003
暗い。
〈……の負傷に……生命力の低下ヲ確認……。〉
……暗い。体が痛い。
〈……生命維持の為……魔力ヲ……。〉
……俺は崖から落ちて……そして。
〈……意識確認の為、音にヨル呼び掛けヲ開始シマス……。〉
……声?
……そこに誰かいるのか?
〈ピピッピピピピッピピピピッピピピピッピピピピッピピピピピピピピピピピピピピピピ〉
……う、うるせぇ……目覚ましのアラーム?
「うぅ。」
〈ピピピピピピピピピピ……意識の浮上を確認シマシタ。名付けにヨル魂と魔力の繋がりの強化ヲお願いシマス。〉
……とりあえずアラームを止め……。
「ア……ム……。」
……いや、アラーム?そもそもなんでアラームが此処に?おかしいだろ。
色々と考えている内に、朦朧としていた意識が徐々に覚醒しだし、頭が冴えてくる。
〈ア……ム……。私の名はアム。召喚主による名付けが完了しました。〉
それに背中に当たる感触が柔らかい。俺はあの時崖から落ちて、硬い地面の上に居たはずだ。
〈では次に、召喚主の名前をお願いします。〉
……名前?俺の名前を聞いているのか?
先程から話し掛けてくる声は女性の声の様だが、どこか電子的な響きがする声だ。
それになんだか、話し方が流暢になったな。
「タケル……。三春健です。えーと誰ですか?誰か居るんですか?」
誰だろう?もしかして俺を見つけて助けてくれたのだろうか?俺は……助かったのか?
〈召喚主タケル。私はタケルの願いにより召喚された召喚獣アムです。〉
召?え?………なに言ってんだこいつ……?
いきなり妙な事を言ってくる声の主を探す為、頭をあげる。
「あの?何処に居るんですか?……ッぐ!」
起きようとしたが体の痛みで起き上がれない。
頭だけで辺りを見渡して見ても、周りは草木が生い茂る森の中である。
〈タケルは現在、私の上で療養中です。〉
「……え?あれ?ベッド?俺、ベッドに寝てる?」
私の上?……と言うかなんで此処にベッドが?
頭を少し起こし自分の寝ているベッドを見てみると、ソレはなんとも既視感があるベッドだった。
見覚えのある水色のタオル地のシーツ。グレーの毛布と掛け布団。オレンジの枕。黒いパイプの簡素な骨組み。枕元の上にある備え付けの宮台。
「これ……俺のベッドじゃねーか。」
鬱蒼と繁る森の中に自分のベッドがある。
はたから見たらかなりシュールな光景だろう、違和感しかない。
なんだこれ……もしかして山で目が覚めた時から、一連の流れは全部ドッキリか何かだったのか?
そう考えると少し怒りが沸いてくる。
〈私は召喚獣アム。タケルの願いによりタケルの望む姿で召喚されました。〉
どうやら声の発信源は宮台の上からの様だ。
と言うか召喚とか召喚獣やら、さっきから一体なんなんだよ。からかってんのか?
怪我をしていない右腕の肘をベッドに付き、痛みを堪えながらも上体を起こして宮台を見てみると、俺がいつも使っているスマホが目に入る。
「えーと……自分の状況がよく分からないので、良かったらどういう事か説明してもらえますか?」
〈分かりました。では、名の受理が完了したことにより、潜在知識の共有が出来るので情報の受け渡しを開始します。〉
「え?」
スマホからそんな声が聞こえて来た瞬間、頭の中に大量の情報が流れこんで来て、頭に締めつけられるような痛みが走る。
理解が出来なくとも頭に叩き込まれる感じだ。
「な?がぁッ……!」
〈情報過多による許容量の超過を確認。現在タケルは衰弱状態の為、情報量を必要最低限の情報のみに制限します。〉
段々と頭の痛みが引いて来て、アムが流してくれた情報を頭の中で反芻出来るようになり、あり得ない現状に俺は驚愕した___
「……い、異世界……だと?」
___どうやら此処は異世界らしい。