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強き者よ(2)

 久しぶりの休日をどう過ごすか。彼女は数日前からあれこれ考えていたが、結論が出ないまま自室で当日の朝を迎えていた。

 一日だけなので、旅行に行くのは厳しい。まるまる寝て過ごすのもいいが、やはりもったいない気がする。家族とゆっくりするか、読書でもするか? いや、天気は良さそうだし、どうせなら外に出たい。服でも買いに行くのはどうだろう。しかし、今日は日曜だ。今の仕事をしていると曜日感覚が薄れるので忘れがちだが、日曜は人通りが多い。変装したとしても、誰かに自分のことを気付かれると面倒だ。買い物に行くなら平日の方がいい。

 困った。決められない。

(……とりあえず、テレビを見よう。数か月ぶりに録画じゃなくリアルタイムでニチアサ見れるし)

 スマートフォンには午前七時二八分と時刻が表示されていた。ちょうど戦隊ヒーロー番組が始まるところだ。彼女はベッドに入ったまま、リモコンを操作してテレビの電源を入れた。

 ここ数年、特撮ヒーロー番組は忙しい彼女の心の支えになっていた。昔から興味があったというわけではない。苦しかった時期に偶然テレビで目にした、ヒーローが熱く語りながら敵と戦う姿に心を射抜かれたのだった。忙しくなった今ではリアルタイムで視聴することがほとんどできないが、録画したものを毎回かかさず見ている。

 ふと、戦隊ヒーロー番組のオープニングを見届けた直後に彼女の頭の中で閃くものがあった。今日は日曜だし、七月の終わりといえば世間では夏休みに入ったところだ。となれば、どこかでヒーローショーくらいやっているのではないだろうか。テレビだけでなくヒーローショーにまで興味が出てきたのは自分でも驚きだが、たまの休日の過ごし方としては悪くない気がする。

 八時半までの特撮ヒーロータイムが終わったら、調べてみるか……。


 そして彼女は今、電車を乗り継いで鋼山市民公園へやってきていた。公園ではなにやら地元のイベントが行われており、けっこうな数の人が集まっている。帽子と眼鏡によって変装はしている。家族連れやカップルがひしめく中で女性一人がウロウロしている姿は多少浮くかもしれないが、それでも渋谷や新宿に出かけるよりは、彼女であることを気付かれる危険性は低いはずだ。

 真夏の昼下がりであり、否応なく汗が噴き出てくる。彼女はハンカチで顔を拭きながら、二〇分後にヒーローショーが行われるステージへと歩いた。ヒーローショーといっても普段彼女がテレビで見ているメジャーなものではなく、ここ東京都鋼山市(人口約十四万人)のご当地ヒーロー『超鋼戦士スチールマン』だ。

 インターネットで調べた結果、彼女が今日行ける範囲の場所で開催されるヒーローショーはここくらいしか無かったのである。『超鋼戦士スチールマン』の予備知識は皆無だったが、名前通りのメタリックな外見はなかなか格好良いと思った。どことなく、戦隊ヒーローものの定番である追加戦士を連想させる。

(私の貴重な休日を消費させる以上、良いステージ見せてくれなきゃ許さないんだからね)

 頭の中でスチールマンに話しかけながら、彼女は人ごみをかき分けてステージへと向かった。


「わぁぁーっ! 沢山のお友達が来てくれてるねえーっ!」

 ステージに最初に現れたのは、やたら声が大きなポニーテールの少女だった。この暑さの中、なぜか白いジャージを着ている。服装にも違和感があるが、それよりも年齢だ。この手のヒーローショーの司会者としてはかなり幼く見えた。中学生くらいではないだろうか。少女は客席に向かって大きく手を振りながら、

「みんなぁぁぁーっ! こんにちはぁぁぁーっ!」

「こんにちはー」

 子どもたちが元気良く返事をする。客席は満員というほどではないが八割方埋まっており、ほとんどが親子連れだ。自分が浮いていることを気にした彼女は、最後方に陣取っていた。大丈夫だ、他の客が彼女のことに気付いた様子は無い。

「あれー? 声が小さいぞ? はい、もっと大きな声で! 親御さんたちもご一緒に! こんにちはぁぁぁーっ!」

「こんにちはー!」

 ステージ上の少女に煽られ、さらに大きな声で子どもたちが返事をした。大人たちの声も少し混じっている。少女は満足げな顔をすると、

「うん、良いお返事でした。お姉さんのお名前は、森山流歌っていうっす……いいます。よろしくね!」

 そこまで言うと、少女の声の調子が急に変わった。

「みんな、今日はスチールマンに会いに来たんだよね? ……ここで、残念なお知らせがあります。今日、スチールマンはここに来ることはありません」

(……え?)

 声こそ出さなかったが、さすがに驚いた。他の客も同様で、客席には動揺が広がっている。「えー!」「なんでー!」という子どもたちの悲鳴が聞こえてきた。

 ステージに立つ森山流歌は客席の反応に動じていない。不敵に笑いながら、宣言した。

「スチールマンは来ません。なぜならば……我々『Trick or Treat』がこのステージを乗っ取ったからっす!」

 森山流歌がそう叫んだ直後、ジャーン、という効果音が会場に響く。さらにステージでは青い照明が点灯した。

(ははあ、こういう演出なのかな。トリックオアトリートというのはご当地アイドルか何かね。スチールマンが後からやってくるパターンっぽい?)

 彼女は急に冷静になった。観客を出だしで驚かせる演出は、彼女も経験がある。だが、客席の子どもたちはそんな考えが浮かぶはずもない。近くの席の男児の顔を観察してみると、口をポカンと開けて呆然としていた。

 森山流歌は続けて叫ぶ。

「さあ、来てください! カーミラさん、フランさん!」

 その声に応じるように、舞台袖から二人の少女が出てくる。長身で長い金髪をした女の子と、やや小柄で髪の短い女の子。悠然と歩いてくる少女たちは二人とも黒を基調とした衣装を着ており、特撮ヒーローの悪役に見えなくはない。最初は少女たちの衣装に目が行った彼女だったが、その顔に注意を向けた瞬間、衝撃を受けた。

(あの子……蘭ちゃん!?)

 最後方からでも彼女にはわかる。ステージに出てきた小柄な少女は、かつて彼女とオーディションで競い合ったライバルと瓜二つだったから。

(あれは蘭ちゃん……塩田蘭。いや、でもそんなはずは無い。蘭ちゃんは事故で亡くなったはず……)

 彼女……『サンライズ倶楽部』リーダー・有川瀬里奈の視線は、もはやステージに立つ小柄な少女に釘付けになっていた。

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