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ヒロインになろうか!(7)

「皆さんは、フランの年齢をいくつだと思われますか」

 会議室で白井ふぶきがノートパソコンとプロジェクターを準備してくれている間、塩田荘八が真夜たちに問いかけてきた。

「えっ? それはもちろん……」

 真夜は塩田の隣で無表情に座るフランに目をやった後で答えた。

「一五歳でしょう。この四月でフランちゃん高校生になったんだから」

「戸籍上は、その通りです」

 ……『戸籍上は』。塩田は意味ありげな言い方をした。

「考え方によっては、二七歳であるとも言えます。また別の考え方をすれば、三歳であると言うこともできます」

 真夜は流歌と顔を見合わせる。流歌は『何言ってんだこの人』と言いたげな顔をしていた。きっと真夜も似たような表情をしているのだろうと思う。錬金術師という肩書も、塩田の胡散臭さに一役買っている。

「それって、どういう意味っすか?」

「私が持ってきたDVDをご覧いただければわかります」

 流歌のストレートな質問に、塩田はさらりと答えた。

「パソコンの準備ができました」

 ふぶきの声に塩田はうなずき、DVDを手に取って真夜たちに示した。

「このDVDに入っているのは、ちょっと昔のテレビ番組を録画したものです。神村さんや森山さんは幼かったころですからご存知ないかもしれませんが、当時人気絶頂だった『サンライズ倶楽部』の第三期メンバーオーディションの選考過程を、ちょっとしたドキュメンタリー仕立てでバラエティ番組の中で放送していたのです」

 サンライズ倶楽部は一五年以上に渡ってメンバーを入れ替えながら活動しているアイドルグループだ。真夜はその人気が絶頂だった時代をはっきり覚えていない。小学生の頃の真夜がサンライズ倶楽部に対して抱いていたイメージは『昔は国民的な人気だったらしいが、最近は一部のマニアにしか支持されていないアイドル』というものだ。

 しかし以前フランと史郎が会議室で話していた通り、ここ最近は人気が復活の兆しを見せている。現在中心になっているのは第一〇期メンバーだったはずだ。

「第三期メンバーとなると、相当前の番組ですね」

 真夜が口にすると、塩田が言う。

「正確には一二年前になりますね」

 一二年前となると、真夜は四歳。そんな番組があったことを知らないのも当然か。しかし、なぜそんな昔の、サンライズ倶楽部に関係した番組を見る必要があるのか。フランとどういう関係があるのか。

「それでは、再生します」

 真夜の疑問をよそに、塩田はDVDをパソコンに挿入し、再生を開始した。会議室に設置された小型のスクリーンに、番組が映し出される。


 番組では、サンライズ倶楽部第三期メンバーオーディションの最終選考に二万人の応募の中から一〇人の少女が残った様子が説明されていた。最終的な合格者の人数は決まっておらず、最悪の場合は合格者無しもあり得るという。厳しいな、と真夜は思った。スカウトされた自分は、彼女たちに比べればとてつもなく恵まれているのかもしれない。

「ここから一人一人の紹介が始まりますが、無関係な人も多いので飛ばします」

 そう言って塩田が再生ソフトを操作し、番組を早送りする。しばらく早送りが続いたが、九人目の少女の紹介が始まると塩田は映像を一時停止した。

「先にこの最終選考の結果を言っておきますと、合格者はただ一人です。この娘ですね」

 塩田の言葉とともに、番組が再び再生された。スクリーンには『九人目、有川瀬里奈ありかわせりな、一三歳、東京都出身!』というナレーションとともに、まだあどけなさの残る美少女が映し出される。

「あれ、有川さんってサンライズ倶楽部の今のリーダーじゃないっすか!」

 流歌が素っ頓狂な声をあげる。真夜も有川瀬里奈のことは知っている。現在は二〇代半ばを過ぎ、いまやサンライズ倶楽部の最古参にして最年長。サンライズ倶楽部を長年引っ張ってきた功労者としてリーダーを務め、最近はテレビ番組でもよく見るようになっている。

「さすがに若い……というか幼いっすね。一二年前だから当たり前っすけど」

「この時オーディションに受かって、ずっとアイドルやってるんだね……」

 真夜と流歌の会話を聞いて、フランが久しぶりに口を開いた。

「このオーディションで有川瀬里奈が加入した数年後、メンバーのスキャンダルや脱退が相次いだこともあってサンライズ倶楽部の人気は凋落する。それでも彼女はサンライズ倶楽部に留まり、低迷期を支え続けた。……尊敬に値する」

「……そうだね」

 真夜はフランを見て、うなずいた。今こうしてアイドルデビューしようとしている真夜も、小学生時代に一度芸能界を去っている。一三歳から途切れることなくアイドル活動を続ける大変さは、想像もつかない。

「さて、次の一〇人目が本題です」

 塩田の言葉が聞こえ、真夜は再びスクリーンに視線を戻す。そして一〇人目の少女の紹介が始まった瞬間、真夜はぽかんと口を開けてしまった。

 フランが映っていたからだ。今、真夜の目の前にいるフランと瓜二つの少女がスクリーンに映し出されている。小柄な体も、整った顔立ちも、ショートカットの髪も、全てがそっくりだ。敢えて言えば、オーディションの少女の方が随分と表情が豊かだった。カメラに慣れないのか、照れくさそうな顔をしている。

 やがてナレーションが彼女の名前を告げる。


 『塩田蘭、一五歳、神奈川県出身!』


 塩田……蘭? フランの本名である『芙蘭』ではなく、ただの『蘭』……?

 混乱している真夜を見かねたのか、塩田は番組を一時停止した。

「驚かれたようですね」

「それは、まあ……。あの、この娘どう見てもフランちゃんですよね」

「でも真夜さん、これは一二年前の番組っすよね。だから、つまり……あれ?」

 真夜と同様に、流歌も戸惑っているようだった。

「つまりですね……」

 塩田が二人に何か言いかけたが、フランが手で制した。

「お父様、もういい。ここからは二人にフランが自分で話す」

「……そうかい」

 真夜はフランを見た。フランはいつも通り無表情だ。真夜としては、フランの言葉を待つしかない。

 フランは真夜と流歌をしっかりと見ながら、落ち着いた口調で一息に言った。

「言うまでも無く、塩田蘭はお父様の娘だ。彼女はこの後、サンライズ倶楽部オーディションの最終選考前日に交通事故で命を落とす。そしてお父様とお母様が蘭を蘇らせるために長年研究を続けた末、彼女の遺体をもとにして三年前に造られたのが、フランだ」

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