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エピローグ

「おおー、話題になってるっすね、この間の番組の内容が。ヤッホーニュースのトップにまで来ちゃいましたよ」

 後部座席に座る流歌がスマートフォンの画面を見て声をあげた。

「反響を受けて、取材申し込みもすでにけっこうな数が来ていますよ。よりどりみどりです。フフフ……」

 自動車を運転する史郎がニヤニヤしているのを横目に見て、助手席の真夜もクスリと笑った。


 『Trick or Treat』と『3×3CROSS』が共演した『ミュージックパンサー』は関東ローカルの深夜番組にもかかわらず、放送後に大きな話題を呼んだ。

 まず、それまで優等生然としていた来栖蛍がドッキリにより取り乱し、泣き出す様子が包み隠さず放送されたのが大きかった。視聴者の反応は「人間味を感じた」「かわいい!」など、蛍に好意的なものが多い。プロデューサーの冬月の狙い通りと言えるだろう。「あの豚の手のひらの上で踊らされてるみたいで悔しいわ……」と放送後の反響について蛍と電話で話したが、その声色が言葉のわりに柔らかかったように真夜は思う。

 ちなみに、ドッキリの後の一悶着については放送分では一切触れられていない。関係者の胸の内に秘められることとなった。


 『Trick or Treat』については、トーク部分で有川瀬里奈から『黒姫カーミラ』の設定について激しく突っ込まれることになった。もちろん、打ち合わせ通りである。

「カーミラちゃんは、以前人気ドラマに出演していた神村真夜ちゃんと同一人物であるという噂があるんだけど……」

「今の私は黒姫カーミラですよ。それ以上でもそれ以下でもありません」

「なんかアニメみたいなこと言い出したぞ……。神村真夜ちゃんであることは否定しない?」

「ええと……ややこしい話になって申し訳ないのですが、彼女がいたからこそ、今の私、黒姫カーミラが存在するのは間違いありません。彼女と私は表裏一体なのです。しかし、アイドルとして活動するのはこの私、黒姫カーミラなのです。彼女が今後メディアに登場することは無い、と思っていただければ」

「でも、真夜ちゃんなんでしょう?」

「だからぁ……」

「ドラマの時にお世話になった共演者さんやスタッフさんに、真夜ちゃんが『今度吸血鬼のお姫様としてアイドルやります』っつって律儀に挨拶に回ったという情報があるんだけど」

「していませんしていません。もしかしたら、彼女は挨拶回りをしたかもしれませんが、この私、黒姫カーミラはそんなことはしていません」

 『神村真夜』であることを否定も肯定もしない『黒姫カーミラ』の登場は、視聴者に驚きと笑いをもって受け入れられているように真夜には感じられる。比較的、面白がってくれているようだ。一部には、くだらないキャラ作りだとバカにするような反応も当然ある。だが、言いたい者には言わせておけばいいのだ。今の真夜は、どんなことを言われても平気だ。真夜自身が強くなったし、それに、真夜一人ではない。心強い仲間がいる。


「番組のネット配信もしてるのか」

「ええ。関東ローカルなんで、地方の人も見られるようにって配慮じゃないすかね。テレビ局のサイトで放送後一週間は無料で」

「ほうほう。おお、再生数ランキングでトップじゃないか!」

「やっぱり真夜さんと蛍さんの四年ぶりの共演は大きいっすよ!」

 後部座席では流歌とフランがスマートフォン片手に盛り上がっている。

 『ミュージックパンサー』が話題になった最大の要因は、真夜と蛍の共演だ。トークパートではあくまで真夜は『黒姫カーミラ』であるという設定のため、直接再会を喜ぶようなことにはならなかった。が、真夜であって真夜でない『黒姫カーミラ』に対し、設定を尊重しつつ絶妙に毒を含んだ話を仕掛けてくる蛍と、あくまで設定を守ろうとする真夜の丁々発止のやり取りは不思議なおかしさがあった。

 そしてライブパートでは、『Trick or Treat』が歌っている最中に蛍をはじめてとした『3×3CROSS』が乱入してきて一緒に歌い、そのまま全員で『3×3CROSS』の曲を歌うことになった。

(楽しかった……)

 収録の間は本当に蛍といろいろあったが、最後にはお互い笑顔になれた。流歌とフランのように一緒に行動する仲間とも、村田路美のように芸能界の外で応援してくれる友人ともまた違った、大切な存在。お互いを高め合えるライバルとしても友人としても、これから蛍とやっていけるのではないかと真夜は思う。


 やがて目的地に付き、『Trick or Treat』の三人と史郎は自動車を降りた。都内にあるレコーディングスタジオ。ここでセカンドシングルに収録される曲のレコーディングを行うのだ。

「はあ」

 建物内に入ると、フランがため息をもらした。

「どうしたの、フランちゃん」

 真夜がたずねると、

「いや……今度の曲、歌詞がなんというか……ちょっと恥ずかしいじゃないか。歌の中に自己紹介っぽい台詞がバリバリ入ってきたり。『私はフラン、人造人間』とか」

「ああ、まあね、ちょっとね」

 気が乗らない様子のフランを見て、真夜も苦笑した。流歌はといえば屈託無く、

「いいじゃないっすか! 自己紹介ソングはアイドルの王道っすよ、王道」

「ルカは恥じらいが無くていいなあ」

「どういう意味っすかー!」

 流歌とフランが仲良く喧嘩を始める。もう見慣れた光景だ。

「ほらほら、行きますよ。それに、自己紹介ソングけっこうじゃないですか。我々のことをもっとよく知ってもらうためにも、ここらでそういう曲のリリースも必要だって言ったでしょう」

「はーい」

「はい」

 史郎に喧嘩を止められ、流歌とフランがしぶしぶといった様子で真夜の後ろを追いかけてくる。決して本気では喧嘩していない二人の顔を確認すると、真夜は自然と笑顔になった。流歌とフランを引き連れて、目的地へと歩き出す。なんだかこれからレコーディングする自己紹介ソングがピッタリくるな、と思った。


 『Trick or Treat』セカンドシングルの表題曲は、『人外系アイドル行進曲』という。


これにて完結です。最後までお読みくださり、ありがとうございました!

感想、評価等いただければ、大変嬉しいです。


裏話的なものは、またいずれブログに書こうと思います。

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