなく、剣を握れば誰よりも強かったアーレフトが帰ってきてからそれ以外に手を出し始めたのだ。
本人は遠征中に『負けた』と言っていた。
何に、どうやって負けたかなん聞いてはいない。だが、息子が負けたと端的に言うのなら剣の事だろう。その相手は女性で剣がとても強く、魔法も王国では右に出る者がいないと言って差し支えない程素晴らしかったらしい。更に、その女性はアーレフトに記憶の蓋をし、
私の正体が分かったら求婚してもいいと言ったらしい。
アーレフトは記憶の蓋を開けるためにありとあらゆる記憶に関する知識を吸収しているのだ。
つまりアーレフトは恋をしている。
その相手はミフィアということが分かっている。
俺ことルーデウス・フォレストアは困っている。
息子三人の様子がおかしくなっているのだ。
末っ子の我儘王子アベルがフレデリックとの遠征を終えて、大人びて帰ってきたのだ。
この国の現状を把握するために真剣に、八歳とは思えない速度で学習している。科目は全て。出来るところには全て手を出し、何でもそつなくこなす冷静沈着な王子になったのだ。
現状で誰を王に据えたいかを聞かれたら間違いなくアベルを押すだろう。あいつは恐らく天才だ。何にも興味を持ち、真剣に取り組むという条件を満たせば恐らく何でもできてしまうのだろう。
いつも丁寧な敬語で喋るくせに、たった一人との会話になると明らかに口調が崩れるのだ。
つまりアベルは恋をしている。
その人物は同級生で、最近人気のパン屋でアルバイトをしているミフィアだ。しかもとある筋の情報で彼女は『舞姫』『天才魔法工学士』『失踪公爵令嬢』『負神』であることが分かっている。
その三人がお互いに好きな人が同一人物であるということに気が付いていた。
しかも語り合っていた!!
・・・息子たちは彼女の与り知らぬところでなんてことやってるんだ・・・
アベル勝ち確の出来レース・・・




