青嵐
恋愛モノ再挑戦作品です。
今度はうまく行ったかなと思っています
ごゆるりとお楽しみください
ここは、私立狩野高校。
全校生徒およそ1500人というマンモス高校だ。当然様々な生徒がいる。彼ら、彼女ら1人1人が青春を謳歌し、花の10代を楽しんでいる。
ここにもまた1人、青春を楽しむものがいた。しかしまだ気づいてはいない……。
少しずつ、波乱の足音が近づいてきてることを……。
◇◇◇◇
その日はいつもと変わらぬ朝を迎えていた。平凡な日常こそ最高の幸せと考える僕にとってはとてもいいことだった。
僕の通う私立 狩野高校は、僕の家の近くにある駅から4駅ほど電車に乗って着く、この辺では一番大きい上山駅のそばにある。
この辺では一番大きい駅に向かうので利用者はものすごく多い。朝の電車の中は超満員だ。なので少しでも利用者が少ない時間に乗るため、毎日かなり早起きをしている。
とまあ、こんな取り留めもないことを考えてるのは現在その満員電車に乗っているからで……。
10分くらいとはいえキツいものはキツい。
なんとか脱出した僕は学校まで歩いて向かう。途中に同じ制服を来た人がチラホラといる。しかしまだ早い時間なのでまばらにしかいない。
特に知り合いと会うこともなく教室に着く。教室には珍しく既に友達が来てた。
「おはよー憲二」
彼の名前は西小倉 憲二、よく一緒にいる奴だ。
「おっす緋里」
緋里、これは僕の名前ね。 僕の名前は北島 緋里と言うんだ。かっこいいでしょ? そうでもない? さーせん。
「珍しいね、僕より先に来てるなんて」
「いや、ユリの奴がうるさくてな……」
このユリって子は憲二の幼馴染みで、僕達と同じくここに通ってる女の子。憲二曰く“ただの腐れ縁”らしい。
ただユリちゃんが憲二のことを好きなのは、傍から見ててすぐにわかる。分かりやすくラブコール送っているのに憲二は鈍感だから全く気づいてない。
周りが上手いことお膳立てしても気づかないという筋金入りである。
「憲二」
「ん? どうした?」
「今すぐユリちゃんのとこに行って起こしてくれてありがとうってお礼言いに行ってきな」
毎日起こして貰えて当たり前なんて思っては行けない。僕は毎日誰よりも早く起きて家族全員分のお弁当を作っている。当然起こしてなど貰えない。
「なんだよ急に……」
「いいから! 早く行く!」
「分かったよ……。まぁ俺一人じゃ起きれないしなぁ……」
「僕に言われたから言いに来たとか絶対に言っちゃダメだからね? 言ったらジュース一本おごりね」
これも当然である。そんなこと言われたら嫌だけど仕方なく来てやった、と取られてもおかしくない。絶対に喧嘩になる。
「おごり!? まあ言わなきゃいいだけだしいっか」
この男言いそうだ……。すごく不安だけど早く行かせよう。
「しっかりやれよ〜」
憲二が教室を出ていった。とりあえず自分の席に向かうか。何を隠そう今まで廊下の近くにある憲二の席の近くに荷物を持ったままいたのだ。僕の席は反対側の窓側にある。
席に向かい机の中に教科書を入れようとした時のことだった。中に何か紙が入っていることに気づいた。
僕は机の中に物を置いて帰るのが好きじゃない。だから毎日家に持って帰っている。つまり僕が今日来るまでの間に誰かが入れたということになる。
とりあえず何が入っているのか確認しよう。机の中に手を入れとり出してみたところ、茶封筒だった。
学校関連の連絡でなんか忘れていったみたいだ。とりあえず自分宛てなのを確認して中身を見てみる。もし今日までに提出するものだとしたら今のうちになんとかしなければならない。
中の紙に書かれていたのは“放課後、体育館裏に来てください。”という文字だけだった。
◇◇◇◇
朝、謎の手紙を貰ってからの僕は上の空だった。あの手紙の真意について考えていたからだ。誰かのイタズラか、はたまた僕を恨んでる人でもいるのか。
これがイケメンに来たのだったらラブレターなんて線もあるだろう。しかし僕はTHE 平凡。 平凡な自分が大好きだ。つまりラブレターという線は薄いだろう。
これがまだ茶封筒じゃなければもしかしたらくらいには思えたかもしれない。
しかし茶封筒である。期待しようがない。だけどもものすごく気になる。現在昼休み、放課後まで後2時間の授業が残っている。結局昼休みの残りもモヤモヤしたものを残しながら過ぎていった。
残りの授業を終えて放課後。今日の授業時間は全部上の空だった。憲二達が帰りにどっか寄ろうと話をしててそっちにも行きたかったけど断って体育館裏に行くことにした。
イタズラの可能性が高いだろう。待ち構えてる奴はほくそ笑んでるに違いない。
そうこう考えてるうちに体育館裏に着いた。奥に誰か立っている。変な緊張が走る、いつの間にか口の中に唾液が溜まっていたのでそれを飲み込む。
ゴクリ。
大きく音が響いた気がして、心臓が跳ねた。勇気を出して人影に近づく。後10m、後5m、4m、3m……。
相手との距離2mまで近づいた。先程から気づいていたが女の子だ。そしてこの距離まで来たので声を掛けてみることにした。
「僕を手紙で体育館裏に呼んだのはあなたですか?」
「ひゃっ!? はい!」
こちらに気づいていなかったのか、驚いて声が裏返っている。そして顔をこちらに向けた彼女は……。
「えっ……。」
この学校である意味一番の有名人だった。東條 陽菜乃、可愛らしい名前とは裏腹に、この辺で有名なヤンキーとの評判の1年生だ。
「あ、あの! 私、北島先輩のことが好きっす! 付き合ってください!」
そしてなんと、まさかのまさか。あの手紙はラブレターだったようだ。
とはいえ、あまりに突然のことだったので驚きすぎてなんとも返せない。かっこ悪いことに固まってしまっている。
どれくらい無言でいたのかわからない。何か言わなければ! 頭では分かっているのに口が動かない。喉はカラカラ、焼け付くような痛みもある。どことなく息もしにくい気がする。そして、心臓がバクバクと自己主張していてうるさい。
「私みたいなのから急に言われても困るっすよね……。今は返事イイっす。じゃっ!」
彼女は、そう言い残し走り去って行った。
◇◇◇◇
告白されてから1週間経った。あの後藤條とは一言も話していない。ただどういう人かって情報は集めていた。
・なんでも地元の不良を一人でしめた
・親が地元で一番のヤクザだ
・先生も逆らえない
などなど、好意的な評価は無かった。
しかし僕には少し引っかかる部分があった。僕は告白の時の藤條さんしか知らない。あの時の藤條さんの目。寂しそうだった。
本当にこんな人物なのか、本人の行動を見てからじゃないと判断できない性格である僕は尾行してみることに決めた。
放課後
いつものメンバーに一緒に帰れないと話をして、藤條さんが出てくるのを待っていた。
彼女はいつも一人で帰っているらしい。
それとなく待っていると彼女が出てきた。少し距離を置き後をつける。
彼女は駅と反対側に歩き始めた。こちら側には住宅街が広がっており、バスも通っていない。
「この辺に住んでるのかな?」
思わず呟いてしまうくらいには何もないのだ。見渡す限り家、家、家。家と道路しかないのだ。─いや、標識あるじゃんとかいうツッコミは受け付けません─尾行するにしても、こんな住宅街だとすぐに見つかりそうだ。
「よ、緋里! 何してるんだ?」
「なんだよ憲二。今尾行中なんだよ静かにしてくれよ。」
「誰を尾行してるんだ? 通報するぞ?」
「誰って、東條さんだよ……って、ゑ?」
後ろを振り返るとニヤニヤした顔の憲二が110番を押しているスマホの画面を見せてきた。
「ばっ!? やめろ!!」
「それで、東條さんがどうしたのよ?」
言える訳がない。今朝下駄箱にラブレターが入っていて、その差出人が東條さんだったなんて。
「東條さんがどうしたのかなぁ?」
しかし、非常にも憲二はニヤニヤしながらスマホを見せつけてくる。
「ぐぬぬ……。」
「ほらほら〜? 吐いちゃいなよ、楽になるぞ〜。」
ニヤニヤしながら憲二が迫ってくる。観念した俺は先日あったことを話した。
しかし、長い時間ここにとどまっていたため完全に東條さんを見失っていた。
「ふーん、そんな面白いことがねぇ……。」
「面白いって……。他人事だからってねぇ。」
僕を出し物のような扱いしないで欲しい。
「そら、他人事だしなぁ。浮いた話の出ないお前がストーカーになるくらいには気にしているんだろ? そりゃ尚のこと気になるじゃないか。しかも、相手はあの東條陽菜乃って言うんだ。こんな面白いことは無いぜ。」
「人を娯楽に使わないで欲しいんだけど……、というか憲二のせいで見失ったじゃないか! どうしてくれるんだよ!」
僕にとって重大な出来事を娯楽のように扱い、可愛い幼馴染がいる憲二にはそれ相応の罰を与えなければ。
「という事で、今からファミレスで僕にパフェを奢りなさい憲二は。」
「はぁ!? なんでだよ!」
「結局あの日、ユリちゃんの所で僕に言えって言われたからって言ったんでしょ? ユリちゃんわざわざ僕のところまで来たんだからね。今までそんなことばっかあったんだからそれも込でパフェね。」
強引にパフェを奢らせる事を了承させてファミレスに向かう。
ファミレスに入り、お気に入りのチョコレートパフェを頼む。ここのファミレスのチョコレートパフェは他のファミレスのパフェと比べて大きいのだ。
僕はこれが大のお気に入りでこれを食べる前は自然とウキウキしてしまう。
「まだかなぁ〜、まだかなぁ!」
あぁ〜、早く食べたいなぁ。
「お前ほんと楽しそうだよなぁ。」
「だって大きいチョコレートパフェだよ!? 幸せだよぉ。」
と、チョコレートパフェを待っていた時だった。この辺で有名な女不良グループが入ってきた。なんで知ってるかって? ここにパフェ食いに来るときに何回か見てるからだよ。
「また遭遇したのか……」
憲二もボヤいている。でも僕は気にならない。彼女達は店の中で暴れだしたりしないし、普通のお客さんである。
だけども、今日はいつもとは少し違った。集団の中心に東條さんがいたのだ。
東條さんを見つけた僕はとっさに体を隠す。
「お前何してんの……? パフェ来たぞ?」
「わーい!」
パフェに釣られて体を起こしてしまった。我ながら現金な奴だと思う。幸い東條さんも気づいてないようなのでこのまま観察しながらパフェを食べよう。
◇◇◇◇
「ふぅ、美味しかった。」
「よくあれ食べきれるよなお前……。」
憲二の呆れたような声が聞こえてくる。でもあれくらいは食べれて当然、むしろ食べれない憲二が軟弱なんだ。
「東條さんがどんな人なのか見ることも出来たし、僕は満足だよ。憲二ありがと。」
「おう、まあたまにこういうのも悪くないしいいな。」
今日はここで憲二と別れ家に帰る。明日学校で東條さんに返事をすることを心に決めて。
そして朝、学校に着いた。そのまま東條さんのいるクラスに向かう。
東條さんがクラスにいたので東條さんを呼んできてもらう。クラスが微かにざわつくけれども気にしない。
「ど、どうしたんですか先輩!? 1年生の教室まで来て……。」
「ちょっと、付いてきて欲しいんだけどいいかな?」
「今ですか?」
急過ぎたかな? でも今伝えたかった。けれども人目のつくところで伝えるのは恥ずかしい。
だから人目のつかないところで話をしたかった。
「できれば今がいいかな。」
「…………わかりました。」
真面目に話をしているのが東條さんにも伝わったのか、付いてきてくれるという。
なので、ついさっき生徒会に所属してるクラスメイトに頼んで借りてきてもらった屋上の鍵を片手に屋上に向かう。
屋上は基本的に開放されていないのだ。
鍵を開けて屋上に出て東條さんと二人になったところで鍵を締める。
これで誰かに見られることはない。
ここからが僕の一世一代の大勝負だ。人生で初めてのことをする。
「東條さん、この前の返事をしたくてこんなことをしたんだ。」
「へ、返事ですか……。」
「あの後僕は東條さんがどんな人なのかってことが気になっていてね、昨日ファミレスで偶然見かけて失礼だけどもどんな人なのか見せてもらったんだ。」
だんだんと顔が赤くなる東條さん。少し可愛いなぁと眺めながら、ファミレスで見たことを話していく。
「あそこで、勉強が苦手な後輩たちに勉強を教えてあげてたんだね。その子達がたまたま不良っぽい子達だったからあの噂も付いたんだね。」
話しをしていると
「そんな! あれ見てたんですか!? 恥ずかしい……。」
という反応をしながら顔を隠してしまった。
「見た上で僕は改めて返事をしたいんだけどいいかな?」
「はい……。」
かすれた声で返事をしてもらえたので返事をすることにした。
「僕はまだ東條さんのことをよくは知らない、けれどもこれから知っていきたい。よかったら付き合ってもらえませんか?」
僕なりにきちんと考えて出した結論だ。東條さんはこの返事を聞いて信じられないという顔で僕を見た。
「本当にですか? ドッキリとかじゃないですよね?」
「これでもきちんと考えて来てるんだけどなぁ」
少しわざとらしい反応をすると慌てた様子でこちらを見る。そして、
「ぜ、ぜひ! 私と付き合ってください!」
こうして、優柔不断な彼、北島緋里に人生初の彼女が出来た。
このことをきっかけに、彼の周りに青い嵐が強烈に吹き荒れることを、彼らはまだ知らない。
お読みいただきありがとうございました。
こちらの作品は続編を短編という形で書いていけたらと考えております。